富山県は5月17日、就業から次の勤務まで一定時間の休息をとる「勤務間インターバル制度」を試験的に導入すると発表した。
都道府県では、岡山県に次いで2県目の導入事例となる。
同制度をめぐっては、政府は2025年までに導入企業の割合を15%以上にすることを目標としているが、導入率はまだ5%台と普及していない。
そもそも制度はどのようなものなのか。導入にはどのようなメリットがあるのか。
富山県知事の会見や、国の資料から振り返る。
EUは義務化、日本は努力義務も普及進まず
厚生労働省の「働き方・休み方改善ポータルサイト」によると、勤務間インターバル制度とは、終業時刻から次の始業時刻の間に、一定時間以上の休息(勤務間インターバル)を設けることで、従業員の睡眠・生活時間を確保しようとするもの。
「過労死対策の切り札」とも言われ、日本では2019年4月から制度の導入が事業主の努力義務となっている。
一方、政府は2025年までに、15%以上の企業が導入することを目指しているが、普及は進んでいない。
厚労省の「就労条件総合調査の概況(2022年)」によると、「制度を導入している」企業の割合は5.8%にとどまり、「導入予定はなく、検討もしていない」企業は80.4%に上っている。
導入の懸念点は「緊急時の対応」とみられるが、勤務間インターバル制度が義務化されているEU(欧州連合)では、柔軟な適用除外規定もある。
ポータルサイト内にある制度の解説動画でも、インターバルや運用方法は「まさに企業の実情に即して決められるべき」とされている。
住友林業は2017年に導入
では、実際に勤務間インターバル制度を導入している企業はどのように運用しているのだろうか。
ポータルサイトには、インターバルを「11時間」としている企業の例が載っている。
それによると、午前8時(始業)から午後5時(終業)までに仕事が終わらず、午後11時まで残業した場合、翌日は11時間後の午前10時に出社することになる。
翌日は、午前8〜10時までの2時間を勤務とみなしたり、終業を2時間繰り下げて午後7時に設定したり、取り扱いは企業ごとに様々あるという。
ただし、災害やその他の避けることができない突発的な仕事が入った場合は、柔軟に運用することが求められる。
また、ポータルサイトには75企業の導入事例が載っている。
2017年に制度を導入した住友林業(東京都)では、11時間の勤務間インターバルを設けた結果、従業員の健康増進や生産性向上に寄与し、「従業員がスケジューリングをしっかり行い、生産性向上を意識して働くようになった」と効果を示している。
メリットは?アメリカでは研究も
勤務間インターバル制度を導入すると、具体的にはどのようなメリットがあるのか。
ポータルサイトには、①従業員の健康の維持向上につながる②従業員の定着や確保が期待できる③生産性の向上につながるーーの3つが挙げられている。
具体的には、インターバル時間が短くなるにつれ、ストレス反応が高くなり、起床時に疲労感が残ることが研究結果から明らかになっている(①)。
また、ワーク・ライフ・バランスを充実させることは、職場環境の改善や魅力ある職場づくりの実現に繋がり、人材の確保・定着、離職者の減少も期待される(②)。
仕事とプライベートのメリハリをつけることで、仕事への集中度が高まり、製品・サービスの品質水準が向上するほか、生産性の向上も見込める(③)。
実際、ポータルサイトの「制度導入がもたらすメリット」には、慢性的睡眠不足とパフォーマンス低下の関係に関するアメリカの研究が紹介されている。
「被験者を一晩の睡眠時間が4時間、6時間、8時間のグループに分け、実験室に14日間宿泊させて反応検査を実施した。同時に、3日間徹夜させるグループにも同様の反応検査を実施した」
「反応検査は、ランダムに提示される刺激に対し、0.5秒以上かかって反応した遅延反応数の変化をグループごとに観察した」
「その結果、4時間睡眠の場合、その状態が6日間継続しただけで、“一晩徹夜した”のと同じくらいの遅延反応が生じ、10日以上続くと、“二晩徹夜した”のと同等レベルの遅延反応が生じた」
「また、6時間睡眠でも、その状態が10日以上続くと、“一晩徹夜した”のと同じくらいの遅延反応が生じた」
つまり、毎日少しずつでも睡眠不足が続くと、「『睡眠負債』が積み重なって疲労が慢性化し、やがて徹夜した状態と同じになってしまう」ということだ。
判断能力や反応が鈍くなり、仕事にも支障をきたす可能性が出てくる。
富山県が導入した背景
5月17日に記者会見した新田八朗・富山県知事は、勤務間インターバル制度を試験的に導入する背景として、「様々な行政課題に迅速な対応が必要になっており、限りある人材・時間で質の高い仕事が求められている」と説明した。
その上で、「職員の生活時間や睡眠時間を確保することで、疲労回復、仕事への集中力・生産性の向上、健康保持・ウェルビーイングの向上などの効果が期待できる。それが、県民サービスの向上につながる」とした。
また、勤務間インターバルは原則「11時間以上」とし、知事部局の約3000人を対象に6月1日から試験的に始めるという。
富山県の働き方改革のコンサルティングを行う「ワーク・ライフバランス」(東京)の小室淑恵社長も会見に参加し、「今は生産年齢人口が少ない。働く時間を短くし、多様な人材が豊かなライフの時間を過ごす組織が業績をあげる」と指摘。
そして、日頃から睡眠時間をしっかりとることで、「災害など緊急事態が発生しても力を十分発揮できるようになる」と話した。