「警察官は『どうせお前が蹴ったんだろ』と娘さんに言っていた」目撃者の証人尋問【母子不当聴取訴訟】

被告の東京都は、警察官らの一連の対応に違法行為は認められないとして、請求棄却を求めている。
原告の母子がトラブルに遭った東京都内の公園の砂場
原告の母子がトラブルに遭った東京都内の公園の砂場
Machi Kunizaki

警視庁の警察官に、同意していないのに氏名や住所などの個人情報をトラブルの相手に提供されるなど違法な対応を受けたとして、南アジア出身の40代女性が東京都に損害賠償を求めた訴訟で、原告女性の本人尋問と、現場となった公園で女性の通訳をした目撃者の男性、公園に駆けつけた警察官の証人尋問が12月5日、東京地裁(片野正樹裁判長)であった。

公園を通りかかり、女性と警察官の間で英語通訳をした目撃者の男性は、「警察官が女性の娘さん(当時3歳)に対し、『どうせお前が蹴ったんだろう』『本当に日本語しゃべれないのか』などと言っていました」と法廷で証言した。

さらにこの男性は、公園で女性に向けて差別的な発言を繰り返す男性を警察官たちが制止しなかったと主張。「なぜ止めないのですかと警察官に伝えましたが、それでも止めようとはしませんでした」と述べた。

一方、現場に駆けつけた警察官は証人尋問で、「乱暴な発言はしないようにと(トラブル相手の)男性に繰り返し注意しました」と反論した。

相手男性が「外人(がいじん)」「なんでこんな外人を日本に入れるんだ」などと発言していたことについて、原告代理人弁護士が「こうした男性の発言が、女性への差別的な発言だと思いませんでしたか」と尋ねると、警察官は「思いませんでした」と答えた。

原告側、「警察官の行為は人種差別を支持・助長するもの」と訴え

訴状などによると、東京都内の公園で2021年6月、南アジア出身の女性と当時3歳の長女が、見知らぬ男性から「(長女に)子どもが蹴られた」などと抗議を受けトラブルになった。原告の女性側は、娘と男性の子どもに身体的な接触はなかったと述べている。

原告側は、男性から「外人」「在留カード出せ」などと詰め寄られたと主張し、警察官たちが男性の差別発言を制止しなかったと訴えている。

原告女性と娘は警察官から公園で聞き取りを受けた後、警察署への同行を求められ、署で再び聴取された。公園と警察署内での事情聴取は計約4時間半に及んだ。原告側はこの間、帰宅の要望を聞き入れられなかった上、トイレの利用や長女のおむつ替え、食事も認められなかったと訴えている。

さらに署内では、女性と娘が引き離され、娘ひとりに複数の警察官が事情聴取したと主張。娘は聴取中に大泣きし、その日以降精神的に不安定になり、医療機関で「不眠(心的外傷エピソードによる)」との診断を受けたと訴えている。

このほか、同意していないにもかかわらず、女性の氏名や住所、電話番号といった個人情報をトラブル相手の男性に対して警察官が提供したと主張。加えて、意思を確認されずに母子ともに写真撮影されたとも訴えている。

原告側は、警察官らによる一連の行為が、人種差別を支持・助長するものであり、「異常なまでの圧迫的な扱いはレイシャル・プロファイリング(※)に当たる」と指摘。「公権力の行使に際して人種差別を行ってはならないという職務上の注意義務に違反し、違法だ」として、損害賠償を求めている。

(※)レイシャル・プロファイリング・・・警察などの法執行機関が、人種や肌の色、民族、国籍、言語、宗教といった特定の属性であることを根拠に、個人を捜査の対象としたり、犯罪に関わったかどうかを判断したりすること

東京都は「違法行為ない」と反論

こうした原告側の訴えに対し、被告の東京都は警察官の一連の対応に違法行為は認められないとして、請求棄却を求めている。

被告側は、約4時間半にわたって事情聴取をしたことは認める一方、「女性が帰宅を申し出たことはない」「食事やトイレ、おむつ交換の要望があった事実はない」として、いずれも否認している。

さらに、民事裁判を理由に母子の連絡先を求められ、男性に提供したことを都側は認めるが、女性の承諾を得ており「(提供を)強要した事実はない」と主張。写真撮影についても、女性の承諾を得ていたと反論している。

11月24日の裁判では、原告の母子に事情聴取をした警察官2人と、警察署内の聴取で英語通訳をした警視庁の通訳センターの職員に対する尋問があった。

聴取担当の警察官Aは「原告から、トイレやおむつ替え、食事をしたいという申し出はなかった。必要であれば本人たちから申し出があると思った」と述べた。

警察官Aの指示を受け、連絡先を提供しても良いか原告に確認したという警察官Bは、「通訳を介して、連絡先を男性に教えていいかを聞いたところ、女性から『OK』と承諾を得られた」と証言した。

「連絡先」が具体的に何を指すかを明示して女性に伝えたかを尋ねる裁判官の質問に、警察官Bは「私の中では住所、氏名、電話番号という認識だった」とした上で、「一つ一つについては(女性に)話していない」と述べた。

通訳センターの職員は証人尋問で、「相手方が裁判するために連絡先を教えると伝え、原告女性は承諾した」「『連絡先を(相手男性に)教えなければ終わらない』とは(警察官は女性に)告げていなかったと思います」と述べた。

原告女性「娘は大声で泣いていた」涙を流し訴え

12月5日にあった原告女性の本人尋問で、女性は警察署への任意同行を拒み、通訳者の男性を通じて家に帰りたい意思を警察官に伝えたが、認められなかったと主張した。

警察署内での事情聴取でも、娘が昼食を食べておらず帰宅したいと警察官に伝えたが、聞き入れられなかったと訴えた。また、女性は「娘のおむつを替えてあげたいと言っても、聞いてもらえなかった。帰宅後におむつを替えると娘の皮膚はかぶれていた」と証言した。

署内では一時、原告女性と引き離した上で、娘ひとりに対して警察官が事情を聴いた。

都側は、女性の了承を得た上で子どもだけに事情聴取したと主張しているが、女性は「部屋から出ていくように警察官に言われ、追い出された」と反論。「娘が大きな声で泣いたので、心配になってドアを開けました。3歳の子どもひとりを5人くらいの警察官が取り囲んでいた。(当時のことを)考えるだけで苦しくなります」と、涙で言葉を詰まらせながら証言した。

また、トラブル相手の男性に対する連絡先の提供について、女性は「電話番号を教えることを了承したことはありません。家に帰りたいと言ったにも関わらず、『終わらない、終わらない』と何度も言われました」「警察官は、電話番号を男性に教えることを了承しないと帰れないと言った」と訴えた。

トラブル相手の男性は、「殺人未遂犯」というコメントと共に女性の長女の写真をSNS上に投稿したほか、女性の氏名や居住地域もネット上に公開した。これを脅威に感じた女性は、引っ越しをせざるを得なかったと訴えた。

通訳者の男性「女性は帰りたいと伝えていた」と証言

公園で通りかかり、英語通訳をした目撃者の男性は証人尋問で、「警察官たちは、(相手男性の)女性に対する差別的な発言を止めようとしていなかった」「警察官は『どうせお前が蹴ったんだろ』『本当に日本語しゃべれないのか』と娘さんに言い、娘さんの話を聞こうとする態度ではなかった。警察官が、娘さんが(男性の子どもを)蹴ったと一方的に決めつけていたので、(警察官と女性の)通訳に入った」と証言した。

また警察署に向かう前、「障害のある子ども(女性の長男)がいるので帰りたい」という女性の言葉を通訳して警察官たちに伝えていた、とも述べた。

裁判は2024年1月に結審する予定。

主な争点と、原告・被告の主張
主な争点と、原告・被告の主張
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