SDGsはインターネットと同じ「成長曲線」を描けるか

会社で「SDGs」を始める前に 考えたい3つのポイント。ハフポスト日本版は2021年、SDGsを追いかけます。
ハフポスト日本版
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「SDGs」は20年前のインターネットと同じような雰囲気がある。

怪しげな横文字として聞くようになり、いつの間にかみんなが呪文のように口にしている。

いったいSDGsとは何なのか。

SDGsの読み方がわからなかった2年前

SDGsとは、環境問題、ジェンダーや教育格差、貧困問題などの解決を2030年までにめざす17の目標を指す。

達成できなくても罰則は無い。でも、世界中の国や企業が「いま何もやらないと地球環境がおかしくなる」と慌てて動いている。

国連で2015年に採択され、ここ1〜2年で急速に日本で広まってきた。企業は環境や人権に配慮した経営を迫られ、ジェンダー平等へのコミットが求められる。

カラフルなバッジを付けている人も増えて来たが、始めの頃は「エス・ディー・ジーズ」という読み方も分かりづらかった。

SDGsはカラフルなロゴが特徴だ。バッジやバッグにも使われている
SDGsはカラフルなロゴが特徴だ。バッジやバッグにも使われている
Ludmila Derevyankina via Getty Images

20年前の首相が読めなかった「イット革命」

似ているのは20年前の2000年ごろのインターネットだ。

「イットってなんだ…」。当時の森義朗元首相は、情報技術を現す「IT」という文字が読めなかったとされ、野党やメディアが皮肉った。

森元首相は、日本経済再生の切り札として「IT革命」を宣言。官僚たちは次々とIT関連の予算を要求した。ITと付けばお金が付いた時代だ。当時の概算要求をざっと見てみよう。

▽労働省 IT対応の職業能力開発 205億円

▽通産省 IT経済への構造改革の推進 101億円

▽文部省 IT授業などのための新世代型学習空間の整備 151億円

▽農水省 農林水産業・農山漁村IT推進プロジェクト 169億円

(朝日新聞2000年8月31日の社説「ITなら何でもありか」)

中央官庁のある管理職はこう振り返る。「ITは魔法の言葉だった。本質的なことを議論しないまま、アイティ、アイティと言っていた面もあった」。

ITとSDGsは似ている。どちらも…

「何でも良いからSDGsをやってくれ!」と困っている企業の偉い人と似ている。

ITの発展とともに、インターネットは身近になり、革命を起こしていった。2007年にiPhone発売、FacebookやTwitterが登場し、Amazonで買い物ができるように。生活、教育、仕事、エンタメ。アメリカの企業がすべてを変え、日本の会社は取り残された。

日本企業の中には、「IT担当」「デジタル担当」などの役員や部長を置いてネット戦略を任せっきりにしていたところもあったが、間違いだと気付くころには遅かった。

なぜならインターネットは、誰かが「担当するもの」ではなく、すべての仕事のベースとなっていたからだ。

ma_rish via Getty Images

SDGsは「きれいごと」からビジネスの本質へ

SDGsは「きれいごと」から、ビジネスの本質、ベースになっている。

インターネットと同様、それは誰かに任せるものではなく、みんなが「基盤」として考えないといけないものだ。

日本の二酸化炭素排出量は世界で5番目に多い。ジェンダーギャップ指数は世界で121位と低迷している。

1990年代、アメリカのナイキ社の関連の工場で、子どもたちが劣悪な環境で働いていたとして不買運動につながった。

アップル社は、製品製造を頼んでいた台湾での労働問題が批判された。いまは両社も人権や環境に神経をつかう。

トップがジェンダーや性的マイノリティ、人種の課題に無知なら、SNSで明らかにされ、社員は離れていく。

Julia Lazebnaya via Getty Images

企業を監視するSNSユーザー

企業は誰のものか。

現代社会では、消費者、取引先、SNSユーザー、NGO、ひとり一人の社員…と「みんなのもの」になりつつある。

投資家も「お金の話」だけではなく、投資先の企業が環境やジェンダー問題に取り組んでいるのかを厳しくみる。

企業の経営や財務内容を調べる「デューデリジェンス」という言葉は、「人権デューデリジェンス」という新たな意味でも使われ、企業のサプライチェーンの人権問題もチェックされる。

ルールが変わった。ネットでビジネスのあり方が激変したように。

elenabs via Getty Images

「SDGs」を始める前に。3つのポイント

SDGsは、インターネットよりダイナミックで、なおかつより本質的な変化を世界にもたらすと私は思っている。

スティーブ・ジョブズさんではなく、グレタ・トゥーンベリさんが私たちに叫ぶ。「システムを変えろ」。

そしてシステムを変えるのは、iPhoneという商品ではなく、私たちの「マインドセット」だ。それには3つのポイントがある。

(1)資本主義を疑う

drante via Getty Images

アメリカの民主党支持者には、資本主義だけでなく、社会主義を好意的にみる傾向も出ている。車を所有せず、「シェア」の文化に慣れた若者が、富を囲い込む従来の資本主義と合わなくなっている面もあるだろう。

「資本主義を今日からやめよう」という極端なことを言いたいのではない。

しかし2008年のリーマンショックを経験し、アメリカや日本の経済界が「株主第一主義」の見直しも口にする世界に生きる企業は、すべてをゼロベースで考えないといけない。マルクスがまた注目されている。大事なのは資本主義の「外」をも、想像することだ。

(2)次世代を第一に考える

SiberianArt via Getty Images

定年間近の役員や、中高年よりも、気候危機の影響を大きく受けるのは今の10-20代である。赤ん坊や子どもたちである。

新型コロナで苦しい日々が続く。次世代のことを考えるのは「余裕がある理想主義」なのかもしれない。

しかし、現役世代の「選択ミス」の割を食うのが次世代ならば、フェアではない。

選挙の投票ができるのは18歳以上だが、SDGsなどの課題は、次世代の意見をもっと採り入れた方がいいのではないか。政治も、企業も、メディアも。

(3)「完パケ」主義よりアクション

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「うちは不十分なところが多いので、社内を整えて完璧にしてからSDGsの取り組みを始めたい…」。あるいは「世の中に宣言するのは、おこがましい」とためらう企業も多いだろう。「完パケ主義」だ。

しかしながら、SDGsは目標が17もあり、どれも完璧に取り組めている企業はない。

うちは社内でペットボトルをまだ使っているから、と思っても、SDGsの別の項目なら取り組めるかもしれない。経営陣と社員でもアクションを起こせる範囲は異なる。

きれいごとを言うだけで実態が伴わない「SDGsウォッシュ」「グリーンウォッシュ」、途上国や弱い立場の人に負担を押しつける「ごまかし」は厳しく批判されるべきだが、まずは自社の課題も含めてオープンに、動き出す。

SDGsという言葉が持つ言葉の “うさんくささ” も自覚したうえで迷いながら行動する。

冷笑もあるが、応援もあるはずだ。

elenabs via Getty Images

SDGsは、インターネットと同じ成長曲線を描きながら、かつ私たちにもっと本質的な想像力を働かせることを求めている。

ネットはそこまでの革命ではなかったのかもしれない。古い資本主義を温存させただけだった。

持続可能な地球のために、まともな社会をつくるために、もっとやることがあった。それにいま、私たちは気付いたのだ。

(文:竹下隆一郎/ ハフポスト日本版編集長)

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