【安保関連法案】「反対の声が将来に歯止めをかける」--孫崎享氏に聞く

16日、 安保関連法案が衆院を通過した。反対の声が日増しに強くなる中、今国会中に成立するのかどうか、大きな注目を浴びている。数人の識者に法案の評価、メディア報道、反戦デモについて聞いてみた。

 16日、 安保関連法案が衆院を通過した。反対の声が日増しに強くなる中、今国会中に成立するのかどうか、大きな注目を浴びている。数人の識者に法案の評価、メディア報道、反戦デモについて聞いてみた。

 今回は、孫崎享氏にお話をうかがった。氏は駐ウズベキスタン大使、国際情報局長、駐イラン大使を経て、2009年まで防衛大学校教授。東アジア共同体研究所理事・所長。日米関係の戦後を綴った「戦後史の正体」(創元社)は22万部の売れ行きとなった。「日本の国境問題-尖閣・竹島・北方領土」(ちくま新書)などほかにも著書多数。最新刊は「日米開戦の正体」(祥伝社)。ニコニコ動画ツイッターで積極的に情報発信をしている。

 今回の安保関連法案の是非について考えるとき、日本の文脈だけで考えていては見えてこないものがあるのではないか、と思っていた。外務省の元国際情報局長で、米、英国、イランなど、世界を様々な視点から見てきた孫崎氏に、国際的な文脈を踏まえての視点を聞いてみたかった(取材日は7月10日)。以下はその一問一答である。論旨を明確にするため、言葉を整理した部分がある。

***

ソ連崩壊後の世界で

—現在の安保関連法案をどう見ていらっしゃるか。

孫崎享氏:私は92-3年から(話が)スタートすると思っている。

  (1991年)ソ連が崩壊した。アメリカの軍需産業、作戦とか、戦略であるとか、武器であるとか、すべてがソ連と戦うために進んできた。ソ連が崩壊することによって、 もうアメリカの軍は要らなくなった。今後は経済に特化するべきであるという意見を、マクナマラ元国防長官などが言っていた。

 しかし、せっかく世界一になったので、この位置を維持したい、と考えた。その軍事を使って、アメリカの意図を政治に反映させていくという考えが主流になってきた。

 1992年に、こうした考えが一応完成し、93年のクリントン(民主党)政権にも引き継がれた。その後、共和党、民主党を超えて、ソ連崩壊後も米国の軍事力が展開されてきた。

 さて、ソ連がなくなったら、誰が「脅威」になるのか?当時は「脅威とはイラン、イラク、北朝鮮である」、という位置付けをした。

 しかし、イラン、イラク、北朝鮮といっても彼らはアメリカを攻撃するような力がないので、アメリカ側は積極的に相手に関与していくという路線を作った。それが今日まで続いているわけだが。

 アメリカにとって1990年代始めに一番脅威となったのは日本やドイツの経済力だった。ドイツと日本を蚊帳の外に置いたら、彼らは経済に特化するから、これを中に入れよう、という形が戦略になってゆく。

 じゃあ、日本をどうするかというと、日本には平和憲法がずっと続いているから、いきなり、日本を軍備に向かわせることはできない。だからまずは人道支援、災害救助、こういうところに自衛隊を使っていくことによって、軍隊が海外に出るアレルギーをなくしていこう、という動きが続いて、それが徐々に徐々に、1990年代、拡大していった。

 2002年ぐらいには、もうそろそろ自衛隊を軍備のほうに使っていいだろうという感じがアメリカの中に出てきて、それが日本政府には2004年ぐらいに明確な形で伝達される。こうして、2005年10月に、「日米同盟未来のための変革と再編」という文章ができる。

—どんな形となったのか。

 国際的安全保障環境を改善する、という日米共通の戦略のために自衛隊を使う。その内容には、今の集団的自衛権で議論されているものがすべて入ってきている。

 例えば、秘密を守る法律を強化する、機雷の掃海を行う、後方支援を行うなど。2005年の時点で、日米が軍事的な関与をすることに。これは小泉首相が辞めて、小泉さんから安倍さんになった頃。安倍さんは第1回目の政権(2006年9月ー2007年9月)ではこの路線に非常に積極的に関与していく。集団的自衛権という言葉が、ここから出てきている。

 安倍さんはNATOに行って演説をした。私が防衛大学にいた時に、同僚の先生が数えたところ、安倍首相は「アフガニスタン」という言葉に13回言及していたという。アフガニスタンに入るという意思表示を既にしている。

 ところが先ほどの日米協力が重要だということで、こういう流れにはあまり反発はしなかったわけだ。

 安倍さんが首相を辞め、福田首相が就任した(2007年9月—08年9月)。福田さんは集団的自衛権の危険性をものすごく感じていた。具体的にアフガニスタンで協力をしてくれということを言われて、これを断っている。概念自体の集団的自衛権も断る、と。

—福田首相の在任期間は短かったが—。

 次の自民党は短期政権で、民主党が政権党(2009年9月—12年12月)になった。

 (日米の軍事協力についての)流れがいったん消えていたが、第2次安倍政権の発足(2012年12月—)でまた出てきたーこれが現在までの流れだ。

—今回の法案では、具体的にもっと自衛隊が関与できるように法制化することになった—。

 そうだ。集団的自衛権をやるといっても、実際に自衛隊を運用しなければいけないので、これまでは規制がかかっているから、その規制を取っ払わないといない、と。そういう作業が今、行われている。

—特に新しいものではなくて、法律でしっかりとできるようにしてゆく、と。

 理念的には、出発点は93年で、日米間で方針が固まったのは2005年。その当時、憲法との関連はそれほどつけなかった。

憲法と関連付けて、国民が目を向け始めた

—それ以来、少しずつ、法律解釈などを変えることでやってきた、と。

 そうだ。そのようにしていれば、私は今度の法律も簡単に通ったと思う。

 ところが、安倍さんは政治的な野心があったから、自分は憲法に手をいれたという形にしたいと思って、この問題を憲法と関連づけてしまい、国民が目を向け始めた。

 9条に違反するという部分がクローズアップされて、今、かなりの批判勢力が出てきてしまった。

—反戦を掲げる、いわゆるリベラル系の論壇は、それ以前の段階ではあまり声をあげなかった?

 黙っていた。勉強をしていないから。

 護憲派の一番の問題は、これまで、9条を守ることだけをやっていたこと。現実の政治の問題でどういう動きがあるのか、それを見ながら、一つ一つ、反論したり、問題点を提起したりという努力はせずに、9条だけ守ればいい、という姿勢だった。9条に抵触するようなことがあっても、勉強して問題点を提起するような流れまでには行かなかった。9条が残っていれば、それでいいんだ、と。

 そういう意味では、安倍政権やアメリカにとって一番良かったのは、憲法には手をつけない形でやってくれることだった。しかし、安倍さんに野心があったから、憲法にまで手をつけようとしてしまった。

 だから、今の関連法案というのは、もしも黙って法律を出してきたら、国民は全然反対しなかったと思う。憲法というものに関連づけてしまったから、 それが憲法に抵触するというので、いったい何が起きているのか、という形で反対が出てきた。

—今回の法案が成立することで何が変わるのか。

 大きな違いがある。いろいろあるが、例えば今までは、自衛隊がイラクにも行ったが、これは特別措置法でやっている。法案が成立すれば,(海外派遣が)恒久法の下で行える。

—いつでも行ける・・・。

 いつでも行けるようにしてある。

 概念的には、特別措置法で行っていたことを今回は恒久法で、というのは本来はそれほど抵抗がないはずだった。しかし、憲法と関連づけたので、国民はそんなことまでやるの、という話になってきた。

—法律となれば、普通に海外派遣ができるようになる。

 私は、その時の政治的な空気に影響すると思う。例えば、「3条件」というのがあって—。

—内閣官房のウェブサイトにある、「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備についての一問一答」に、「自衛の措置としての武力の行使の新3要件」が書かれている。これによると、(1)「我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力抗争が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」、(2)「これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと」、(3)「必要最小限度の実力酷使にとどまるべきこと」とある。

 安倍さんや安倍さんたちの周辺は、3条件を基本的にクリアできると思っている。あの3条件でできないことはない、と思っている。

 だが、一応3条件みたいなものがあるから、この問題がこれだけみんなの着目を浴びてきたら、今後の国民の反発の度合いによっては、そう簡単に実施はできないと思う。

 方便である3条件が、ある意味で実際上、有効なものになるかもしれない。

 よく、「関連法は成立するのだから、今さら抵抗してもしょうがない」という人がいるが、私はそうではないと思う。

—確かに、私もそういう意見をよく耳にした。

 この問題に対する国民の反発が安倍政権の支持に影響を与える、ということが見えてくると、次の段階で実施する時にちゅうちょすると思う。

若者と女性の声

—では、反対の声を上げることは無駄ではない。

 全然、無駄ではないと思っている。

 非常に新しい動きは2つあって、今までの日本の(政府案への反対)運動のマイナスは、学生が動いていないこと、女性が動いていないこと。運動の展開に非常にエネルギーを欠いていた。だいたい反対というと60代以上の男性。ここにきて流れが変わってきた。

 「女性自身」と「週刊女性」が最近、同じようなタイトルで(安保関連法案について)書き出した。それも10ページの特集だ。一般人の関心事になってきたことを示す。1回火をつけると、どんどん広がってくる。

 学生さんの「シールズ」もある。

 今までとは違った雰囲気が出はじめた。

 ある週刊誌系の人と話していたのだが、「週刊文春」や「新潮」まで安倍批判を始めた。今までは、(大政)翼賛会みたいだったのが、ちょっと流れが変わってきた。

 もうすでに毎日新聞は政権批判の方が賛成を上回ったと言っており、実際に、政権批判の方がもう世論は強くなっている。

 今後反対の動向がどうなるかのターニングポイントに少なくとも来ていると思う。

—反対運動は、もし法案が通ったとしても、実際の運用時に歯止めになる、と。

 歯止めになるし、通っても(実行できなくなる)。安倍政権が無理をしたということで、自民党政権の基盤がぐらついてくる。ぐらついてくれば、実行できるわけがない。

—日本として海外派兵ができ、アメリカと一緒になってやることができるようになる状態というのは、これはいいことなのだろうか。

 いや、非常に悪い。

 一番簡単なことは、行く理由がないからだ。

—海外派兵ができ、アメリカと軍事行動ができるようになると、アジアの他の国はどんな風に見るか。

 基本的には、アセアンは武力行使には消極的な地域だったが、中国の台頭の中で、ベトナムとフィリピンがかなり中国に対して好戦的な動きを出してきた。そういう中で、日本の軍事的な関与に対しては批判というよりは、中国にどう対応するかであって、全体として日本を批判するというふうには今はなっていないかもしれない。

 私は、ベトナムとフィリピンの動きというのは一時的だと思う。中国の経済力が圧倒的なわけだから、台湾と同じ路線をたどると思う。

 台湾は反中、独立志向だったわけだが、今は自分の国の生存は中国市場にあるということで、ベトナムもフィリピンもそのうちその方向に行くのではないかと思っている。

—私が住むイギリスからすると、9条の憲法がある日本では、どうやって国を守っていくのかと不思議になる。

 冷戦が終わった時と今とは状況が違う。非常に大きな点として、西側に対しての攻勢があるわけではない。誰かが西側に対して攻撃があったから、西側がレスポンドしているのではなくて、自分たちの利害の為に戦争に行っている状況がある。

—冷戦後にそうなった、と。

 そうだ。そういう意味で、西側が行動しなかったら、我々がやられるという状況ではないと思う。

 そういう中で、米国がなぜ軍事行動をしているのか。

 中東を見ると、大きな理由が2つある。1つはイスラエル寄りの政策を実行し、イスラエルの安全保障に向けて行動を起こしている。もう1つは、軍産複合企業体の利益、ということだと私は思っている。イギリスの保守層はアメリカと非常に密着している。

 イギリスの保守層から見ると、今のような議論(軍隊がないのにどうやって身を守る事ができるのか)が出ると思うが、国全体として日本がおかしいのではないかという考え方にはならないのでは。

—自衛隊の能力について聞きたい。実戦に参加しなくても、十分に機能できるか。

 第2次大戦後の枠組みはそれ以前の枠組みから非常に大きく変化している。

 大きな枠組みの変化の1つは超大国同士では戦争できないということ。これは非常に大きな意味合いを持っていて、(米政治学者)ジョセフ・ナイが、私がハーバード大に研修に行っていたときに、戦争はどういうときに起きるか、と言って、それは、ナンバーワンがナンバーツーに覇権を脅かされる、そのようなときに戦争というものが起こってくる、と説明した。

 これに核兵器という問題が入ってきたので、核兵器で戦争をナンバーワンとナンバーツーがやると双方ともに破れてしまう。そこで、ナンバーワンとナンバーツーはどういうことがあっても戦争はできないという大きな枠組みが出てきた。

 2つ目は、イギリスが代表的だが、植民地経営というのは結局はマイナスだ、と。コストがかかって。ということだから、今の戦争でどこかの国がどこかの国を植民地にするような形の戦争というのはもうなくなってきたと思う。

 唯一残りは領土問題。これを戦争にしないような枠組みを作れば良いわけで、その努力をやれば、私は戦争は起きないと思う。

 例えば中国をどう見るかというときに、カザフスタンという国がある。石油やガスの、世界で5-6番の産油国だ。中国が一番欲しいものはエネルギーだ。じゃあ、カザフスタンをとってしまえばいいじゃないか、と。

 カザフスタンはアメリカと同盟関係にあるわけじゃない。軍事力が中国に対抗できるものではない。じゃあ何故とらないのか。

 答えはどういうことかというと、基本的に、中国も国際社会との連携によって発展しているわけだから、それにマイナスになることを行うことのほうが、とることによる利益よりも大きくなってきた。

 だから、軍事力でどこかがどこかをとるという時代では、私は基本的になくなっていると思う。

—イギリスは古い考え方の国かもしれない。ずっと戦争をしている。自国ではなく他国に行って戦闘行為などを行い、常に干渉をしている。

 それを切り抜けたのがドイツだ。

 ではイギリスがどうしてやっているのか—。それは、戦争する層がいるからだろう。

—イギリスメディアの論調を読んでいると、外国の中ではロシアや中国については、怖い事が起きている国というイメージを与える。東アジア地域においては、日本に一定の戦闘力を望む報道を見かける。

 欧州については、私はウクライナ問題というのは、アメリカのネオコンに仕掛けられたと思っている。

 今から3-4年前に、NATOが言葉の表現は別として、ロシアを敵にしないという決定をした。軍事的に欧州が努力する必要は何もない。米軍も欧州から撤兵した。

 安全保障を冷戦構造的にやってきた人から見ると、ものすごく困る状況だ。それで出てきたのが、ウクライナ問題。

 仕掛けていったのが、ヌーランド米国務次官補。夫はネオコンの(歴史家)ロバート・ケイガン。今、アメリカの中ではネオコンが国務省を乗っ取っている。ネオコンは、基本的に対立構造を求めている。ウクライナ問題は自然発生的に出てきた問題ではない。

 尖閣諸島も棚上げ合意という方法があって、これは、日中の間で合意しているので、本来的には紛争になるものではない。

 ところが、領土問題を利用することによって、日中の対立が深まる、日中の対立が深まれば、それは日本をより軍事的な方向に持っていくことができる。それはアメリカにとってプラスだという考え方がある。

—アメリカにとって、都合がいい?

 そうだ。

 冷戦時代に、日本とソ連の間に領土問題を置けば、日本が自分たちが都合の良いように動いてくるーという報告をイギリス大使館が本国に出している。こういう考え方はイギリスには昔からある。

日米関係の注目は次の大統領選後

—日米関係はどうなるか。

 (注目は)次の大統領選挙の後だと思う。

 共和党になれば、ものすごく好戦的な人が出てくる、これは間違いない。

 クリントンが大統領になれば、オバマよりは好戦的。オバマ本人は軍備を拡大しようとは思っていない。軍事(を推奨する)グループに抵抗する力はないから、彼らのいう通りにしなければいけないが、本人が率先しているわけではない。

 しかし、クリントンも含めて大統領候補になろうとする人は、本人が積極的に好戦的になろうとしている。だから、次の選挙には誰が出てくるかは分からないが、今よりは非常に好戦的になる。

 そういう意味で、(アメリカにとって)集団的自衛権を今やる意味がある。

—将来、日本はこれからどうあるべきか?外交的により自立していくべきか。

 非常に大きな変動は中国の動きだ。GDPや購買力平価ベースではアメリカを追い抜いている。

 日本がどうこうすることとは関係なく、中国の経済力に従って、日本の対中政策の見直しが行われる。そのときに、当然のことながら、日米関係も変わる。

 流れ的にいうと、台湾が一番いい例だ。台湾は長い間、独立志向だった。西側との協力ということを一番重要視したが、最終的には独立はとっくの昔にどこかに行ってしまい、中国との経済をどうするかに台湾の繁栄がある、という方向に舵を切った。それと同じ流れが数年遅れで日本に多分、起きるのだろうと思う。

—安保関連法案の話に戻ると、どうせ成立するのだから反対をしても意味がないという声を聞いた。

 (意味がないというのは)全く違う。

 反対という姿勢は、政権を揺さぶる可能性がある問題だ、として認識されるようになると、運用の段階で、変わってくる。

 法律があって、(自衛隊が)出る、というものではない。法律があって、米国が要請したときに、じゃあどういう判断をするか。そのときに安倍首相のときに政権を揺さぶられたが、とてもじゃないけど、私の政権ではそんな危ないものをやれないという雰囲気に、多分なると思う。

 女性週刊誌など、今まで、安倍批判はタブーだった。だけど(批判は)私たちが思っている以上に進んでいる。

—日本の国民の中で、絶対戦争に行かせないという気持ちがこれほど強いとは、私自身、思わなかった。

 例えば、私は、ある大学の1年生300人ぐらいに、こういう質問をした。「あなたたちは戦争に行くことは絶対にない。自衛隊に入っていないから。しかし、あなたたちと同じ年代の人で自衛隊に入っている人たちがいる。この人たちは確実に、集団的自衛権で(海外の戦闘に)行ったら死にます。あなたたちは同情しますか、それとも、まあしょうがない、そんなに強くは同情しないか、どちらですか」、と聞いた。

 答えはどういう比率になると思うか?

—ピンと来ない、同情しないという人が多いのでは?

 と思うでしょう?ところが、全員が、同情だった。

—それは驚きだ。戦争反対の気持ちが強く、もし行って死んだらかわいそうということが若者の間に刷り込まれているのか。

 そうだ。そこはアメリカとは違う。

—イギリスとも全然違う。

 アメリカは、富裕層と下層との認識が完全に分かれいて、富裕層は俺たちは戦争に行く必要がない、行くのは下の層・・・・。

—イギリスもそうだ。ミドルクラスの人に聞くと、「志願兵だから、仕方ないだろう」という。同情心はあまりない。

 私もそうだろうと思った。しかし、質問したらみんな、「私たちは(戦争には)反対です」だった。後から一人やって来て、「だって私たちの友達で、(自衛隊として)行っている人がいるから」。

—自衛隊には十分な実戦体験がないと指摘する人もいる。それで、怪我になったときも互いを十分に守れないと。

 私はそんな恐れはないと思う。自衛隊の人たちの適応能力は高く、世界の軍隊の誰よりも良い資質の人がいると思う。そう心配する必要はない。

 問題は、ものすごい量の精神的ショック受けた人が出てくる点だ。

 後方支援でやっていても生命がやられるわけだ。毎日毎日、死と向き合うという意識でないといけない。これは普通の人には耐えられない。相当に大きなショックが自衛隊の中に起きると思う。

—70年間、一度も軍事的に人を殺したり殺されたりしたことがない・・・・。

 そうだ。防衛大学では学生同士で殴り合いは絶対に許されない。(もしそうしたら)退学だ。そういうカルチャーの中にいる。殴ることも許されないのに、人を殺すことへのハードルはものすごく高い。

—それでも今の自衛隊の対応力は十分と思うか。

 組織としては、対応できる。組織は上の人が判断して動かすが、個々人はものすごく、病んでいく。後方支援のストレスでそうなる。戦争の日常によって。

—そうなったら、毎日が・・・

 恐怖との戦いだ。

アジアの「脅威」はどうする?

—戦争で命を落とす兵士のニュースが頻繁にあるような国から来ると、日本では何もなくてどうやって国を守れるのかと心配になる面も。

 非常に簡単なことをある人が言っている。北朝鮮がなぜ今攻撃をしないか。攻撃をしないほうが得だから、しない、と。北朝鮮が攻撃をしたら、自分の国がなくなるわけだから。

 北朝鮮のように孤立している国でも、どこかの国を攻撃したらマイナスだということが分かっている。今の世界の指導者の中で、何処かの国を攻撃したら、利益になると思っている政治家というのは、まずないだろう。これは時代が共有する価値観だと思う。

 第2次大戦の後、世界は大きく変わった。

—日本は今軍事的な脅威にはないのか。

 本質的には全然ない。全くない。

—中国はどうか。

 アメリカの国防省の2012年の本によれば、中国の戦略は中国共産党の指導者によって決められる、と。これはいいだろう。中国共産党の指導者は、未来永劫的に指導層にいたいと思う。これもいい。指導層にいるためには、国民の支持を必要とする。これもいい。じゃあ、中国の国民にとって、一番重要なポイントは何かというと、自分たちの生活が日々良くなれば、共産党を支持する。

—経済がモノを言う、と。

 ここもいいだろう。では、経済を良くするためには何が必要かというと、自分たちの作ったものが海外で売れなければいけない。海外で売れるためには海外と敵対的にはなれない。だから中国の基本的な戦略は、対外的に敵対的な行動はとらないこと—。非常に論理的ではないか?

(取材日、7月10日)

(2015年7月22日「小林恭子の英国メディア・ウオッチ」より転載)

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