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2015年12月22日 14時42分 JST | 更新 2015年12月22日 14時43分 JST

卒後教育における医師・病院連携

全国で医師確保対策が問題になっている。

●亀田総合病院事件

亀田総合病院事件がオンラインメディアにとどまらず、新聞や週刊誌など紙ベースの媒体でも大きくとり扱われている。ツイッター、facebookなどSNSでも情報が飛び交っている。2015年12月段階で、議論が拡大しつつある。沈黙している大手メディアも情報収集に熱心に動いている。若い医師は情報をネットメディアに依存している。亀田総合病院に対する評価が変化することになる。このままでは、亀田総合病院の医師集めが難しくなる。研修医の応募が減少すると亀田総合病院を維持できなくなる。

筆者は、行政の違法行為を批判したことを理由に懲戒解雇されたが、解雇されるまで、言論活動と行動実績により、亀田総合病院に一つの色彩を加えてきた。行政からの自立の主張には、経営者たちも同調してきた。彼らも独立自尊の印象を社会に発信することに熱心だった。

東日本大震災では、いわき市の透析患者の避難、老健疎開作戦、知的障害者施設利用者約300名の鴨川への受け入れ、磐城共立病院の人工呼吸器装着患者8名の受け入れなどを主導した。安房10万人計画を提唱し、無料低額診療、ふるさと納税の民間公益活動への利用制度、安房医療福祉専門学校創設、看護学生寮への高齢者向け住宅併設、ソーシャルワーカーによるワンストップ相談サービスの事業化などに起点として関わった。複合組織による子育て支援の理念を提案。これは現在実現しつつある。すべて経営者の同意を得て実施した。

亀田総合病院地域医療学講座では、多くの専門家と共に地域包括ケアの問題を議論した。映像シリーズを作成し、書籍を出版した。これは経営者の要請で開始したことであるが、行政による違法な妨害に経営者が同調した。

今回の事件で、亀田総合病院は、違法な医師派遣で利益を得ていることが判明した。複数の自治体病院が、この違法派遣に頼っている。亀田総合病院が医師を集められなくなる、あるいは、違法派遣が停止されると、自治体病院が困ることになる。自治体病院への医師の供給を維持するためには、亀田総合病院が経営を刷新して評価を回復し、さらに、違法派遣を合法的な連携事業に転換する必要がある。

●南相馬市立総合病院の医師確保

全国で医師確保対策が問題になっている。医師を確保するためには、その病院が医師にとって魅力的でなければならない。魅力とは、優れた卒後教育を提供していること、社会の要請に応えようとしていること、医師のやりがいと誇りを演出することである。特定の大学に支配されていないことも、全国から医師を集めるための必須条件である。

魅力を提示できない場合、大学に多額の費用を支払って、寄付講座を設置し、そこから医師を派遣してもらうという方法がとられている。少数の医師を確保できるかもしれないが、他大学の卒業生の参入を減らす。大規模病院では必要医師数が多いため、特定大学だけに頼るのは自殺行為である。

南相馬市立総合病院(180床)は、東日本大震災後、12人いた常勤医師が4人にまで減少した。筆者は、桜井勝延南相馬市長、金澤幸夫院長に依頼され、東京大学医科学研究所の上昌広教授と共に、医師確保策を立案、実行した。筆者は、公立相馬病院と南相馬市立総合病院を統合させて臨床研修病院にすることを提案した。統合は実現できなかったが、亀田総合病院が研修の足りない部分を補完するという条件で、南相馬市立総合病院は臨床研修病院に指定された。

医師確保の基本戦略は、全国の医師に呼びかける、価値観に訴える、心意気に訴えることである。観客がいる、あなたはいいことをやるんだよ、というのを見える形にする。

具体的には、坪倉正治医師が、内部被ばくについて科学的に調査し、世界に向かって発信し続けた。亀田総合病院から出向した原澤慶太郎医師が仮設住宅で診療を開始し、医学雑誌ランセットに実情を報告した。根本剛医師が在宅診療部を創設した。東大の国際保健学チームが震災関連の情報を科学的に分析し、世界の学術雑誌に発信した。2015年4月に入職した4人の初期研修医の1人は、若い医師が活躍していること、価値がありいきがいの感じられる活動が行われていることをインターネットで知って応募した。2015年4月段階で、常勤医師数は29人になった。

●ケアシステムのパラダイムシフト

現在、ケアについての考え方が大きく変化しつつある。病気の治癒を目指す医学モデルから、病者や障害者の生活の質の改善を目指す生活モデルに社会の要請が転換しつつある。厚労省の目指す地域包括ケアは、医学モデルから生活モデルへの転換に他ならない。

従来、医師は、生物学的医学研究、新しい治療方法の開発、新しい手術などに大きな価値を見出してきた。ケアについての考え方の変化とともに、在宅医療、総合内科、家庭医を目指す医師が増えてきた。WHOも健康格差を解消するのに、人々の日常生活条件の改善と不平等の解消が重要であると主張するようになった。医学の中心が生物学から社会科学に移行しつつある。

医学モデルでは病気の定義、治癒などケアの目的を医師が決める。これに対し、生活モデルではニーズすなわちケアの目的を、当人を含めて、現場に近い人たちがそれぞれ認識する。地域包括ケアを発展させるには、現場に関わる複数のサービス提供主体が、地域固有の状況を踏まえた上で連携しなければならない。国は、国を頂点とするピラミッド型の階層構造によって、国→都道府県→市町村→サービス提供主体へと同じ情報を流すことで、医療、介護、福祉サービスの統合を図ろうとしている。

これに強制力が伴うと、各サービス主体は行政しか見なくなり、現場のニーズに対応できなくなる。地域の状況を踏まえた横方向の連携が阻害される。地域包括ケアが目指すべきは、階層構造ではなく、ネットワーク構造による多元的アプローチである。

●病院連携

筆者は、千葉県以北の太平洋沿岸に広がる医療過疎を解消するのに、価値観を共有する医師と病院が参加する卒後教育のための連携組織を作ることを模索してきた。地域の代表的な病院を訪問して議論し、一部から強い賛同を得てきた。大きな理念の下に、大学医局より緩やかな形で人事を動かしたい。このネットワークに多数の医師が結集して、医師の卒後教育に取り組めば、千葉県、茨城県、福島県の浜通りの医療過疎の現状を改善できる。

卒後教育のための非営利法人を設立すれば、補助金の受け手になりやすい。必ずしも、多くの診療科が参加する必要はない。総合内科のような診療科は、研究重視の大学と相性が悪く、どうしても冷遇される。連携して自分たちの卒後教育の主導権をとればよい。総合内科はその存在感と発言力を高めることができるし、社会にとっても有用である。

このような連携組織を実現するには、誰もが納得する大きなビジョンを提示しなければならない。具体的場面では多様性を許容しなければならない。これは、ドラッカーが『非営利組織の経営』で述べた、「本質における一致、行動における自由」である。そのためには、視野と心の広い、そして何より個別利害から自由なリーダーが必要である。

筆者は、2014年12月、病院連携の具体案として、亀田総合病院と成田赤十字病院における感染症科医師の共同育成を提案したが、亀田隆明理事長と厚労省の井上肇結核感染症課長の介入で、人事の議論から遠ざけられた。最終的に、金銭による派遣になった。成田側は苦い思いを持ったと伝え聞いた。

筆者は、この経験で、亀田総合病院が病院連携のハブになることは不可能だと痛感した。

2015年10月2日、筆者は、成田赤十字病院の院長に成田赤十字病院への派遣が刑事事件に発展する可能性があることを伝えた。院長は、派遣された医師の活動を高く評価し、感染症科医師を引き揚げられると困るという懸念を口にした。筆者は、もし事件が立件化された場合、現状の違法派遣ではなく、当初の構想を生かして、病院連携として発展させていくべきだと話した。

病院連携は、医師の卒後教育以外にもさまざまな分野で必要とされている。地域包括ケアでは、行政の命令ではなく、可能なことから、現場に近いところで直接連携する必要がある。地域医療連携推進法人のような重い組織は必要ない(1)。たいていの連携は単なるプラットフォームでも可能である。以下、連携プラットフォーム私案を示して稿を終える。

●連携プラットフォーム私案

1.目的

参加法人が、連携活動を行うことによって、ケアを必要とする人たち対する医療、介護、福祉サービスを向上させることを目的とする。

2.参加法人

参加法人は、地域の医療、介護、福祉サービスを提供している非営利、あるいは営利法人で、参加を希望するものとする。

3.地域の範囲

医療は必ずしも二次医療圏で完結していない。例えば、亀田総合病院の入院患者の60%弱は二次医療圏外の患者である。地域の範囲は、連携の内容によって異なる。範囲を固定せず、問題によって広くあるいは狭くする。

4.連携プラットフォーム

単なるプラットフォームであり、複数の参加法人の合意で成立する。同一地域に複数のプラットフォームが存在してもよい。

5.連携は各参加法人の自由意思に基づく

参加法人が、地域のケア向上に意義があり自らのメリットにもなると判断した上で、連携を成功させるために自発的に努力するのでなければ、連携によって成果を上げることはできない。

6.参加法人の独立性

参加法人は法的主体であり、権利義務を有する。公共の福祉に反しない限り、参加法人の権利を侵害することは憲法上許されることではない。

7.連携活動

知識の収集、議論による意見の集約、意見の公表、提案、異議申し立て、参加法人同士の合意、契約あるいは協定がありうる。個々の連携活動に、すべての参加法人が加わる必要はない。

8.具体的課題

(1)地域での医療の役割分担

(2)外部への情報の発信

(3)規格の共有

(4)機器の共同利用

(5)ソフトの共同利用

(6)人事交流

(7)職員の教育・訓練

(8)職員のキャリア支援、転職支援

(9)病院同士が許可病床のやり取りを直接行うこと

9.チェック・アンド・バランス

現場を知る活動主体による行政の監視は、社会の発展に不可欠である。例えば、米国を代    表する環境保護NPOであるエンバイロンメンタル・ディフェンスは、専門家集団として、現在は各州の環境政策策定に関与して大きな成果を上げているが、かつては、各州の環境政策を批判し、訴訟作戦を展開していた。

10.プラットフォームは連携活動の当事者ではない

連携プラットフォームは、連携の場でしかない。連携活動の責任は、当該連携活動に参加した法人が負う。原則として、契約や協定などの違反は、参加法人間の紛争として扱う。行政を含めて外部との交渉が必要な場合は、個々の連携活動ごとに当事者が担当する。

11.合理性のない非法的強制力を排する

契約や協定による行動の制限については、医療、介護、福祉サービスの向上に資するのに合理的であることを要する。連携プラットフォームにおける、合意、契約、協定は強者が弱者を支配するもの、あるいは、多数が少数の権利を奪うものであってはならない。

12.連携活動の公開

複数の参加法人が連携活動として合意し、報告・公開すれば連携活動として認知される。必ずしも、全参加法人が合意する必要はない。

13.信頼性の担保としての規格

筆者らは、地域の契約や協定が参照するための地域包括ケアの規格の作成を計画している。これは、改変可能なものとしてCCライセンスhttp://creativecommons.jp/licenses/で公開予定である。規格は、合理性に基づく行為の標準化であり、地域包括ケアを検証、再現、共有可能な形で提示することで、質の保障と向上に寄与する。非権力的枠組みで社会課題の解決を図ろうとするものである。

14.信頼性の担保としての地域の優位性

少子化により自治体の消滅が危惧されるようになった。連携による医療、介護、福祉サービスの向上は地域の優位性を高める。地域の優位性が高まれば参加法人の生存確率が高まる。これが連携活動の質を高く保つのに役立つ。参加法人には、政治や行政よりよほど信頼するに足るインセンティブが共有される。政治や行政は、しばしば私益や共益で動くので、必ずしも信頼性は高くない。

15.矛盾を許容

強制力を持たず、言論を活動に含めるので、内部での意見の相違が生じうる。少数の権利を保護するためにも、連携プラットフォーム内部での意見の相違を排除しない。

16.法人の設立

財政上、あるいは、組織上の必要があれば、その目的に特化した法人を設立する。

引用

(1)小松秀樹:地域医療連携推進法人を構想するセンス. 厚生福祉, 第6153号, 10-14, 2015年4月17日. (MRIC転載http://medg.jp/mt/?p=3591

(2015年12月12日「MRIC by 医療ガバナンス学会」より転載)