情報通信網は情報社会の基盤であるが、移動通信(無線通信)の重要性がますます増している。家庭・事業所の入り口までは光通信(有線通信)が主流だが、その先のデバイス接続では、紐をぶら下げてつなぐ機会は減ってきた。無線通信は周波数資源があって初めて実現するので、周波数資源の無駄遣いは許されない。
朝日新聞が10月2日に「地デジ化で余った周波数帯 空き電波活用携帯ばかり 検査院調査」という記事を掲載した。地デジ移行で生まれた空き周波数のうち移動通信用は転用が進展しているが、道路交通や防災、新たな放送サービスなどは進んでいないと、会計検査院が総務省に指摘したというのである。
確かに転用は進捗していないが、「利用が想定される機関への周知などで活用を促すよう」会計検査院が総務省に求めるのは間違いだ。なぜなら、もともと利用の価値(費用対効果)が低すぎるからだ。順に説明しよう。
ITS(高度道路交通システム)での利用の目的は、交差点での衝突の防止である。しかし、双方がシステムを装備していないと衝突が回避できない恐れがあるため、普及率50%では確率25%、普及率70%なら確率49%しか、効果を発揮できない。このように、自動車購入者にとっては魅力が薄い。また、700MHz帯で同じ利用計画を持つ国はないので、自動車メーカーは国内向けの特殊な開発を強いられ、投資が回収できる見通しは暗い。
消防・警察・河川管理などの機関は、現場の映像があれば災害への対応に機動性が増す。災害現場の映像を配信するのが、防災での目玉である。僕は総務省の委員会で一つの映像を関係機関が共有するよう提案したことがあるが、総務省は消防・警察・河川管理別々に周波数免許を交付するとした。その結果、機関個々にネットを整備しなければいけなくなったが、予算の目途が立っていない。3つの機関が協力すれば費用対効果は3倍に、4つなら4倍になるのだが、その可能性は損なわれた。
新たな放送サービスとはデジタルラジオのことである。デジタルラジオの最大の問題は、聴取者が新たにラジオを購入するかどうか。時代的にその可能性は低く、ラジオ局の中には及び腰の局もある。
このように、会見検査院が指摘したすべての分野で、費用対効果が期待できないから転用が進んでいない。今の転用計画は絵に描いた餅、あるいは、国家ぐるみの周波数の無駄遣いである。計画策定には、総務省だけでなく、自動車やラジオ局といった業界も深く関与してきたのだから。
この際、転用計画を全面的に見直し、これらの周波数帯域をオークションにかけて、落札者に自由に利用させたらどうか。採算のめどが立つから高い入札をするという経済原則が働くほうが、採算度外視の現計画を進めるよりも国民経済にとって有益である。