絶滅危惧種のカンムリワシが「原告」となり石垣市を提訴。リゾートの開発は「死ねと言っているのと同じだ」と主張

クラウドファンディングも開始。地元住民ら原告団は、「地元の人だけでなく、石垣島に観光に訪れるかもしれない全国の人に知ってほしい」と訴えた。

沖縄県・石垣島で計画されている約127ヘクタールの大規模なリゾート開発は、自然や生態系を破壊する行為で、市有地を「事実上無償で提供」することも違法だとして、石垣市の市民らが9月15日、住民訴訟を那覇地裁に起こした。

原告には、開発予定地に生息する国の天然記念物・カンムリワシ(絶滅危惧種)も加わった。こうした、人間が生物に代わって自然の価値を主張する訴訟は「自然の権利訴訟」と呼ばれる。

石垣島の島民の思いとは。この訴訟の目的は「事業の違法性を問い開発を阻止すること」だとする原告団に、話を聞いた。

絶滅危惧種で国の天然記念物に指定されているカンムリワシ
絶滅危惧種で国の天然記念物に指定されているカンムリワシ
カンムリワシの里と森を守る会

先祖にも未来世代にも申し訳ない

原告らは、石垣市が市の財産である「石垣市民の森」の一部を開発のために、事業者のユニマットプレシャス社へ「事実上無償で提供」することは、財産の管理及び処分について定めた地方自治法237条などに違反すると主張。

また、開発による自然破壊を訴えるため、リゾート開発が国の天然記念物であるカンムリワシに打撃を与えることは、文化財保護法などに違反する、と訴えている。

開発計画については沖縄県の環境影響評価や環境団体から、カンムリワシをはじめとする希少種や、ラムサール条約の登録湿地「名蔵アンパル」への影響など、自然環境への影響が著しい可能性が高いと、度々指摘されてきた。

原告団の一人で「アンパルの自然を守る会」共同代表・島村賢正さんは、「開発予定地は、絶滅危惧種のカンムリワシの餌場や営巣地になっています」と説明する。

環境影響評価書の知事意見に対し、事業者は「改変区域内にて営巣活動が確認された場合には、繁殖ステージと工事の種類や期間、位置等を考慮したうえで、評価書で示した工事の中断を検討し、影響の回避又は低減を図ります」と見解を示した。

だが島村さんは、「それでは遅いんです。この場所で大規模な工事をすれば、カンムリワシは落ち着いて繁殖できずに巣を放棄する可能性も高く、ここに住むカンムリワシが生きていく場所がなくなってしまう。死ねと言っているのと同じです」と訴える。

「カンムリワシは、石垣島のお祝いの席に欠かせない八重山の古典民謡、鷲ぬ鳥節(ばすぃぬとぅるぃぶし)のモデルになっているくらい、私たちにとって大切な鳥です。石垣市はマスコットキャラクターのモデルにもしているのに、なぜこんな開発を進めるのか」

左から原告の井上志保里さん、籠橋隆明弁護士、原告の島村賢正さん
左から原告の井上志保里さん、籠橋隆明弁護士、原告の島村賢正さん
石垣島未来ネットワークテレビより

また、「開発計画では地下水を1日最大で約678トン汲み上げる予定だといいますが、そんなことをすれば地下水が枯渇してしまうのでは」と危機感も募らせている。

「開発予定地はラムサール条約の登録湿地である『名蔵アンパル』の上流に位置しています。そこには希少種の生き物も多く生息していますが、地下水からの湧き水が枯渇すれば、その影響は計り知れません」

ラムサール条約の登録湿地「名蔵アンパル」
ラムサール条約の登録湿地「名蔵アンパル」
アンパルの自然を守る会

開発予定地周辺には農地もあり、地下水に影響が出れば農業にもダメージがある可能性も。島村さんは「事業者は『影響は軽微』として十分な調査を行なっていない」と主張する。

「石垣島は『自治体SDGsモデル事業』に選定されていますが、これのどこが持続可能な開発なのでしょうか?開発地や周辺にはカンムリワシ以外にもヤエヤマセマルハコガメ、サキシマキノボリトカゲ、キバラヨシノボリ、ヒョウモンドジョウ、タウナギなど希少種が生息しているのに…。先祖にも未来の世代にも申し訳ない、恥ずかしい気持ちになります。一体、石垣市はどこを見て市政をしているのか」

石垣島は「オーバーツーリズム状態」

石垣島でヨットツアー業を営む原告団団長の東山盛敦子さんは、「リゾート開発は石垣島の観光業を盛り上げて経済効果を狙うためと言いますが、島民からすれば既にオーバーツーリズム状態です」と話す。

「島民はタクシーにも乗れないし、居酒屋にも入れないような状態です。ホテルの建設が続いていますが、従業員が足りないから閉めたお店も出てきています。移住者を増やせばいいと言うけれど、住居地を増やさなければならないし、水の需要やゴミの問題など付帯的なことを考えたら、この島はもうもたないんじゃないかって…」

原告団の一人でカンムリワシの里と森を守る会事務局長の井上志保里さんは、「県や事業者はホテルができたら雇用が生まれると言いますが、沖縄県の調査で、雇用希望先として観光業の仕事は不人気でした」と話す。

「ホテルスタッフの仕事は待遇も良くないし、島民としては自然を壊してまで作る意味がないと思っています。目先の利益ではなく、小さな規模でもいいから、島の豊かな自然を活かした持続可能な事業を市に応援してほしい」

「昭和の亡霊のような開発を止める」クラウドファンディングを開始

今回弁護団団長を務めるのは、籠橋隆明弁護士。日本では1995年に初めて、アマミノクロウサギを原告にした「自然の権利訴訟」も担当した。

籠橋弁護士は「日本ではかつてあいまいな経済効果によって自然破壊を正当化し、大きな失敗をしてきた歴史があります」と指摘。

「この昭和の亡霊のような開発はなんとしても止めなければなりません」

裁判に関わる費用を賄うため、10月12日からクラウドファンディングを開始した。目標額は500万円で、目標額に達成した場合のみ支援金を受け取れるAll-or-Nothing方式。

3000円から支援でき、返礼品として、活動に賛同した魚譜画家の長嶋祐成さんが書き下ろしたイラストのポストカードやアンパルのガイドツアーなどが用意されている。

クラウドファンディングは11月20日までを予定している。詳細はこちら

魚譜画家の長嶋祐成さんが書き下ろしたイシガキパイヌキバラヨシノボリのイラスト
魚譜画家の長嶋祐成さんが書き下ろしたイシガキパイヌキバラヨシノボリのイラスト
長嶋祐成

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