2000年代に本格化したアフリカ経済の成長は、中国の旺盛な資源需要によって生じた資源価格の高止まりに牽引されてきた。過去15年間で中国はアフリカ開発の中心的存在に躍進し、アフリカ諸国は中国依存を強めてきた。2009年以降、中国はアフリカにとって最大の貿易相手国である。
したがって、中国経済の成長が鈍化し、資源ブームが終焉すれば、アフリカ経済が大きな影響を受けることは必然である。問題は、中国経済が減速していくなかで、中国とアフリカの関係がどのように変質していくかである。
中国の税関総署は1月13日、2015年の貿易統計を発表した。その中身については、中国経済の減速を象徴するものとして、日本のメディアでも大きく取り上げられたが、輸出と輸入を合わせた貿易総額が3兆9586億ドルと、2014年比で8%減少したことが注目された。
中国の貿易総額が前年割れしたのは、リーマンショックの影響を受けた2009年以来6年ぶりのことである。輸出は総額2兆2765億ドルで前年比2.8%減。減少幅が大きかったのは輸入の方で、総額1兆6820億ドルは前年比14.1%減だった。
中国の輸入が全体的に減るなか、日本のメディアでは報道されなかった要素として、中国のアフリカからの輸入の大幅な減少という事実が筆者の目を惹いた。2015年の中国のアフリカからの輸入は670億ドルで、前年比で38%も減少していたのである。
一方、中国からアフリカへの輸出は1020億ドルで、前年比3.6%増だった。中国がアフリカから買う商品は劇的に減ったが、中国がアフリカに売る商品は逆に増えたのである。
「資源頼み」の経済発展
中国がアフリカから買っていた商品の大半は資源である。原油価格の下落が始まる前の2013年の統計をみると、中国のアフリカからの輸入の43.6%は原油が占めていた。これに鉄鉱石、銅、プラチナ、ダイヤモンド、マンガンなどの資源を加えていくと、中国のアフリカからの輸入に占める資源の割合は、実に65%に達していた。
つまり、2015年になって顕在化した中国のアフリカからの輸入の大幅減とは、中国の資源需要の減少と資源価格低迷の反映にほかならない。今後、中国の成長が鈍化し、資源価格低迷が長期化すると、中国とアフリカの貿易関係は、従来にも増してアフリカ側の輸入超過の傾向を強めていくだろう。
これは、アフリカにとって深刻な事態である。今世紀に入って以降、アフリカでは農業生産も工業生産もほとんど伸びず、石油開発に代表される資源生産だけが飛躍的な発展を遂げてきた。
その結果、今やサブサハラ・アフリカから全世界へ向けた輸出の60%以上は資源である。中国の成長減速と資源価格の下落によって、資源輸出に牽引されてきたアフリカ経済の成長の図式が崩れ始めているのである。
もとより資源輸出に過剰依存する経済成長は、危うい成長の仕方である。過去1年ほどの間に、アフリカのいくつかの国の政府当局者の話を聞いて分かったのは、どのアフリカの国の政府にも、そうした危機意識を有している人が存在しているということであった。彼らが切望しているのは、資源産業以外の産業の育成、すなわち製造業に代表される工業の育成と、世界最低の生産性に甘んじている農業の近代化である。
そして、アフリカ開発の中心的存在となった中国は、アフリカの側にあるこうしたニーズをよく認識しているように、筆者には見える。
習近平演説への高い評価
昨年12月、南アフリカで開催された「第6回中国アフリカ協力フォーラム(FOCACⅥ)」における中国の習近平国家主席の演説は、アフリカのニーズに正面から応える内容として、アフリカ諸国の指導者から高い評価を受けた。
FOCACは、中国政府が2000年から3年に1度のペースで、自国とアフリカで交互に開催している首脳級の会合である。
中国は2006年の第3回会合で50億ドルの拠出を表明したのを皮切りに、2009年の第4回会合で100億ドル、2012年の第5回会合では200億ドルを表明後に100億ドルを追加表明......という具合に、アフリカへの資金拠出を拡大してきた。そして6回目の今回、習氏は総額600億ドルの支援を表明し、工業化など10分野への協力を約束した。
600億ドルという桁違いの金額もさることながら、注目すべきは習氏がアフリカの「工業化」支援を前面に打ち出したことである。
習氏が協力を約束した10分野(①工業化、②農業近代化、③インフラ整備、④金融、⑤グリーン発展、⑥貿易・投資円滑化、⑦貧困削減と社会福祉、⑧公衆衛生、⑨人材交流、⑩平和と安全)の中で、工業化は最初に挙げられた。世界最低の生産性に甘んじているアフリカ農業の近代化を2番目に挙げている点も見逃せない。
また、今回のFOCACに合わせて発表された中国政府の「アフリカ政策文書」には、アフリカの「産業化」の重要性への言及が7箇所にわたって登場する。2006年に発表された前回の「アフリカ政策文書」では、産業化に関する言及が1箇所しかないことと比較すると、その違いが際立っている。
「新植民地主義」を超えて
中国のアフリカ進出に対しては、欧米と日本のメディアを中心に「新植民地主義」という批判が寄せられてきた。「中国は自国の資源需要を満たすためにアフリカに資源企業を進出させ、労働者を送り込んで現地の雇用を奪い、質の悪い自国製品を大量に売りつけて地場産業が発展する機会を奪う」という紋切り型の中国批判だが、これまでの中国のアフリカ進出に「新植民地主義」的な要素があったことは事実であった。
だが、「アフリカからの輸入の大幅な減少」と「産業育成支援の約束」という2つの事実を重ね合わせると、中国の新しいアフリカ戦略の輪郭が浮かび上がる。それは、「資源確保」という使命から、産業育成支援を通じた「アフリカ経済の底上げ」という長期的で野心的な目標へのシフトである。
産業育成支援によってアフリカに資源以外の輸出品を生産する力を付与し、アフリカ経済の底上げを図れば、アフリカ諸国民の購買力が向上し、やがてアフリカは中国製品の巨大な市場へと成長する。それが中国の中長期的な国益につながる......。そのように考えているのではないだろうか。
白戸圭一
三井物産戦略研究所国際情報部 中東・アフリカ室主席研究員。京都大学大学院客員准教授。1970年埼玉県生れ。95年立命館大学大学院国際関係研究科修士課程修了。同年毎日新聞社入社。鹿児島支局、福岡総局、外信部を経て、2004年から08年までヨハネスブルク特派員。ワシントン特派員を最後に2014年3月末で退社。著書に『ルポ 資源大陸アフリカ』(東洋経済新報社、日本ジャーナリスト会議賞)、共著に『新生南アフリカと日本』『南アフリカと民主化』(ともに勁草書房)など。
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(2015年1月19日フォーサイトより転載)
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