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2020年08月25日 15時36分 JST | 更新 2020年09月06日 11時09分 JST

LGBTに「ウチの会社は理解があります」 知ったつもりの言葉に隠れている“本当の偏見”

理解しているようで分かっていない「LGBT」に関する知識。人事担当者が知ることをやめないために考えたいこと。

LGBT(Q)が働きやすい職場作りに取り組む企業が増えてきている。

経団連の調査(2017年)によれば、約76%の企業がLGBTに関する取り組みを実施・検討しているという。

「ウチの会社はLGBTに理解があるから」。そんなことを言う人事部の担当者もいるかもしれない。

だが、最近では大手ビジネスメディアの人事部向けのLGBT特集記事が批判を受けるなど、まだまだ理解が進んでいない部分もある。

LGBT向けの就職支援サイトを運営する株式会社JobRainbow CEOで、自身がゲイであることを公表している星賢人さんに聞いてみた。

会社の担当者が多様な性について、学び続けるためにはどうしたら良いですか?

Jun Tsuboike / Huffpost Japan
星賢人さん(2019年4月撮影)

老舗ビジネスメディアの「LGBT記事」への批判。そこから学べることとは

「いま、企業の人事部が知っておきたいLGBTのこと」。大手ビジネスメディア「ダイヤモンドオンライン」が8月18日に掲載したこの記事に、批判の声が上がった。問題とされたのは、LGBT当事者のカミングアウトに関する記載だ。

メディア側は8月24日、記事について《人事部が最大配慮すべきは「当事者に不利益を生じさせないこと」という意図でしたが、誤解を招く表現になりました》と訂正を加えている。

星さんは「多くの人達からの声を受けとめて、記事の修正を行ったということは、メディアのあり方として素晴らしいと思います」と話す。一方で、元々の記事から「社員がカミングアウトをするかどうかを企業が方針を決める」という考えが感じ取れたのは「差別的」であり、これを機にカミングアウトのことを企業の管理職や人事担当者らに知ってほしいという。

Huffpost Japan
インタビューに応じる星さん

「企業が“カミングアウトの方針”を決める」その背景にある“差別”

まず前提として、カミングアウトをする/しないは、当事者の意思の問題であり、いずれの選択にも企業が介入するべきではない。

そして、そもそも私たちは、普段から「カミングアウト」をしている人がほとんどだろう。ここで言うカミングアウトとは家族や恋人など身近な関係を公表することだ。

星さんはこう話す。

「同僚同士、職場でのちょっとした雑談で、家族や妻・夫、恋人の話をするのはとても自然なことだと思います。結婚や出産の際は、上司や人事に、結婚祝い金やハネムーン休暇、家族手当など福利厚生の申請をするのが普通です。それは決して、“カミングアウト”とは見なされません。しかし、同様のことをLGBTQがした途端に、“カミングアウト”として捉えられてしまうんです」

企業が「カミングアウト」に対して何らかの方針を決めることは、社員が家族やパートナーについて自由に話す権利に大きく関わってくるのではないか。

星さんはそんな問題意識を投げかける。

パートナーの看護や介護などが発生したときに…

また、LGBT当事者が積極的にセクシュアリティを公表していないケースでも、安心して働き続けるために職場にセクシュアリティを伝える場面も出てくるだろう。

たとえば、LGBTの当事者に同性パートナーがいるケース。カミングアウトができなければ、相手の看護や介護などが発生したときに、職場に状況を伝え、サポートを求めることもできない。

さらに、職場での人間関係が性的マジョリティであることを前提に進んでしまうことは、当事者を精神的に追い詰めることになりかねない。

「好きな異性のタイプ」で盛り上がるマジョリティ社員の輪のなかで、「気が気でない」思いをしている当事者がいるかもしれないのだ。

星さんは「それが職場での疎外感や罪悪感を生み、当事者を苦しめる原因にもなり得ます」と指摘する。

Javier Zayas Photography via Getty Images
イメージ写真

企業がLGBTに関する取り組みをする際に大切にしたい3つのポイント

では、企業はどんなことに取り組めばいいのか。「知ったつもり」にならないため、学び続けるためにはどうしたらいいのか。星さんへの取材から、印象に残った「3つのポイント」を紹介する。

■ポイント1: 差別禁止を明文化しよう

LGBTに関する知識は社員同士で違う。中には「会社で話し合うにはまだ早い」と思う人事担当者もいるかもしれないが、大切なのは「性的指向や性自認に基づく差別の禁止」を企業方針と職場の規則などで明文化することだという。

会社の姿勢を明確に打ち出すことは、当事者の心理的安全性の担保に繋がるだけではなく、非当事者社員の行動指針にもなる。社内で差別的な言動を発見した際にも「注意を促す」などの行動が起こしやすくなるからだ。会社として明確な姿勢を打ち出さないと、学びあいも始まらない。

ポイント2: アウティングには細心の注意をしよう

本人の同意なく第三者にセクシュアリティを暴露する「アウティング」は、最も気をつけるべきことの一つだ。セクシュアリティは個人情報であり、開示する/しない を決める権利は本人のみが持つ。

過去には、一橋大学でゲイの大学院生がアウティングを理由に転落死する事件も起きた。アウティングは、当事者を命の危険にさらすほど重大なものだと理解することが大事だ。

企業においては、当事者社員とコミュニケーションを取る際や、LGBTQ向けの相談窓口を設ける際などは、とりわけ以下のポイントを注意するといいという。

<アウティングを防ぐために気をつけたいポイント>

・相談窓口では1人の相談者に対し1人の担当者、という形で情報共有範囲を限定する

・必ずしも個人情報を公開していなくても相談できる(匿名でもOKなど)

・相談を直接受ける際は、ひと気のない会議室や社外の個室など、他社員の目に触れない場所を用意する

・相談者の許可なく個人情報を外部や社内の人間と共有しない

・個人情報の共有が必要な場合は

どの情報を共有するのか

なぜ共有する必要があるのか

誰に共有するのか

共有する手段

といった点について相談して同意を取る

(参考:星さんらが作成した「LGBTフレンドリー企業マニュアル」より)

■ポイント3:社員の「自分ごと化」をゴールにしよう

社内のLGBT研修や施策も、最終的なゴールは「ダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(それを受け入れること)」を目指すことが求められている。

たとえばLGBT研修では、非当事者も多様性を「自分ごと」として考える機会を作りたい。

JobRainbowで研修をする際は、参加者に自分のセクシュアリティを見つめ直してもらうワークショップをするそうだ。そもそもセクシュアリティとは白か黒かではなく、グラデーション。性的マジョリティと自覚していても、自分の中にある「性の多様性」に気付くことで、LGBTの当事者を「自分たちの延長性上にいる存在」と捉え直すことができるのだという。また、こうしたインクルーシブな研修であれば、LGBTQ当事者も疎外感や居心地の悪さを感じにくい。

LGBTだけではなく、職場には外国人や障がい者、介護や育児の事情を抱える人など、様々な多様性がある。様々な多様性を尊重できる職場作りを目指したい。 

株式会社JobRainbow提供
LGBT研修で使用する資料の一部。セクシュアリティを4つの要素から考えるワークショップで使用するという。

間違えることを恐れすぎないで

最後に星さんは「正しい知識を学ぶのはとても大切だが、間違いを恐れすぎないでほしい」と話した。

星さんが様々な企業と接している経験からすると、LGBTなどダイバーシティへの取り組みで、間違えるリスクを恐れるあまり、積極的なアクションに踏み切れない企業もあるという。

しかし完璧ではなくてもまずは取り組んでみることが大切だ。たとえ「自分たちはすでに色々知っている」と思っても、分からないことを学び続ける姿勢や、相手のことをさらに知ろうとする態度が変化をもたらす一歩になる。

「人間誰しも偏見を持っていて、間違えをする可能性がある。それは企業も個人も同じです。そこで大切なのは、常に『これは正しいか』と自問自答し、仮に間違えてしまったら反省して改善していくこと。そういう姿勢が今社会で必要とされていると思います」

▶︎さらに詳しい情報については、JobRainbow「LGBTフレンドリー企業マニュアル」もご参照ください