台座のコケや周りの雑草も丁寧に処理
熊本県の天草市社会福祉協議会(中村五木会長)は2015年6月から、障害者や生活困窮者などが墓地の清掃を代行する事業を開始した。高齢化により手入れができずに放置された墓地問題を解決すると同時に、一般就労が困難な人の居場所をつくる狙いがある。
「まずはお参りから始めましょうか」ーー。取材した1月上旬。清掃作業を行う人たちは全員で墓石を前に手を合わせ、静かに目を閉じた。辺りに静寂が立ち込める。
この日、墓地を掃除したのは20代と50代の男性2人。薬品や高圧洗浄機などは使わず、墓石に水をかけては、黙々と磨き上げる。また、台座のコケや、周りの雑草も丁寧に処理する。時折、「そこ、キレイになりましたね」と支援員の声が飛んだ。
3回目の参加という20代男性は、地域の民生委員の紹介で墓地清掃をするようになった。熊本市内の専門学校を卒業後、就職が決まらないまま天草市の実家に帰省。両親は他界しており、祖母と弟との3人暮らしだという。
一般就労の経験もあるが、これまで長続きせず、最近は引きこもりがちだった。男性は、額にうっすら汗を浮かべながら「墓地の掃除は疲れるけど、終わった時の達成感は大きいですよ」と語った。
天草市社協が墓地清掃管理サービスを始めたのは、高齢化と労働力の都市部流出が進み、誰も管理しない荒れた墓地が目に付き始めたからだという。一方で、2015年度から生活困窮者自立支援法が施行され、地域の居場所づくりも課題となっていた。
そこで、天草市社協はこうした地域課題を一度に解決できるのではないかと事業化を決意。同市長でもある中村会長が知的障害者の居場所づくりへの理解があったことも後押しとなったという。
作業の基本料金は1基あたり3500円。生け花を備えると、さらに1500円掛かる。このうち500円を社協が手数料として取り、残りは作業した人たちが分け合う。
作業の前と後には、墓の写真を撮影し、依頼者に報告する。「墓地の掃除ができなくてご先祖様に申し訳ないと思っている高齢者は少なくなく、清掃後の写真を見せると、涙を流して感謝する依頼者もいる」と福本壮一・同市社協常務理事は語る。
清掃作業をする人は事前に研修を受講。石材会社の担当者から墓石の知識や扱い方を学ぶ。困窮者以外に、市内の障害者施設の利用者にも参加を呼び掛け、現在30人以上が研修を修了したという。
墓地清掃は開始当初、天草市社協の会報誌で告知しただけだった。だが、地元紙やテレビ局が一斉に取り上げると問い合わせが急増。15年7~12月の実績は60基に上り、当初の予想を上回った。
既に年4回の清掃依頼もあり、さらに問い合わせが増える可能性もある。ただ、お盆や年末など時期によって依頼が偏るとみており、今後は一度に対応できる人材の養成が課題だという。
福本常務理事は「墓地清掃はさまざまな地域課題を解決する社協ならではの事業ではないか。今後も地道に市民の理解を広げていきたい」と話している。
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