裁判員で急性ストレス障害に 女性が国を提訴

もなくスタートから4年を迎える裁判員制度。もし自分だったら――。そう思わずにいられないニュースが飛び込んできた。強盗殺人罪などに問われた被告に死刑判決を言い渡した今年3月の福島地裁郡山支部の裁判で、裁判員を務めた女性が7日、裁判で急性ストレス障害になったとして、国に慰謝料など200万円の賠償を求めて仙台地裁に提訴した。
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まもなくスタートから4年を迎える裁判員制度。もし自分だったら――。そう思わずにいられないニュースが飛び込んできた。

強盗殺人罪などに問われた被告に死刑判決を言い渡した今年3月の福島地裁郡山支部の裁判で、裁判員を務めた女性が7日、裁判で急性ストレス障害になったとして、国に慰謝料など200万円の賠償を求めて仙台地裁に提訴した。

朝日新聞デジタルによると、訴えを起こしたのは福島県の60代女性。同県会津美里町で夫婦を刺殺したなどの罪に問われた無職高橋(旧姓横倉)明彦被告(46)の裁判に参加した。

産経新聞が訴状の内容を次のように報じている。

訴状によると、女性は判決日を含む6日間の全日程に参加し、殺害現場のカラー写真がモニターに映った3月4日の審理で休廷中に嘔吐。頭がぼんやりして食事がのどを通らず、夜も写真がフラッシュバックして就寝中に何度も目が覚めるなどの症状が出た。3月下旬に県内の病院でストレス障害と診断され、現在も治療中という。

産経ニュース 2013/5/7 12:08)

「自分で最後にして欲しい」。女性の苦しい胸の内を時事通信が伝えている。

元裁判員の女性は7日、関係者を通じて「裁判員に選任された結果、心身に障害を受ける人がこれ以上出てもらいたくない。自分で最後にしてもらいたい」とするコメントを出した。

女性は国家賠償訴訟を起こした目的を、「慰謝料を請求することではなく、自分と同じ犠牲者を出さないためで、裁判員法の違法性について判決をもらうためだ」と説明した。

自宅療養中の現在の体調にも言及し、吐き気や食欲不振、物事に集中できない状況が続いているほか、日中も裁判で見せられた写真やテープレコーダーの声が聞こえ、夜中には何度も目が覚めてしまうとした。

時事ドットコム 2013/05/07 12:04)

最高裁は裁判員経験者の心のケアのために、相談窓口を設けているという。

しかし、裁判員制度に参加した人の心理的負担の軽減や裁判後の心のケアは十分とはいえるのだろうか。

今回の提訴を受け、裁判員経験者ネットワーク「裁判員の心理的負担について」コメントを掲載している。そのなかで、同ネットワークは心のケア体制が改善、充実されない現状と裁判所の対応を厳しく批判。早急に裁判員と裁判員経験者の心のケアの充実を図るように務めるべきだと訴えている。

<「裁判員の心理的負担について」コメント>

この裁判員経験者の方(編集部注:提訴した60代女性)が対面カウンセリングを希望した際、最高裁が開設している「メンタルサポート窓口」で、交通費を自分で負担して東京に行かないと対面カウンセリングが受けられないと言われ、対面カウンセリングを断念したということがあったそうです。これが事実だとすれば、このような対応を裁判所がとっているということに正直驚くと共に、失望の念を禁じえません。ケアを求める裁判員経験者にとり、このような裁判所の対応はあまりにも酷です。国民の司法参加を実現した貴重な裁判員制度を支える裁判員の心のケアに対する裁判所側の理解不足とケア体制の不備を露呈しているものと言え、裁判所は早急に裁判員及び裁判員経験者の心のケアの充実を図るよう努めるべきです。

裁判員経験者ネットワーク 世話人一同 2013/04/26)

同ネットワークはこれまで、弁護士や臨床心理士の立ち会いのもと、裁判員経験者同士の交流会を定期的に実施してきた。「話し合えることで心が軽くなった」「似た経験をした人同士で話せて、気持ちが整理できた」といった感想が寄せられているという。同ネットワークは「同じような経験をした人同士が語り合うことで、心の負担を和らげる効果がある。もし裁判員経験者で心に負担を感じている方がいらっしゃれば、ぜひご連絡を頂き、交流会という形で心の負担を和らげるきっかけを掴んで頂ければと願っております」と呼びかけている。

裁判員制度が導入された2009年5月から11年12月までに18326人が裁判員に選ばれている。(最高裁判所「裁判員制度の実施状況について(まとめ)」)

最高裁が実施した「裁判員等経験者に対するアンケート 調査結果報告書」によると、 裁判員に選ばれる前は半数以上の人が「あまりやりたくなかった」または「やりたくなかった」と答えているが、実際に参加した後は9割を超える人が「非常によい経験と感じた」または「よい経験と感じた」と回答しているという。

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