政府のギャンブル等依存症対策推進関係閣僚会議(菅義偉・内閣官房長官主宰)は3月31日、依存症対策の論点を公表した。厚生労働省関係の論点を多数盛り込んだ。
特に、依存症者を取り巻く生活課題に対応するソーシャルワーカー(SW)の養成カリキュラムを見直すなど、人材養成の関連が目立つ。政府は個々の論点について具体策を詰め、今夏に対策の全体像を公表する。依存症対策の基本理念などを定めたプログラム法の制定も検討する。
同日まとめた「論点整理」(全35ページ)のうち、厚労省関係の論点は「医療・回復支援」として9ページにも及んだ。農林水産省(競馬を管轄)、経済産業省(競輪を管轄)など他省庁よりも多くの紙幅を割いた。
依存症に有効な治療方法を確立し診療報酬で評価すること、精神保健福祉センターの相談体制を強化することと並び、人材養成を重要な論点とした。
具体的には医師、保健師・看護師、精神保健福祉士、社会福祉士、公認心理師を挙げ、養成教育の依存症関連事項を充実したり国家試験の出題基準に明確に位置付けたりする必要があるとした。
ソーシャルワーカーとして依存症者の生活課題に対応する精神保健福祉士、社会福祉士については、「カリキュラムの見直しを検討する必要がある」と踏み込んだ。
現在のカリキュラムでは、「権利擁護と成年後見制度」に「アルコール等依存症者への対応の実際」が教育内容の例として想定されているが、これでは不十分だと判断した。
また、依存症者が障害福祉サービスのグループホームなどを利用する場合があるとした上で、「障害福祉サービス従事者は依存症に対する知識や支援技術が不足している。研修や啓発を通じて適切な支援を提供できるよう対策をとる」とした。
生活保護など福祉行政の各分野における依存症者支援の現状と課題も整理した。自助グループの活動そのものへの支援は現在ないため、今後は拡充する必要があるとした。
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「論点整理」には、ギャンブル等依存症と疑われる人(回復した人を含む)が成人の2.7%(約280万人)に上るとする最新の推計も盛り込んだ。
厚労省が昨秋、政令市の一部など11都市の2200人を無作為抽出し、協力の得られた993人に面接調査した。今後は対象を全国の1万人に増やして再調査し、今夏に結果をまとめる。
他省庁に関係する事業者規制の論点としては(1)競馬場などにあるATMの融資機能廃止(2)依存症者や家族の申告で馬券などの購入を制限する(3)パチンコの出玉規制の強化――などを盛り込んだ。
関係閣僚会議は、カジノを解禁する統合型リゾート(IR)推進法が昨年末に成立したことを受け、ギャンブル等依存症の実態把握や対策の強化が政府の宿題となったことにより設置された。
30日には自民、公明両党がギャンブル等依存症対策について菅官房長官に申し入れ、対策の基本理念や基本計画の策定などを規定するプログラム法の整備を求めた。
菅官房長官は31日の閣僚会議で依存症の相談・治療体制について「専門的に対応できる人材の育成や自助グループへの支援を強化する必要がある」と話し、与党と連携して包括的な依存症対策を講じる考えを示した。
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厚労省の13年度の推計によると、ギャンブル等依存症の疑いがある人は成人の4.8%(536万人)。その8割はパチンコによるものだとしているが、政府は「パチンコは遊技であってギャンブルではない」(内閣官房)とみている。
閣僚会議はギャンブル等の「等」にパチンコを含め、既存の賭け事による依存症について対策を議論しているが、カジノの依存症対策は別途検討する。
依存症者の回復支援に要する費用をどこから捻出するかという問題も絡み、支援対象者の範囲を整理することも残された課題だ。
なお、政府は4月4日、IR整備に向けた推進本部(本部長=安倍晋三首相)の初会合を開き、本格検討に着手した。カジノの運営方法や入場規制の在り方、IRを造りたい自治体がとる手続きなどを話し合い、今秋の臨時国会にもIR実施法案を提出する。
(2017年4月14日「福祉新聞」より転載)