効率よく働いて自由な私生活を。「怠け者女子の仕事」が海外でバズっている理由

「怠け者女子の仕事」とは、それほど多くの業務をこなさずともそれなりの給料をもらえる仕事のこと。効率的な働き方で、私生活にできるだけ自由とゆとりを生み出そうという考え方だ。
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Ada daSilva via Getty Images
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TikTokを使っている人なら、この夏「怠け者女子の仕事(レイジー・ガール・ジョブ)」というワードを耳にしたことがあるかもしれない。

5月にTikTokでこの言葉を広めたコンテンツ・クリエイターのガブリエル・ジャッジさんは、こうした仕事は基本的に、最低限の仕事をこなしそれ以上頑張らない『静かな退職(Quiet Quitting)』ができる仕事」と形容する。

「怠け者女子の仕事」とは、「それなりの給料をもらいながら、それほど多くの仕事をせず、リモートワークできる」とジャッジさんは動画で説明。マーケティング・アソシエイトやカスタマー・サクセス・マネージャー(顧客サポート)などの非技術系の仕事を例として挙げている。

ジャッジさんは、「怠け者女子の仕事」は一部の職業に限られたものではなく、どちらかといえばマインドや価値観だと考えているとハフポストUS版に語った。

彼女が動画を投稿して以降、「怠け者女子の仕事」はGoogleやTikTokで現在最も検索されているトレンドの1つとなっている。

このトレンドが共感を呼んでいる理由について、ジャッジさんは「インターネットで収入を得る機会が山のようにあり、多くの会社から仕事を選ぶことができ、昨年の平均昇給率が平均インフレ率に遠く及ばない今の状況では、従来のキャリアアドバイスはもはや通用しないから」だと述べる。

@gabrielle_judge

Career advice for women who don’t know what remote job to apply to. You can bay your bills at not feel tired at the end of the day. Women are here to collect those pay checks and move on from the work day. We have so much more fun stuff happeneing in our 5-9 that is way more important than a boss that you hate. #corporatejobs #jobsearchhacks #remoteworking #antihustleculture #9to5

♬ original sound - Anti Work Girlboss

では、「怠け者女子の仕事」とはどのようなものなのか?

TikTok動画でたいてい描かれるのは、デスクに座って誰にも邪魔されず急かされる様子もなくコンピュータースクリーンを見ながらタイピングしている人の姿。キャプションには「メールを何度もコピペして、3~4本の電話に出るだけ。しかも高給料」「職場での服装ルールなしの怠け者女子の仕事」「9時から4時までデスクに座って、好きなタイミングで請求書を送り、読書の時間もある怠け者女子の仕事が大好き」などと書かれ、ソフトなBGMが流れている。

つまり、「怠け者女子の仕事」とは、リモートであることが多く、もしくは、うるさい同僚や顧客に邪魔されることなくデスクに座り、自分の好きなように働けるような仕事のことである。

しかし、それは必ずしも「怠け者」というわけではなく、できるのであれば多くの人がそのように働きたいと思っているのだ。

なぜ「怠け者女子の仕事」を望む人が増えているのか

調査によると、私たちはかっこいい肩書きのような成功の指標よりも、自主性に価値を置いていることが分かった。

Personality and Social Psychology Bulletin誌に掲載された2000人以上を対象にした2016年の調査では、人は自分の働き方を管理できる主導権があれば、昇進の機会を諦める可能性が高いことが判明した。

TikTokで「怠け者女子の仕事」に就いているという人が主張するように、この働き方は仕事からの要求と自分の心の平穏の間に線引きをすることができる。

ある大学でコーディネーターとして働く女性は、「中学校で理科を10年教えるカオスな仕事をした後、怠け者女子の仕事で生き生きしてる」と語り、別のTikTokerは、「今の仕事は落ち着いたオフィスワークで、小売業や接客業で何年もストレスと過労にさらされていたのとは対照的」と話した。

社会心理学者でロヨラ大学シカゴの臨床助教授のデヴォン・プライス氏は、「『怠け者』や『静かな退職』などと人が呼ぶものの多くは、ただ健全な線引きをしているだけなんです」と述べる。

ニューヨークに住む住宅金融業のシニア・スペシャリストであるジェスさんは、TikTokに「怠け者女子の仕事が大好き」と投稿。「人と話す必要もないし、オフィスに週2回来るだけ。数字を打ち込んで、お菓子を食べて、同僚とおしゃべりして、それなりの給料を稼ぐ」とキャプションに書いている。

「『怠け者女子の仕事』が流行っているのは、生計を立てるためには自分をすり減らして働かなければいけないと多くの人が長い間考えていたのに対して、その必要はないと気づいたからです」と仕事上での報復を恐れ、苗字を伏せて欲しいと述べたジェスさんはハフポストに語った。

「怠け者女子の仕事」という言葉を広めたジャッジさんにとって、このワークトレンドは「不必要な仕事を減らすことであり、仕事をしないことではない」という。

また、上司がどんな人かもとても重要だという。「以前に同じ肩書きの仕事をしたことがありましたが、そこでの経験は全く異なるものだった」と話す。

自分の仕事を「怠け者」と呼ぶのは良くない?

ジャッジさんはnews.com.auに対し、「怠け者という言葉を加えたのは、こうした仕事はワークライフバランスがとても良く、アメリカのハッスル文化と比べたら怠けているかのように感じられるはずだからです」と語っている。

しかし、誰もがこのトレンドを理解しているわけではない。

ジャッジさんの仕事の説明は不的確で、そうした仕事は怠け者の仕事ではないと批判する声もある。それに対し彼女は後のTikTok動画で、そうした仕事を実際に「怠け者」だとは思っていないと述べた。

「怠け者女子の仕事と呼んでいるのは、怠けているからではなく、反ハッスル的という皮肉です。正直なところ、怠け者という言葉はマーケティングのために入れたんです」

社会心理学者のプライス氏は、「怠け者女子の仕事」の理想的な解釈は性別にとらわれない遊び心のあるジョークだが、この言い回しはTikTokで性別二元制が定着していることを反映していると話す。

以前話題になったトレンド「ガールディナー」と同様、「女性がすることを何でも子ども扱いし、たとえ男性が同等のことをしていたとしても、女性の欲望や特徴や行動を全く別物として扱う傾向」の一部だという。

「怠け者」という言葉を使うことは社会的、道徳的な判断を伴うため、有益というよりは有害であると注意を促している。

「私たちは『怠け者』という言葉をさまざまなことを否定する時に使う」とし、「怠け者と呼ぶのは、その人を取り巻く社会的背景全体への興味が欠けているからです」と述べた。

プライス氏は、もしこのトレンドに興味があるならば、根本的な原因を探ることをを勧める。

「もし自分の仕事に満たされないと感じているなら、その理由を探ってみることです。仕事のどこが気に入らないのか、自分にとってやりがいのある事とはなんなのか。だってほとんどの人間は、本当は何かを信じ、やりがいのある事に取り組みたいと思っているんですから」

「怠け者女子の仕事」をすることで得た時間とエネルギーを、もっと有意義に使えるのならそれは素晴らしいことだと話し、少しサボることを支持する。

「私たちは前の世代よりも低賃金で多くのことをこなしているのだから、職場で少しサボる事に賛成です。なんと呼ぶかはあなた次第ですが、少しは仕事をサボる権利があるでしょう。でも、みんなで協力すれば、より少ない労力で効率的に仕事ができるようになると思います」

自分の仕事を「怠け者女子の仕事」と呼ぶときは気をつけて

自分の仕事を「怠け者女子の仕事」と呼ぶ際には注意が必要だ。仕事に深刻な影響が出る可能性もある。

もしあなたがそれを肯定的に捉えていても、上司は批判的に受け取るかも知れないと覚えておこう。

「こういう仕事があるんだと伝える事に害はないと思うけど、どこで働いているかについては言いません」とジェスは話す。

過去に「怠け者女子の仕事」を経験したことのある人事採用担当者のケンジー・リーさんは、ネット上で自身の仕事を「怠け者女子の仕事」と明かすことに注意を促している。

「会社が許可していない限り、ソーシャルメディアで特定の会社について言及することはお勧めしません。会社はその言葉を聞きたくないし、誤解する可能性もある。私は『怠け者女子の仕事』という言葉は好きですが、会社は違う意味で捉えるかもしれません」

「『怠け者女子の仕事』の考え方は、効率的な働き方を通じて、私生活にできるだけ自由とゆとりを生み出すことです。でもすべての人に理解されるものではありません。ソーシャルメディアへの投稿によって報復のリスクに身をさらすことになれば、ワークライフバランスをとることはより難しくなってしまいます」

ハフポストUS版の記事を翻訳・編集しました。