日テレの会議室でカミングアウトしたあの日。news zeroプロデューサー白川大介さんが考える、当事者であり制作者であること

「当事者であることが、テレビ局で働いている自分の仕事に活かせるかもしれないと思った時、カミングアウトしようと思いました」
日本テレビ「news zero」プロデューサーの白川大介さん
日本テレビ「news zero」プロデューサーの白川大介さん
Kazuhiro Matsubara/ハフポスト日本版

社会のLGBTQに対する関心が高まりつつあった、2018年の春。

日本テレビで、ゲイであることをカミングアウトした社員がいる。白川大介さん、当時37歳。社会部の記者だった。

ゲイであることはそれまでも、身近な友人や同僚には打ち明けていた。だから、この場でカミングアウトすることも、自分は平気だと思っていた。

この日、日テレの2階にある一番大きい会議室には、約200人の社員が集まっていた。社員を対象にした、「LGBT研修」が始まった。

司会者から「それではどうぞ」と言われ、白川さんはマイクを持ってしゃべり始めた。

「報道局の白川大介です。まず、今なぜ僕がみなさんの前に立っているか、疑問に思っている人もいると思うので、最初にお伝えしておきます。実は僕は…」

そこまで言ったところで、言葉が止まった。思わぬことに、自分の声が震えていた。少しの沈黙の後、続けた。

「僕自身がゲイの当事者です。制作者かつ当事者として、自分に伝えられることが少しでも研修の役に立てばいいなと思い、今回お手伝いさせていただくことにしました」

白川さんは、研修の講師を務めるオープンリーゲイでアクティビストの松中権さんの聞き手役に立候補。この日、大勢の社員の前でカミングアウトした。

会議室は静まり返っていた。社員は皆、淡々と話を聞いていた。

白川大介さん。あの日のことについて、話してくれた。
白川大介さん。あの日のことについて、話してくれた。
Kazuhiro Matsubara/ハフポスト日本版

あれから3年。

白川さんは現在、報道番組「news zero」のプロデューサーとしてカルチャー分野を主に担当している。

今年からは、「社会と私たち自身の価値観のアップデート」をテーマにした生配信番組「Update the world」をスタートさせた。多様性やSDGsを軸に据えている。自ら企画し、社内の有志メンバーも加わって、日本テレビの地上波報道番組として初めてのライブ配信に挑戦している。

上野千鶴子ゼミで学んだ、個人のモヤモヤの裏にある「社会構造」

中学1年生の頃、自分がゲイであることに気付いた。男友達に対する気持ちが、友情を超えた恋愛感情だったからだ。

テレビを見ても、雑誌を見ても、図書館に行って本を読み漁っても、一緒に楽しく生きているのは、男女の組み合わせばかり。男性同士で堂々と楽しく生きている人たちはいなかった。

「当時は、ゲイとして生きるロールモデルがほとんどいなくて、このまま大人になったら、どうやって生活していくんだろうということがわからなかった田舎の中学生でした」と振り返る。

大学受験を控えた高校時代、たまたま手に取った本がジェンダー論を研究している社会学者・上野千鶴子さんの著書だった。それまでパーソナルな悩みだと思っていたセクシュアリティに関することが、学問として研究の対象になることを初めて知り、衝撃を受けた。

自分のセクシュアリティのことをもっと知りたい。受験勉強に励み、難関・東京大学に進学。上野千鶴子ゼミの門を叩いた。ジェンダーだけに関わらず、あらゆる社会課題の根本にあるのは、社会構造であることを学んだ。

就職活動では、テレビ局を選んだ。昔から人を楽しませたり、何かを伝えたりすることが好きだったし、それまで学んできた「社会構造を見る視点」を生かせるかなと思った。

20代の大半は、バラエティー番組でひたすら全国各地をロケする旅生活を送り、その後は情報番組などのプロデューサーを務めてきた。

相変わらず、普段目にするテレビや雑誌などでは、ゲイが笑いのネタや嘲笑の対象として描かれることが多かったが、気づけばもう傷付かなくなっていた。嫌だなと思うことはあったが、それはもう変えられないものだと思い込んでいた。

まずは、自分の手が届く範囲から

大学時代から身近な人にはゲイであることをオープンにしていたという白川さん。日本テレビに入社してからも、身近な同僚や上司だけには打ち明けていた。

一方で、カミングアウトしていない相手へのコミュニケーションでは、難しさを感じていた。

「例えばテレビ番組でのジェンダーや性的マイノリティに関する表現で違和感を感じた時。こういう表現の方が良いと思うよ、と言ったら『なんでそんなこと知ってるんですか?』『やたらこのジャンルには細かいな』『この人もしかして…』って思われるんじゃないかと、色々迷いましたね」

だからこそ、いつも相当な“下準備”をして伝えた。

「僕自身の考えとして言うのではなく、どこどこの研究機関がこういうことを言っていて、だからこうした方が良いと思いますって。根拠を探してくるようにしていました。毎回、下準備をしてから伝えるもどかしさは感じていましたね」

「セクシュアルマイノリティである人をできるだけ傷つけたくないっていう思いはあったので、まずは自分の手が届く範囲から、自分が当事者だと明かさなくてもできることを頑張ってやってはいました」

当たり前のことを伝えるのに、伝える側が綿密に工夫をしなければならない社会のリアル。それでも、万人に向けて発信するテレビという仕事をしているからこそ、「できることからやらなくては」と責任を感じていた。 

白川大介さん。これまでの葛藤についても話してくれた。
白川大介さん。これまでの葛藤についても話してくれた。
Kazuhiro Matsubara/ハフポスト日本版

 当事者であることを隠して、取材はできない

その後、たまたま報道局へ異動することになった。2017年。社会ではLGBTQへの関心が高まり、報道も増えてきたタイミングだった。自分も当事者に取材がしたい。

でも、当事者であることを隠したまま、取材はできない…。

「LGBTについて取材をしたいと思いつつも、自分はそうじゃないような顔をして、当事者に踏み込んだことを聞くのは難しいなと思いました。自分がゲイだからこそ思うのは、取材される側は、記者のことを“非当事者”だと思っている場合が多く、取材を受けることに少なからず不安があると思いました」

そこで、当事者に取材の際は、自身も当事者であることを一言添えるようにした。

報道局へ移動して数ヶ月後。冒頭の、日本テレビ社内での「LGBT研修」が行われた。

テレビ局で番組制作を仕事にしているからこそ、意味があると思ったという。メディアは、時に差別や偏見を助長する負の側面もあるが、その一方で、新しい社会やあるべき社会を見せていけるポテンシャルがある。

「20代の頃は、自分が当事者であることと仕事は関係がないと思っていました。当事者であることとは別に、プロとして仕事をすればいい。でも、多様性が必要とされる社会で、自分が当事者であることが業務に活かせるかもしれない、それが世の中のためにもなりうるかもしれないと思った時、公表を決めました」

白川さんが知る限りでは、ゲイをカミングアウトした社員は初めて。みんなの反応が不安だったが、ザワつくことなく、静かに聞いてくれたという。

「研修の直後、数人から個人的に連絡がきました。『研修聞いていましたよ』とか『ためになりました』とか。それがすごく嬉しかったです」

カミングアウトしてからは、番組で疑問に思う表現があれば、「こう表現した方が良いと思うよ」と言えるようになった。さらには、部署や番組の垣根を超えてLGBTQに関する表現の相談がくるようになったいう。

「news zero」のスタジオにて
「news zero」のスタジオにて
Kazuhiro Matsubara/ハフポスト日本版

社会にはロールモデルが必要だ

カミングアウトの背景にはこんな思いもあった。

かつて10代の頃に、“いない”と思っていたロールモデルになりたいということだ。

白川さんが社内でカミングアウトしたきっかけの一つに、すでに社内でトランスジェンダーであることを公表していた先輩の存在があった。

「トランスジェンダーとゲイで事情は違いますが、性的マイノリティを公表していた先輩がいたことは、僕にとってはすごく心強かったです。自分がそれに続いて公表することで、さらにその後に続きやすくなるのではないかと思いました」

当然、カミングアウトするかどうかは、本人の自由。その上で、これから会社に入ってくる人や、すでに会社にいる人が、「言っても大丈夫そうだな」と思える環境になったら嬉しいと話した。

そして何より、マスコミの中で当事者がカミングアウトすることに意味があると考えていた。

「近年、メディアではLGBTに関する報道やコンテンツが増えてきています。社会にはこれだけいることを伝えているのに、社内にはほとんどいないように見えている。マスコミで働く仲間たちに、その歪さに気づいてほしい。自分の存在がきっかけで『あなたがいるところにも、いるよ』と感じてもらえたらいいなと。そうすることで、一人一人が社会に発信する情報やコンテンツを変えていけると思っています」

もちろん、みんながカミングアウトできるわけではない。白川さんは「もし今、自分が20代前半だったら、なかなか社内で声を上げられなかったと思う」という。

「自分の年齢が上がったこと、プロデューサーという立場であること、社会の流れ、全てによって今の環境があるのかもしれません。だからこそ、自分の存在が他の人の選択肢を少しでも増やすことにつながるといいなと願います」

一人一人の意識をアップデートしていきたい

白川さんが企画し、今年から始めたネットの生配信番組「Update the world」。次回の配信では「ジェンダーバイアス」をテーマとして取り上げる。

「男は外で仕事をするべき」や「家事・育児は女性がするもの」といったジェンダーに基づく差別や偏見は、意図せずともこれまで生きてきた中で培われた無意識で無自覚であるものが多い。

白川さんは、「年齢や性別に関係なく、全ての人に見て、考えて欲しい」という。

「ジェンダーバイアスについては、“年配の男性”の問題ではなく、少なからず全ての人の中にある問題だと思っています。“女子力”という言葉に代表されるように、つい使いがちな日常会話から、楽しく考えていける番組にしたいですね」

白川さんが手がけるネット配信番組「Update the world」
白川さんが手がけるネット配信番組「Update the world」
提供:日本テレビ

<白川大介さんのプロフィール>

日本テレビ報道局文化生活部プロデューサー「news zero」担当。2004年入社。「ザ!鉄腕!DASH!!」などの人気バラエティー番組や「ZIP!」などの制作に携わる。2017年に報道局に異動。社会部の記者経験を経て、現在はプロデューサーとして「news zero」のカルチャー分野などを担当。

「Update the world」番組概要:

zero水曜パートナーの辻愛沙子さんやゲストと一緒に価値観をアップデートしながら、やさしい社会のヒントを探すトーク番組です。今回は、日常会話の中にある「ジェンダーバイアス」について、ゲストの皆さんと一緒に考えます。

配信日時:327日(土)夜7時~

公式HP:

https://www.ntv.co.jp/utw/

配信URL:

news zero公式Twitter(@ntvnewszero):

https://twitter.com/i/broadcasts/1YpJkzERearGj

TVer:

https://tver.jp/corner/f0070279

(番組は無料です)

ハフポスト日本版の生配信番組「ハフライブ」では、2021年の年間テーマとして「SDGs」を掲げた番組をお届けしています。

こちらからアーカイブ視聴できます↓

https://www.youtube.com/channel/UCPXoFTnS4SKXXxw2cdEHgvQ

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