これからの経済
2021年04月15日 15時05分 JST | 更新 2021年04月16日 13時27分 JST

手をつかんだまま、トイレも監視「まるで犯罪者」 技能実習生の強制帰国、スタバやファミマは否定

サプライチェーンにおける人権侵害は、「ビジネスと人権」の国際基準にも反している。

「社長はもう要らないと言っている」

技能実習生として来日したカンボジア人の女性は、ある朝突然、監理団体の職員から荷物をまとめるよう指示された。手をつかまれ、車に押し込められた。

空港までの移動中はトイレに行くのも監視され、「まるで犯罪者のような扱い」を受けた。

これは、強制帰国をさせられたと訴える女性の証言だ。

8人のカンボジア人技能実習生が2016年、受け入れ先の企業などから強制帰国させられ、人権侵害を受けたとして、支援団体が謝罪や補償を求めている。実習生たちの受け入れ先は、スターバックスやファミリーマートなどに食品を提供するサプライヤーだ。

支援者たちは、受け入れ企業や監理団体だけでなく、実習生を直接雇用していたわけではないスタバやファミマの責任も追及している。「サプライチェーンの中で起きた人権侵害は、取引先の企業も責任を負うのが国際的な常識」だと訴えている。

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カンボジアからオンラインで記者会見に臨み、帰国を強いられた当時の状況を証言する女性たち

どんな事案だった?

実習生たちを支援するNPO法人「POSSE」によると、8人の実習生は現地の送り出し機関を通じて派遣された。実習生や受け入れ企業へのサポートを担う監理団体は「全国中小事業協同組合」で、食品を製造・販売する「トオカツフーズ」が受け入れ先だった。トオカツフーズの主要販売先には、スターバックスコーヒージャパンやファミリーマートがある。

実習生たちは来日から約半年後の2016年春、突然強制帰国させられたと訴える。POSSEによると、8人中4人は、帰国への同意書の内容を理解しないままサインをさせられた。そもそもサインをしていない実習生もいたという。

POSSEは、トオカツフーズの元従業員から2020年秋、別の労働問題の相談を受けた際に今回の強制帰国についても情報提供を受けた。

実習生の女性によると、ある朝、監理団体と送り出し機関の職員が寮に押しかけ、他の実習生2人とともにパスポートを取り上げられた。移動中は逃げないよう見張られ、トイレに行く時も手をつかまれていたと証言する。

帰国を強いる理由を女性が尋ねると、「(母国語の)クメール語の読み書きができないから」と説明されたという。

渡航費用や仲介手数料を工面するため、女性は来日前に借金をしていた。最短でも3年間の契約だったが、半年で帰国することになり多額の借金を背負うことになった。

2021年3月、カンボジアからオンラインで記者会見に参加した女性は「どうしても納得いかず、とても苦しかった。借金が残り、精神的にまいって自殺も考えた」と打ち明けた。日本からの仕送りをきょうだい4人の教育費用に充てるはずだったが、きょうだいたちは中退を余儀なくされたという。

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POSSEメンバーの大学生。記者会見で、「同じ社会の一員として当たり前にいる存在が人権侵害にあっていることに怒りを覚える」と訴えた

「意に反した事実はない」

受け入れ企業は、実習生たちの訴えをどう受け止めているのか?

トオカツフーズは、ハフポスト日本版の取材に書面で答え、「本人の意に反して強制帰国させた事実はない」と否定した。

同社は帰国の理由について、来日後にクメール語の読み書きができないことが判明したため「技能実習の継続は困難」と判断。「監理団体に相談した結果、実習生の合意を得て実習を中止し帰国するとの提案があり了承した」と説明する。

母国語の能力を契約打ち切りの理由としたことについて、POSSEの佐藤学さんは、「入国する前に、トオカツフーズの担当者が現地で面接をしている。採用前に語学力を確認するタイミングは何度もあったはずで、その説明では理屈として通らない」と反論した。

トオカツフーズの親会社「日清製粉グループ本社」も、ハフポスト日本版の取材に「当該監理団体による強制帰国にあたる事実は確認されておりません」と答えた。

 

スタバ「法的な問題ない」

さらに支援者らが問題視したのは、トオカツフーズと取引関係にあるスターバックスコーヒージャパンやファミリーマートの対応だ。

スターバックスコーヒージャパンは、「外部の専門家による調査の結果、当該サプライヤー(トオカツフーズ)の当時の対応については、法的な問題があったとは認められませんでした」とのコメントを発表した

具体的な調査内容については3月、取材に「あくまでも直接的な関係のあるトオカツフーズに対して、事実確認と監査を行うことが役割であると認識しています」と答えた。

ファミリーマートは同月、強制帰国という人権侵害行為があったかの認識については「答えられない」とコメントした。

Getty、時事通信社
スターバックスとファミリーマートの店舗

支援団体が、実習生を直接雇用していたわけではないスタバやファミマに対しても責任を追及する背景には、原材料の調達から製品が消費者に届くまでのサプライチェーンの中で行われることに対する企業の社会的責任を問う動きが、国際社会で広がっていることがある。

国連人権理事会で2011年に採択された「ビジネスと人権に関する指導原則」(以下、指導原則)では、人権を尊重する責任として企業に次のような行為を求めている。

・人権に負の影響を引き起こしたり助長することを回避し、そのような影響が生じた場合には対処する

・取引関係によって企業の事業、製品またはサービスと直接的につながっている人権への負の影響を防止または軽減するように努める

スターバックスコーポレーション(アメリカ)も、「グローバル人権宣言」の中で指導原則を遵守することを明記し、サプライチェーンにおける人権侵害や違法行為を認めない方針を示している。

ファミマも、自社サイトで「サプライチェーンにおける人権の尊重、社会規範の遵守」を謳っている。

 

専門家は「不十分」と批判

ビジネスと人権の問題に詳しい大阪経済法科大の菅原絵美・教授(国際人権法)は、今回のスタバやファミマの対応について「実習生から声が上がったにもかかわらず、受け入れ企業側に事実確認をしただけで、詳しい調査結果も公表せず説明責任として不十分。指導原則上の責任を果たしているとは言えません」と指摘する。

「加えて、スターバックスは『法的に問題はなかった』と主張していますが、そもそも指導原則は法的問題に限らず、社会的責任を問うものである点でも認識が誤っています。実習生から苦情や訴えがあった場合、受け入れ企業とともに問題に取り組み、侵害行為を是正・救済していく責任がある、と定めているのです」

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強制帰国問題、関係する団体は?

海外では情報開示が法律に

企業が人権に与える悪影響やリスクを特定し、防止や対処をするためのプロセス「人権デューデリジェンス」を重視する動きは、国際的に広がっている。

サプライチェーン内の労働者に対する人権侵害を防止するための法整備も、ヨーロッパを中心に進んでいる。

2015年にはイギリスで「現代奴隷法」が成立し、企業に対してサプライチェーン上の人権侵害(現代奴隷)を根絶するための取り組みの情報開示を義務付けた。その後、フランス、オーストラリア、オランダでも同様の法律ができた。

「現代の奴隷制」と批判を浴びる日本の外国人技能実習制度。低賃金や過重労働など、制度のもとで頻発する実習生への人権侵害は、国際社会でもたびたび非難されてきた。

アメリカ国務省の人身売買報告書は2007年以降、制度の問題を繰り返し批判。日本政府は国連からも改善を求める勧告を受けている。

こうした海外の流れを背景に、菅原さんは「SDGsの取り組みの中で、ビジネスと人権はまさにその中核」と強調する。「技能実習生の人権問題に適切に取り組まなければ、いくら企業がSDGsに力を入れているとアピールしても、いわゆる“SDGsウォッシュ”となりかねません

 

消費者にできること

私たちの日常に身近な企業の人権問題に、いち消費者としてできることはあるのだろうか?

POSSE事務局長の渡辺寛人さんは「食品や飲食業、コンビニ、ファッションなど私たちの生活の根幹は、技能実習生たちの労働の上に成り立っています。実習生の労働環境と私たちの暮らしは、決して無関係ではありません」と話す。

消費者として、製品の生産のあり方に目を向ける必要があります。実習生が自らの権利を求めて声を上げたとき、人権侵害を行う企業に対して消費者からもNOの意思を示すことが重要です。消費者と労働者が連帯し、サプライヤーと提携する大手企業に対しても、取引先としての社会的責任を追及していくことで、労働環境の改善に取り組まざるを得ない流れをつくっていくことが大切です

(國崎万智@machiruda0702/ハフポスト日本版)

【訂正】2021年4月16日13:25
強制帰国をめぐって、技能実習生側とスタバやファミマの主張が異なっていることから、タイトルを一部訂正しました。