新型コロナ“後遺症”に悩む女性のいま。2度の「陽性」、退院後も症状に悩まされている

日本呼吸器学会の横山彰仁理事長は「まずは、症状がなぜ生じているか精査を行ない、その結果に基づいて治療を考えることが必要です」と説明する。

新型コロナウイルスに感染した人たちが、退院後も継続して症状を訴えるケースが報告されている。

この“後遺症”については、厚労省が調査に乗り出している段階で、実態は明らかになっていない。

新型コロナに感染した新宿区の女性は、“後遺症”に苦しむひとりだ。

ハフポスト日本版の取材に応じ、「もう一度、昔の生活に戻りたい。何もなかった生活に戻りたい」と胸中や症状について語った。

写真はイメージです
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Boy_Anupong via Getty Images

「後遺症があるなんて....」

女性が退院したのは5月末。いまも、不整脈や息切れといった症状に悩まされているが、対処法は見つけられていない状態だ。

女性は2度「陽性」になった。

1度目は3月末ごろ。少し前から発熱や嘔吐、下痢が続いていた。

PCR検査を受け、診断は軽症。動悸や血管が浮き出る症状にも苦しめられ、“軽い”症状とは程遠かったという。

「こんなにつらいとは思いませんでした。 想像の50倍、100倍もつらかったです」

自宅待機から入院に移り、血液検査やCT検査を受けると、肺にかなりのダメージがあることが分かったという。

退院後、5月頭から息苦しさや不整脈が続くように。

「念のため」と5月上旬に受けたPCR検査は「陰性」。

微熱があったため、心配して受けた5月中旬の2回目で「陽性」となった。

「先生とも、まさか....と話しました。再発か再感染か分からない。コロナに対する効果が期待されている喘息吸入薬オルベスコを吸うよう言われました」

再び入院し、5月末に退院した。

新型コロナは、ワクチンや有効な治療薬の開発が進められている段階だ。“後遺症”にいたっては、厚労省が8月に実態調査に乗り出したばかり。

女性の場合、“後遺症”とみられる症状が出ていても、CT検査や血液検査の数値は正常の範囲内。そのため、自宅療養する以外に、有効な対処法が見つけられていない状態という。

「いまも仕事に戻っていません。よい時と悪い時の波がすごくあります。何もなく過ごせる時もありますが、悪い時は1日中頭痛、不整脈といった症状が出て、横になるしかない時もあります」

「不整脈があるので血液検査をしても、数値は正常な範囲内なので『治療するほどの症状ではない』と言われてしまいます。『気にせず過ごすよう』と伝えられるだけで、それ以上病院は取り合ってくれません。自宅で療養するしかありません」

女性はコロナに感染する前、不整脈や息切れといった症状がでたことはなかった。それなのに「もともとそういう症状があったのでは」という疑いの言葉すらかけられたという。

女性は「後遺症があるなんて知りませんでした。甘くみていた」とこぼす。

「インフルエンザのように思っていました。かかっても2、3週間で落ち着いて、仕事に戻れると思っていました。インフルエンザとは比べ物にならないぐらいつらい。コロナは風邪ではない。風邪でこんなことになりますか」

女性の周りにも新型コロナに感染し、同じように“後遺症”に苦しむ人がいるという。

「もう一度、昔の生活に戻りたい。何もなかった生活に戻りたい」と声を絞った。

新宿区の女性
新宿区の女性
本人提供

専門家「大多数の人で多様な症状が残っているという報告も」

新型コロナウイルス後遺症をめぐっては、一般社団法人「日本呼吸器学会」が、厚労省と連携して8月に実態調査に乗り出している

学会の横山彰仁理事長(高知大学医学部呼吸器・アレルギー内科学教授)がメール取材に応じた。

横山理事長によると、後遺症については不明な点が多いが、海外や日本でも、退院後も症状を訴える患者が相次いで報告がされているという。

「イタリアからの報告では、退院して1カ月ほどの時点で大多数の人で多様な症状が残っているとのことでした。全身のけん怠感がおよそ5割、息切れ呼吸困難がおよそ4割に、関節痛、胸痛、においが分からなくなるなどです」

「日本で聞いている具体的な症状としては、発熱が続くとか、頭痛、睡眠障害など比較的軽いものから、呼吸不全で息苦しくて酸素吸入が必要になったり、腎不全で透析を受けねばならないといった重篤なものもあるようです」

一方で、どんな症状がどのくらいの頻度で起こるのかや、コロナの重症度との関連性などはまだ明らかになっていないという。

横山理事長はそう断った上で、コロナ後遺症は一般的に「2つ要因」が考えられると説明する。

「一つは、病院や施設で長期に閉じ込められたという精神的ストレス(あるいはPTSD)や長期臥床による身体的影響、こういった環境的な因子です。

もう一つは、ウイルスによる直接的あるいはサイトカイン(※1)による間接的な影響です。肺炎、血管内皮細胞障害や心筋障害とその影響が考えられると思います。重症の肺炎が肺の線維化を残して治癒することもあり、これが呼吸不全、息切れや不整脈の原因になっていることも考えられます」

新宿区の女性の場合、有効な対処方法が見つけられていない状態で、自宅療養が続いている。治療法が確立されていない中で、どう対処すればいいのか。

横山理事長は「まずは、症状がなぜ生じているか精査を行ない、その結果に基づいて治療を考えることが必要です」と説明する。

「呼吸不全や筋力低下による症状であれば、包括的リハビリテーションが有効でしょうし、精神的な因子が大きいようなら一時的に抗不安薬などを用いることも有効だと思います。いずれにしても、症状を完全になくすことができなくても、症状を和らげるような対症的な治療は可能だと思います」

後遺症について明らかにするためにも、日本呼吸器学会は医師や患者に対して「後遺症調査・研究にご協力いただきたい」と呼びかけている。

(※1) 「サイトカイン」は細胞から分泌されるタンパク質。何らかの理由で「サイトカイン」が過剰分泌されると、免疫システムが暴走し、細胞を傷つけることがある。この現象は「サイトカインストーム」と呼ばれ、新型コロナ重症化を引き起こす一因とも言われている。

横山彰仁理事長
横山彰仁理事長
本人提供

女性の症状・感染の経緯(取材をもとに作成)

3月25日:体のだるさや眠気、微熱(37.2度)

3月28日:熱が下がる

3月29日:おう吐、下痢。発熱(39度)

3月30日:食事の味がしない

3月31日:PCR検査

4月2日:結果は「陽性」。入院先が決まらず自宅待機

4月3〜4日:動悸や手の血管が浮き出る症状

4月8日:国立の病院に入院

4月10日:軽症者受け入れ病院に転院

4月23日:2回目の陰性が出て退院

5月頭:息苦しさ、不整脈

5月8日: かかりつけの病院を受診。CTや血液検査、PCR検査

5月10日:結果は「陰性」

5月18日:微熱で再度受診。血液検査、心電図、PCR検査

5月20日:結果は「陽性」

5月21日:再入院

5月末:退院

当時の基準では、発症日から10日間経過する前に症状軽快した場合、軽快後24時間経った後と、そこからさらに24時間以上間隔をあけて計2回のPCR検査を受けて陰性となれば、退院可能だった )

退院後も、不整脈や息切れといった症状に悩まされている。

ハフポスト日本版では、新型コロナや“後遺症”について取材しています。ご自身の体験を語ってくださる方がいましたら、rio.hamada@huffpost.jpまでご連絡をお寄せください。

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