雇用保険料、10月から引き上げ。いくら上がる?理由は?知っておきたい防衛手段【解説】

「雇用保険」とは、失業した際などに給付を受けられる公的保険の一つ。10月から労働者が負担する保険料が引き上げに。一体なぜ?いくら上がる?加入のメリットは?専門家に聞きました。

失業した際や育児のために休業した際に給付を受けられる公的保険の一つである「雇用保険」。10月から、労働者が負担する保険料率が引き上げられました。引き上げられる金額や、背景、仕組みについて、お金の専門家で「日本金融教育推進協会」代表理事の横川楓さんに聞きました。

【目次】

1.保険料、なぜ引き上げられる?

2.いくら引き上げられる?

3.雇用保険の加入対象者は?

4.雇用保険のメリットは?

5.手取りが減る中、どうしたらいい?

雇用保険料、引き上げの理由は…

なぜ引き上げられることになったのか。横川さんは、「新型コロナウイルスの感染拡大」の影響を指摘します。

「感染拡大防止のために休業していた飲食店や、業績の悪化によってやむを得ず従業員を休ませた企業などが増え、そういった場合に従業員への給与の一部を助成する制度である『雇用調整助成金(雇調金)』の支給額が増加しました。雇調金の財源は雇用保険の積立金などだったため、負担が増えてしまったのです」

そうした背景から、2022年3月に改正雇用保険法が成立。雇用保険料は、雇用する側の事業主と労働者が負担する仕組みですが、2022年4月からは事業主負担分が引き上げとなり、10月からは労働者負担分も引き上げとなりました。

いくら引き上げられる?

厚生労働省によると、事業の種類によって異なりますが、一般事業者の場合、労働者負担の雇用保険料率は0.3%から0.5%に。これは、私たちの額面の給与額から引かれることになります。

横川さんは、「例えば月給20万円の人だと、これまで600円だった保険料が、1000円に。月給30万円の人だと、900円から1500円になる計算です」と解説します。「毎月の給与から天引きされる方が多いと思うので、月給20万円の人だと400円、30万円の人だと600円、手取りが減ることになります。数百円ではありますが、手取りが減るというインパクトは大きいのではないのかなと思います」

雇用保険料の引き上げで増える負担
雇用保険料の引き上げで増える負担
横川楓さん提供

雇用保険、加入対象者は?

厚生労働省によると、次の2点に該当する労働者は、事業所の規模に関わりなく、原則として全て雇用保険が適用され、被保険者となります。

① 1週間の所定労働時間が20時間以上であること

② 31日以上の雇用見込みがあること

日ごとや30日以内の期間を定めた雇用契約で派遣労働をしている方は「日雇労働被保険者」となる場合があり、特別な雇用保険に加入することができます。

横川さんは「パートやアルバイトの方でも、季節労働者ではなく、31日間以上働く見込みがあり、所定労働時間が週20時間以上の方は対象者です。学生さんは基本的に対象ではありません。ただ、企業から内定をもらって卒業前にその会社で働くケースや、学校の形態によっては仕事と学業を両立するような学校もあるので、必ずしも学生であることで『対象外』というわけではありません」と解説します。

雇用保険のメリットは?

横川さんは、雇用保険に加入しているメリットについて主に次の点を挙げました。

・失業したときにお金がもらえる

・会社に在職しているときでも学ぶことで「教育訓練給付金」がもらえる

・育児休業給付金がもらえる

失業した際の給付金については、「求職活動をするなど条件を満たした上で、ハローワークで申請をする必要があります。失業給付は『基本手当』という形で、前職のお給料や働いた期間などをもとに計算されるもののほか、プラスアルファでもらえるものもあります」と説明。

その事例として、「遠方に求職活動をする際の交通費も条件を満たせばもらえますし、次の就職をするために引っ越しをしないといけない場合の引っ越し代ももらえる場合があります。失業給付には実は、失業してから毎月基本的に定額もらえるものに加え、次に就職をするために必要な経費など就職促進のための給付も含まれています」と紹介しました。

「失業給付」と聞くと、会社の倒産や解雇などで失業したケースをイメージしがちですが、自己都合で退職した場合も対象となるといいます。

一方で、その際の注意点について、「自己都合でも失業給付はもらえますが、給付に制限がかかる形になります。会社都合の場合は比較的早めに給付されますが、自己都合の場合は給付開始までに2〜3ヶ月かかる形になってしまいます」と指摘しています。

雇用保険に加入しているともらえる給付金など
雇用保険に加入しているともらえる給付金など
横川楓さん提供

雇用保険に加入しているともらえる給付金の一つである「教育訓練給付金」は、失業している人だけではなく、在職中の人も対象となります。

横川さんはこの点を踏まえ、「働きながらスキルアップしたいと思ったり、取得すると昇給されるような資格があったりする場合、この制度を活用すれば、ちょっとお得にスキルアップや昇給が実現できると思います。転職する際にも資格が活用できるケースもあるので、ぜひ知っておいてほしいです」と語ります。

給付対象となる教育訓練は、厚生労働大臣が指定したもので、約1万4000講座あります。介護福祉士、社会福祉士、看護師、美容師、歯科衛生士、保育士、調理師など専門性の高い資格の取得をめざす講座から、英語検定や簿記検定などの資格取得のための講座、MBAなど修士・博士の学位などの取得を目標とする課程まであり、その種類によって給付率に違いがあります。

教育訓練の種類と給付率、対象講座の例
教育訓練の種類と給付率、対象講座の例
厚生労働省の資料(https://www.mhlw.go.jp/content/000992567.pdf)より

具体的な対象講座は、教育訓練給付制度の検索システムで調べることができます。

手取りが減る中、保険料の引き上げや物価高…どうしたらいい?

雇用保険料だけではなく、身の回りのさまざまなものの値段が上がっています。一方で給料は上がらない…。そんな今を生きる私たちにまずできることは何なのか。

横川さんは、「『職業訓練給付制度』もですが、少しでもお得に使えるこうした制度について知っておくことがまず大切です。原材料の高騰や値上げなど、自分の力ではどうしようもない部分はありますが、そんな中でも『能動的に動く』ことが重要になってくると思います」と指摘しました。

お得に使える制度について調べたり、キャッシュレス決済を使ってポイントを貯めたり、自分から情報を得ようとすることが、「まず身近な防衛手段になる」といいます。

その上で、収入の増やし方について、①昇給する、②転職する、③投資をする、④副業をする──の4つの方法があると紹介し、こう呼びかけました。

「昇給や転職につながるという意味でスキルアップのための『職業訓練給付制度』などを活用し、そこから副業や投資を組み合わせていくという考え方もできます。物価は上がり、手取りも減るという状況で、何もしなければただただ減っていくだけになってしまうので、一人一人が能動的に動けるかが本当に大切です」

(この記事は、2022年9月29日に開催されたTwitter Spaces「#お金を話そう」の内容を一部加筆・編集しました)

TwitterSpaces「#お金を話そう」
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