誰もが知る世界的ブランドのポスターに起用される、トップモデルとしてだけではない。
途上国の子ども支援や古民家再生、日本の伝統文化を生かした商品開発と海外へのプロモーションといった、いくつもの「顔」を持つ森星さん。
活動を通じて、サステナブルな暮らしやライフスタイルの選択肢を発信している。
だが、ファストファッション産業に代表されるように、ファッション業界が抱える環境問題に葛藤した時期もあったとインタビューに打ち明ける。
持続可能な暮らしの形を提案するモデルの一人として、何を思うのか。森さんにとっての「ウェルビーイング」とは━。
【インタビュー前編はこちら】途上国への訪問を続ける森星さんが、子どもたちから受け取った「本質的な生き方」【国際ガールズ・デー】
ポジティブな選択肢を提案する責任
森さんがクリエイティブディレクターを務める「tefutefu」は、日本の伝統工芸などの文化を再構築し、工芸品の作り手や企業、行政といった様々なアクターと協力しながら、新たなプロダクトを生み出し世界に発信することを目指している。
さらに、アップサイクリスト(※1)たちのサポートを得ながら、森さんは築150年の古民家を再生するプロジェクトにも汗を流している。
一見してモデルの世界からは距離の遠い取り組みにも映るが、森さんにとってはいずれの活動も通底するものがあるという。
「SDGsのゴールの一つに『つくる責任、つかう責任』がありますが、特にファッションの世界は、どうしても『消費』する側面が大きいですよね。その葛藤があったことで、tefutefuをたち上げたり、古民家を蘇らせる取り組みをしたりする今のモチベーションにつながっています。
ファッションと消費行動が深く関係するからこそ、モデルの一人として、身にまとうものや食べるもの、習慣など、持続可能なライフスタイルのポジティブな選択肢を提案する責任があると感じています。
私が動いてあれこれと実践する中で発見した気づきを、『この先も長く気持ち良く暮らすために、こんな方法もあるよ』と伝えられたら」
(※1)廃棄物や不要となったものに対し、デザインやアイデアを加え、付加価値の高い別のものに生まれ変わらせる取り組みをする人
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tefutefuでは、伝統工芸の職人らとともに、その土地に根付く技術や製法を活用しつつ、時間をかけて手作りで一つひとつの作品を生み出していく。
「効率よく素早く仕上げたものではなく、コンセプトからじっくりこだわって時間をかけて作り、良い素材で長く使えるものを残したい。その分価格は高くなってしまいますが、いつか自分も身につけたいとか、この先誰かに受け継いでいきたいと感じてもらえるものをチームで作り、日本の伝統文化の美しさを海外に発信したいです」
チームで物作りに励んでいるが、デザインや商品開発という慣れない分野でチャレンジすることの難しさも感じているという。
「tefutefuを始めて身に染みたのが、『物が循環するシステムを作るって相当なエネルギーが必要で、本当に大変な作業』だということです。ありがたいことに日本では、サーキュラーエコノミー(循環型経済 ※2)の視点で物作りをする企業が増え始めています。
私たちtefutefuも、『ゴミ』とされてしまうものから再び新しい素材を生み出し、半永久的に循環する仕組みや土台を作ろうとする企業に共感しています。今後はそういった取り組みに力を入れる人たちとも、一緒にプロジェクトを進めたいです」
(※2)従来の3R(リデュース・リユース・リサイクル)の取り組みに加え、資源の投入量と消費量を抑えつつ、サービス化などを通じて付加価値を生み出す経済活動のこと。設計段階から廃棄物を出さないよう製品やサービスをデザインすることや、経済価値を生み出す活動で資源の大量投入を抑えることを目指す点が重要なポイントとなっている。
祖母英恵さんから学んだこと
人が前を向いて生きる上で、「ファッションの力」がいかに大きいか。
それを教えてくれたのは、祖母でデザイナーの森英恵さん(2022年に96歳で死去)だった。
「戦争の時代を知る祖母からは、白黒だった日々から、戦後少しずつカラフルな布地が海外から入ってきたこと、そして復興の過程でファッションが人々の生きる希望にもなったことを聞いていました。
憧れの物をいつか手にするために生き生きと働き、頑張った結果手に入れることができたらそれをずっと大事にする。祖母の生き方を通して、ファッションの力も物を大事にすること自体の豊かさも学びました」
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モデル活動に加え、クリエイティブディレクターや国際NGO「プラン・インターナショナル」のアンバサダーも担う森さん。
めまぐるしく過ぎる日々の中で、森さんにとっての「ウェルビーイング」とは何を意味するのか。
「蛇口をひねれば綺麗な水が出てくることは、日本で『当たり前』になっていますよね。でも、その便利さは本当に永遠に続くのかなとふと考えることがあります。
都心を離れて地方に行った時、私はよく現地の人に湧水のあるスポットを教えてもらいます。そこで美しくておいしい湧水を手ですくって飲んだ時、とても幸せを感じるんです。里山里海の豊かさってこういうところにあるんだなあと教えてもらえる。
自然を五感で楽しむこと。この環境が今まで残されてきたことに感謝し、それに対して自分はどう恩返しができるかを考えること。私自身、便利なものに溢れた日常で見失いがちですが、それが今の私にとってのウェルビーイングな生き方だと感じています」
【取材・執筆=國﨑万智(ハフポスト日本版)】