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2018年04月16日 15時58分 JST | 更新 2018年04月16日 15時58分 JST

理不尽な猛バッシング跳ねのけたマスターズ「新王者」勝利の意味--舩越園子

リードは本当に強かった。

Getty Images

『ゴルフの祭典』マスターズが終わり、早4日が経過した。今年の大会の米国におけるテレビ中継の結果が、いろいろな角度から次々に報告されている。

 スポーツ専門チャンネル『ESPN』が中継した予選2日間は350万人が視聴し、前年比46%アップ。『CBS』による決勝ラウンドの中継は、3日目が前年比24%アップ。1300万人が視聴した最終日は前年比18%アップで、2015年大会の1420万人に次ぐ高い数字を記録した。

 今年のマスターズは開幕前からタイガー・ウッズで沸いていた。3年ぶりのマスターズ出場となったウッズが13年ぶりに「オーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブ」で復活優勝を遂げるのではないか。その期待が今年のテレビ中継の視聴率を押し上げたことは疑いようもない。

 昨年4月に生涯4度目の腰の手術を受けたウッズは今年1月に1年ぶりに米ツアーに復帰し、5試合に出場してラスト2試合で優勝争い。そんなふうに復活の兆しを十分に見せていたウッズに人々がマスターズでの復活優勝を期待したのは、当然の成り行きだった。

 そして、ウッズ自身も大いなる希望を抱いていた。

「今、僕のスイングスピードはクレイジーなほど速い。これほどのスピードでドライバーが振れているのは、僕の生涯で初めてだ」

 腰の状態はきわめて良好。クラブを思い切りよく振ることができ、球は飛び、勢いはある。マスターズは過去4勝。オーガスタは隅々まで知り尽くしている。だからこそ、ウッズは優勝候補の筆頭にまで挙げられていた。

 しかし、戦線復帰からマスターズ復活優勝へと一気に跳躍するための助走という意味で、わずか5試合の調整は、やっぱり十分ではなかったということなのだろう。パワフルなドライバーショットが曲がり、フェアウェイを外すのは昔からのウッズの傾向と言えるのだが、かつてはどんな場所からもミラクルショットでピンそばに付けていたアイアンショットの精度が今回は最後まで戻らず、それが32位タイという平凡な順位につながった。

「アイアンがダメだったのは本当に残念だ」

 とは言え、数カ月前、1年前の状況と比べれば、マスターズで4日間を戦い抜くことができ、自他ともに優勝を現実的に狙えるところまで前進したことは、「ビッグチャンスを得た思いだ」と明るい笑顔。オーガスタを訪れていたギャラリーたちも、そんなウッズに最後までエールを送っていた。

異質だったサンデーアフタヌーン

 3日目を終えたとき、ウッズは首位から18打差の通算4オーバーで40位タイ。ウッズ逆転優勝の可能性は、その時点でほぼゼロになっていた。

 しかし、それでも最終日のテレビ中継は高い視聴率を誇った。もちろん、順位とは無関係に、ただウッズが観たいというファンは大勢いたはず。だが、早い時間にスタートしたウッズがホールアウトした後、「視聴数はさらに高まっていった」(CBS担当者)。

 人々の興味と関心は、言うまでもなく最終日を最終組で回るパトリック・リードとローリー・マキロイ、そして彼ら2人を追いかけるリッキー・ファウラーやジョン・ラームといった上位選手たちによる優勝争いに向けられていた。

だが、今年のオーガスタのサンデーアフタヌーンには、いつもとは少々異なる空気が溢れていた。

アンフェアな暴露合戦

 それは、リードの過去にまつわる暴露から始まった。米メディアの一部がそれを発信したことで、リードの昔に何かしら接点を持っていた一般の人々が次々にSNS上で意見を言い始め、みるみる広がっていった。その現象を受けた米メディアは、さらにその報道を激化させていった。

 かつて、リードが米ツアー3勝目を挙げたとき、「僕は世界のトップ5に数えられる」とか、「こんな勝ち方ができるのはタイガーと僕しかいない」などと豪語したことは事実である。ストレートで強気な物言いは、その通り、リードの特徴だ。それをあらためて報じることは、何ら問題はない。

 だが、とてもアンフェアだと思うのは、マスターズでリードが優勝争いに絡んだ大事なタイミングで、一方的な暴露を行ったことだ。ゴルフの名門ジョージア大学に入学したリードが、まるで追い出されるようにオーガスタ大学へ転校した背景に何があったのか。彼の両親はオーガスタのすぐそばに住んでいるにもかかわらず、なぜリードとは何年も疎遠になっており、なぜオーガスタに入場することが禁じられているのか。息子が単独首位で最終日に挑むときでさえ、なぜ現地観戦することができないのか。

 犯罪の臭いがする出来事までもが、まことしやかに綴られた米メディアの数々の記事、そしてSNS上で広まったさまざまな内容。どれにも確固たる証拠はなく、別件でたまたま世に出ていた大学ゴルフ部コーチの手紙などが都合よく流用され、リードの「グレーな話」の証拠のごとく代用されていた。

 あまりにも不確かで、あまりにも中傷性の高い話ばかりなので、私はこの場にその詳細を書くことはしたくない。広められた「グレーな話」がもしも真実だったのだとしたら、リードは大学ゴルフの世界にもプロゴルフの世界にも居られなかったはず。ましてや選ばれし名手たちが集うマスターズの舞台に4度も5度も立てたはずはない。

 そして、マスターズの優勝争いの真っ只中という状況下、一方的に「グレーな話」を発信され、広められたリードには、十分に反論や反撃をする時間も余裕も術もない。

「僕はSNSで何を言われようとも、コース上で人々が僕を応援しようとしまいと、それとは無関係に僕のゴルフに集中する」

 3日目の会見の際、リードは毅然とそう言った。

「神によって試される日」

 最終日最終組がスタートする1番ティ。ギャラリーの拍手と歓声はあからさまにマキロイに向けられていた。

 もちろん、マキロイが大きな声援を受ける理由はたくさんあった。2011年大会で優勝ににじり寄りながら、最終日のバック9で大崩れして大敗を喫したマキロイが、7年ぶりに優勝争いに絡み、優勝すれば史上6人目の生涯グランドスラム達成となる。人々がマキロイにエールを送るのは当然ではあった。

 しかし、ギャラリーの間で「リード以外なら誰が勝ってもいい」というフレーズが口ずさまれ、1番グリーンでリードのパーパットがカップの先へ転がったとき、「もっと転がれ、転がれ」という声まで上がった状況は、あまりにも残念。だが、リードはすべてを吹き飛ばす強さを持っていた。

 3日目の夜。マキロイは最終日にともに回るリードを意識し、「すべてのプレッシャーは彼にかかる」と言った。だが、リードは「優勝争いをするのは僕ら2人だけじゃない。僕はコースと自分との戦いに徹する」と言い切った。

 そして、その通り、最終日は勝利を競い合う相手がマキロイからジョーダン・スピースへ、リッキー・ファウラーへと変わっていったが、リードはひたすら自分流のゴルフを貫いた。

 スピースに追いつかれた直後の14番で見事なアイアンショットを放ち、ピン2メートル半に付けてバーディー獲得。スピースを再び引き離した。

 続く15番はパー5。木々の後ろからリードは2オンを狙おうとしたが、義理の弟でもあるキャディのケセラ―がレイアップを強く勧め、聞き入れた。刻んだ後の第3打をグリーン奥へ外したが、冷静に寄せてパーを拾った。16番でもパーを取り、17番で1.5メートルのやや下りの難しいパーパットを沈め、追撃してきたファウラーとの差を1打に保った。

 そして72ホール目。再び残った下りの1メートルのきわどいパーパットをしっかり沈め、両腕を振るわせながら激しいガッツポーズを2度、3度。そうやってリードは堂々とマスターズを制覇した。

「今朝、すべての報道はマキロイ優勝を予想していた。1番ティに立ったとき、みんながマキロイを応援していた。それが僕の闘志を燃え上がらせた。最終日は混戦になると思っていた。技術的、肉体的なものではなく、マスターズに勝てるだけの精神的な強さを誰が持っているのか、いないのか。それが神によって試される日になると思っていた」

 それを持っていたからこそ、リードが勝利した。そう、彼が今年のオーガスタで精神的に打ち勝ったものは果てしない。

 リードは本当に強かった。だから彼はグリーンジャケットを羽織るにふさわしい。私は、そう信じたい。


舩越園子 在米ゴルフジャーナリスト。1993年に渡米し、米ツアー選手や関係者たちと直に接しながらの取材を重ねてきた唯一の日本人ゴルフジャーナリスト。長年の取材実績と独特の表現力で、ユニークなアングルから米国ゴルフの本質を語る。ツアー選手たちからの信頼も厚く、人間模様や心情から選手像を浮かび上がらせる人物の取材、独特の表現方法に定評がある。『 がんと命とセックスと医者』(幻冬舎ルネッサンス)、『タイガー・ウッズの不可能を可能にする「5ステップ・ドリル.』(講談社)、『転身!―デパガからゴルフジャーナリストへ』(文芸社)、『ペイン!―20世紀最後のプロゴルファー』(ゴルフダイジェスト社)、『ザ・タイガーマジック』(同)、『ザ タイガー・ウッズ ウェイ』(同)など著書多数。
関連記事 (2018年4月12日フォーサイトより転載)