「更年期」という言葉、わざわざ使わなくてもいいんじゃない?コミュニケーション研究家の提案

「つらさの開示をするのに、更年期という言葉を使う必要はない」。コミュニケーション研究家の藤田尚弓さんはそう言います。なぜ、あえて「更年期という言葉を使わない」ことをすすめるのでしょうか。
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South_agency via Getty Images
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更年期を「触れてはいけない」「言い出せない」トピックだと捉える人は、今なお少なくありません。漢方メーカー最大手のツムラが行った調査結果からも、多くの人が更年期にネガティブなイメージを持っていることがわかっています。

「恥ずかしく、オープンにすべきではないこと」というレッテル貼りや、「更年期=ヒステリー」のようなステレオタイプの影響から、更年期の症状を「隠れ我慢(心身の不調を我慢していつも通りに仕事や家事を行うこと)」している人が大勢います。

そんな隠れ我慢をなくすため、「誰もが心身の不調を無理に我慢することなく、心地よく生きられる健やかな社会を目指す」をテーマに立ち上げられたのがツムラの「#OneMoreChoice プロジェクト」。

音声プラットフォーム「Voicy」とのコラボレーション企画で、対人コミュニケーションの研究家・藤田尚弓さんと、パーソナリティのoishi haruさんが「更年期の『隠れ我慢』から解放される方法」について語り合いました

「隠れ我慢しない、させない」社会を

個人差はありますが、更年期は約10年間続きます。その間、誰にもつらさを見せず隠れ我慢を続けるのは、想像以上に心身に負担がかかります。私たちは、どうしたら「隠れ我慢しない・させない」社会をつくれるのでしょうか。

対人コミュニケーションの研究を行う藤田さんは、更年期症状の開示についてこう話しました。

「更年期は恥ずかしいものではないけれど、今の社会ではまだまだ負のレッテルが貼られているのも事実です。もし、そうしたレッテルをうまく剥がせないことで言い出せなくなっているのであれば、無理に更年期という言葉を使わなくてもいいのではないでしょうか。

わざわざ『更年期症状なんです』と言わなくても、体調不良であることと具体的な症状について説明すれば、サポートを得ることは可能です。原因を含めたすべてを打ち明ける必要はないと思えば、開示するハードルも下がるのではと思っています」

また、隠れ我慢については、心理学的な観点からこう語ります。

「小さい我慢のつもりでも、積み重なると意外と危険です。どこかのタイミングで『我慢するエネルギー』が枯渇すると、急に爆発して泣き出してしまったり、思い詰めてしまったりすることもあります。

更年期は長いので、ずっと我慢して過ごすのは自分にとっても、社会にとっても大きな損失と言えます。持続可能な働き方のために、自分に負担のないかたちで周囲に打ち明け、サポートをお願いした方がいいですね」

「察してほしい」はダメ

更年期症状があるときは、仕事だけでなく家庭生活にも支障があると感じる人が少なくありません。そんなとき、頼りになるのが身近にいる人の存在です。

事前に行ったリスナーアンケートでは「更年期の症状に悩んだときは、家族・パートナーに支えてほしい」と回答した人が7割超という結果に。自分が更年期のとき、家族に更年期の人がいるときは、家庭内ではどのようなコミュニケーションをとったらいいのでしょうか。

調査でも明らかになっていますが、不調に陥ったときは、男性は具体的な対処法を、女性は休息を求める傾向があります。こうした違いを意識しないとすれ違いが起こりかねないので、お互いに相手の希望を知っておけるといいですね。

サポートしてほしいときは、つらいと感じている症状としてほしいことを、できるだけ具体的に伝えましょう。『察してほしい』という態度を取るのではなく、わかりやすく具体的なお願いをするのがポイントです」

しかし、負担をかける申し訳なさから、周囲に頼りたくても頼れないという人も少なくありません。藤田さんは、そんな人が心の負担感を減らすためのヒントも教えてくれました。

「調子がいいときに人のためになることをしてみて、人に何かをしてあげることの喜びを感じてみてください。そうすれば、自分の調子が悪いときも、人に頼ることへの申し訳なさが減るはずです」

ちょっとした声かけを

「もしかすると更年期で体調が悪いのかな、という人にどんな声かけをすればいいか」というリスナーの質問に対しては、こう答えます。

「更年期の捉え方は人それぞれなので、相手がスティグマを感じている可能性もあります。ここでも無理に更年期という言葉を使う必要はなくて、『体調が悪そうだけど大丈夫?』と声をかけるだけでいいんです。それすら言いにくいときは『何か手伝えることがあれば言ってね』と気遣ってあげてください」

お互いに助け合える関係を築けるかどうかは、コミュニケーションの深さよりも回数に影響を受けると藤田さんは言います。無理に詳しく話を聞こうとしなくても、普段から「ちょっとした声かけ」をこまめに行うことで、いざというときに助け合える関係性に発展しやすくなるそう。

「しっかり話を聞かなくては」「何かいいことを言わなくては」などと構えず、日ごろから仲間の様子に目を配り、つらそうな様子のときは「大丈夫?」「疲れていない?」「何かやろうか?」と声をかける習慣をつくる。これだけで、誰かが隠れ我慢をする機会をグッと減らせるのかもしれません。