
オンラインセミナーは「ビジネスと人権ロイヤーズネットワーク(BHR Lawyers)」や「外国人労働者弁護団」「外国人技能実習生問題弁護士連絡会」などが主催し、日本で働く外国人や技能実習生の支援をしている弁護士らが登壇した。
厚生労働省の発表によると、日本で働く外国人は230万人で過去最多を更新している。うち、技能実習生が47万人、特定技能の労働者は20万人だ。(2024年10月末時点)
しかし、技能実習生が置かれる状況は、国連の人種差別撤廃委員会が指摘していた通り、搾取的な状況が否めない。
送出機関への手数料で借金。「債務労働」状況に
技能実習制度で特に重大な問題が指摘されてきたのが、技能実習生が来日前に送出機関に支払っている「手数料」だ。対策として、手数料を払い戻しする企業も。育成就労では?
手数料の支払いによる「借金問題」をめぐって、抜本的な改善が難しいのは、これが日本国内ではなく、来日前の海外各国で起こってしまっているという点だ。
では一体どうすれば、現状の制度で、技能実習生に負担をかけず、来日し働いてもらうことができるのか。
セミナーに登壇したクレアンの秋山映美さんは「国際基準では、手数料は雇用主負担が基準であり、一切請求されるべきではない」と指摘した上で、技能実習制度での解決策や実際に企業が実施している例を紹介した。
欧米のメーカーやブランドと取引のあるエレクトロニクス関連企業や、スポーツウェアやアパレル製造企業などは、技能実習生が支払った手数料の払い戻しや、手数料の本人負担なしでの受け入れを行っているという。
秋山さんは「製造業を中心に、このような取り組みを始める企業は、徐々にですが、増えてきています」とする。
払い戻しに際しては、送出国で技能実習生が仲介業者に支払った明細書などを確認し、本人にヒアリング。採用に関連する費用を本人に払い戻すという手順だ。
一方で、このような取り組みを実施している企業は大手企業のことが多い。技能実習生を雇用している企業には、中小企業や個人事業主も多く、実習生一人当たり、数十万円〜100万円などの手数料を負担するのは個人事業主には高額であることも事実だ。
そもそも手数料の徴収自体に問題があるため、秋山さんは「監理団体および送出機関とも協力し、サプライチェーン全体でも、採用に関する費用を本人から徴収しないスキームをつくっていくことも重要」だと指摘した。
JICAが2020年11月に関係者と共に設立した「責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム(JP-MIRAI)」などでは、送出機関、斡旋機関、受入企業が参加し、原則として労働者に費用を負担させない「公正で倫理的なリクルート」を推進している。

育成就労では、手数料問題についてどのような対策が取られているのだろうか。
朝日新聞などの報道によると、育成就労制度の運用ルールの政府案では、手数料は来日後の給料の「2カ月分」を上限としている。
秋山さんは2カ月分という上限について、「給料の1割を返済に充てても1年半かかる。やはり『債務労働』のようにはなってしまうのでは」と疑問視する。
家族帯同認めず、子どもとも何年も離ればなれに。「転籍」にも課題残る
手数料の他にも、パスポートの取り上げや、残業代の未払いや時給300円で残業を強いられるケースなども相次いでいるという。
指宿さんは「ルールはあるけど実際は守られていないという実態がある。その背景には、定住化を予定していない在留資格であることも含む、技能実習生の立場の脆弱性がある」と指摘する。
技能実習制度で度々問題視されてきた、転籍ができないという点や、家族滞在が認められていないという点は、育成就労制度ではどうなるのか。
転籍については、パワハラや暴力など人権侵害とみられる「やむを得ない事情」があった場合には転籍を認める見通しだが、就労期間に「1年以上2年以下」などの制限がある。
指宿さんはその点について「育成就労の3年の期間のうち1、2年ほど過ぎて新しく受け入れてくれる企業は見つかりにくいのではないか。憲法22条1項が保障する、職業選択の自由の違反の疑いでもある」とした。
さらに、育成就労でも家族滞在は認められない予定だ。
技能実習生の中には、出身国に小さな子どもを含む家族を残し来日しているケースも少なくなく、成長が著しい幼少期に離れて過ごさざるを得ないこともある。
「家族帯同が禁止されていることも、これも大きな問題だと思います。3年間であっても家族と引き離されて働かなきゃいけないっていうのはおかしい」
このような点から、指宿さんは「育成就労制度では若干の改善があるとはいえ、看板の架け替えにすぎない。技能実習制度の問題点が育成就労で改善されたとはいえない」と強調する。
「技人国」ビザでも手数料搾取のケース。技能実習制度を真似た悪例か
指宿さんはまた、この技能実習制度での手数料の搾取を「真似た」悪例が他のビザを保有する外国人にも起こってしまっているとも指摘した。
通称「技人国」と呼ばれている「技術・人文知識・国際業務」ビザは、大学などで得た専門知識を活かし、通訳やエンジニアなどの専門的な仕事をするための在留資格だ。
永住者や技能実習に次いで、3番目に多い在留資格になっている。
技人国では通常、技能実習のように出身国の送出機関に手数料を払う必要性などはなく、就職活動を経てビザを申請する形だ。
しかし、その事実を知らない外国人が、日本で就職するために情報を探し、出身国の悪徳ブローカーに手数料を徴収されてしまっているという。
実際にそのようなケースの相談を受けた指宿さんは、「技能実習生の送出機関の悪い例を真似したケースが、技人国ビザでも起こってしまっている。いわゆる『情報弱者』が被害者になっている状況」と指摘した。

海外では、類似する外国人労働者を雇用する制度では「家族の帯同」や「転職の許可」、「手数料支払いの禁止」などを行っている国も多い。
債務労働につながる「障壁」を取り払っていくために、新しく始まる「育成就労制度」では、海外の例にも倣って、大幅な改善が必要だ。
また、弁護士らは、何か問題が起こった際にもすぐに対応をできるよう、弁護士や通訳へのアクセスも整備されるべきだと指摘している。
(取材・文=冨田すみれ子)