金融21社が共同署名、社会課題解決に「意図」をもって取り組む。男性ばかりの会見に「ジェンダー平等、タイムラグあるが実現されていく」

「インパクト志向金融宣言」に金融機関21社が署名。「宣言だけで終わりとするのではなく活動を通してインパクト投融資を発展、進化させていくためのプラットフォームとしていきたい」(松原稔・りそなアセットマネジメント責任投資部長)
「インパクト志向金融宣言」記者発表会
「インパクト志向金融宣言」記者発表会
社会変革推進財団提供

三菱UFJ銀行、第一生命保険など金融機関21社が、投資や融資などを通じて環境・社会課題の解決を目指す「インパクト金融」に共同で取り組んでいくことを発表。「インパクト志向金融宣言」に11月29日、共同署名した。

財務的なリターンだけを求めるのではなく、社会課題解決にどんなインパクトを出したのかを計測・評価する投融資などを通じて、金融業界から社会課題の解決を目指す。

今回の宣言の準備機関にあたる起草委員会を主導した、りそなアセットマネジメント責任投資部長の松原稔氏は29日の会見で、「(インパクト金融の)裾野を広げていくことと、実効性を高めていくこと。一見相反する2つをこの宣言の中でどう両立させていくかがポイント。宣言だけで終わりとするのではなく活動を通してインパクト投融資を発展、進化させていくためのプラットフォームとしていきたい」と語った。

一般社団法人・社会変革推進財団(SIIF)が事務局を務め、年に1度の代表者総会と3ヵ月ごとの活動報告会などを実施し、インパクト金融における測定や実践の知見、ノウハウを共有していく。

署名した金融機関から7名が挨拶した。また、宣言主旨説明に登場した三井住友トラスト・ホールディングスのチーフ・サステナビリティ・オフィサーの金井正氏(左から2番目)とりそなアセットマネジメント責任投資部長の松原稔氏(左から3番目)
署名した金融機関から7名が挨拶した。また、宣言主旨説明に登場した三井住友トラスト・ホールディングスのチーフ・サステナビリティ・オフィサーの金井正氏(左から2番目)とりそなアセットマネジメント責任投資部長の松原稔氏(左から3番目)
社会変革推進財団提供

「ESG投資」と何が違うの?

インパクト金融の枠組みでは、気候変動対策などのグローバルな課題や、少子高齢化などに関連した地域ごとの課題の「解決」が、事業への投融資の目的として設定される。そして、例えば気候変動なら、CO2排出削減量などの数値が測定や評価に用いられる。

環境・社会課題への取り組みや、公正な企業統治(ガバナンス)がなされているかに配慮しながら投融資を行う「ESG投資」が世界的にも普及してきているが、インパクト投資はそれと何が違うのか。

松原氏は「金融機関側のインテンション(意図)」だと説明する。

ESG投資が「社会課題に配慮した経営を行っていない企業は、中長期での企業価値向上やひいては投資リターンが見込みにくい」という発想であるのに対して、インパクト投資は、金融機関側が意図を持って社会課題の解決を目指し、投融資を行う点が大きな違いだ。

またESG投資では、ポジティブなインパクト、ネガティブなインパクトともに測定や可視化が行われないケースも多いが、インパクト投融資ではその名の通り、インパクトの測定や運用が必須となる。

現在、国内のESG投資の規模がおよそ310兆円(世界でおよそ3900兆円)であるのに対して、インパクト投資の規模は2020年に5126億円と、ESGの0.2%弱にとどまっている。宣言に署名した金融機関がそれぞれ規模の拡大を目指していく。

それぞれの立場から「インパクト金融」に意気込み

共同署名に合わせてひらかれた会見には、18機関17名の代表者が参加。それぞれの立場や強みに基づき、今後どのようにインパクト金融に取り組んでいくかを語った。

第一生命の稲垣精二社長は、今回の共同署名に賛同した理由として、1902年に同社が日本初の相互会社(株主ではなく保険契約者が会社の所有者という形態)として誕生した経緯を「我々は国民の生活の安定と財産形成という、当時の社会課題の解決を目指して設立したベンチャー企業でした」と語り、「創業当時から社会にポジティブなインパクトを及ぼす企業に投資をしてきた我々がこの宣言に賛同することは必然」と語った。

京都信用金庫の榊田隆之理事長は、地域の金融機関として豊かなコミュニティのあり方に向き合ってきた歴史にもとづき、すでに取り組んでいるインパクト志向金融の実践をさらに強めたい考えを語った。

事業規模が小さい企業や、実績の少ないスタートアップなど「金融弱者」とも呼ばれる事業者にしっかり金融包摂を施すことが「(同社の)インパクト金融志向の一丁目一番地」だといい、「これに徹していきたい」と述べた。

ミドリムシを原料とした食品開発などに取り組むバイオベンチャー・ユーグレナのCEOであり、ベンチャーキャピタル「リアルテックホールディングス」代表を務める永田暁彦氏は「次世代のサイエンス、テクノロジー、アントレプレナーを支える人たちが少なすぎると感じていた」と事業サイド側からの見た金融業界の課題を共有。これを解決するためにリアルテックを創業したと語った上で、「我々はインパクト志向ではなくインパクト絶対主義」「規模感は(他の金融機関に比べて)小さいが、純度100%で目指していく」と意気込んだ。

会見場のジェンダーギャップには…?

金融業界から社会課題の解決をはかるインパクト投資だが、SDGs17のゴールの中でも日本の遅れが特に指摘されている「ジェンダー不平等」の問題についてはどう考えているのか。

「会見に登場した各金融機関の代表者も男性ばかりに見えるがどう考えるか」というハフポスト日本版の質問に対して、松原氏とともに起草委員会の運営を主導した三井住友トラスト・ホールディングスのチーフ・サステナビリティ・オフィサーの金井司氏は、「ジェンダー平等はメインの社会課題の一つ。すでに金融機関が取り組み始めているインパクトファイナンスの中にも解決すべき課題として入っており、そもそも多くの企業の経営におけるマテリアリティ(重要課題)の中に必ず入ってくる。トップが集まる壇上に表れているかと問われると、時間がかかる部分もありタイムラグがあるが、今の状況から(あるべき状況が今後)実現されていく」と応じた。

松原稔氏は「若い世代の方たちには、この宣言は私たち親世代から将来世代に向けてよりよい未来にしていくための決意表明だと理解していただきたい」「SDGsの基本理念は『誰一人取り残されない』であり、弱い立場にある女性・女児にどう手を差し伸べるのかも重要な課題だ。金融としてその枠組みにしっかり向き合っていきたい」と語った。

インパクト金融については、SDGsやESG投資同様、見せかけだけで内実が伴わない「ウオッシュ」への懸念もある。プロセスや評価の透明化を強化し、アカウンタビリティ(説明責任)を果たしていくことがますます求められる。

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