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2018年05月28日 11時05分 JST | 更新 2018年05月30日 10時20分 JST

ゲームの依存性に注意。患者の脳に見られる特徴的な反応がアルコール・ギャンブル依存に酷似

ゲーム依存が「病気」になる日

■ゲーム依存が「病気」になる日

「ゲーム障害(Gaming disorder)」という言葉をご存知だろうか。

これは2016年10月、世界保健機関(WHO)が、1990年以来30年弱ぶりに改訂する「国際疾病分類第11版(ICD-11)」に盛り込む方針を示した、新しい「病気」のことだ。

昨今、スマホゲームに代表されるオンラインゲームに傾倒するあまり、生活に重大な問題を抱えてしまう人が世界的に増加しているのである。

2017年の12月末頃から、欧米を中心に「ゲーム依存」にまつわる議論が沸騰しているが、今回はICD-11におけるゲーム障害の定義と診断ガイドラインの草稿作成に携わった専門医の視点からこの問題を整理してみたい。

なお、ICD-11での正式名称は「ゲーム障害」だが、用語の浸透度を考慮して、本稿では「ゲーム依存」という呼び名で統一していく。

■ゲーム依存=ネット依存

私は2011年、自身が院長を務める独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターに、日本初のインターネット依存治療専門外来(以下「ネット依存外来」)を設立した。その後当センターはWHOと共同プロジェクトを組み、ネット依存に関する研究を重ねてきた。このたびの「ゲーム依存」の疾病化は、これらの活動の1つの成果と言える。

神奈川県横須賀市にある独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター

ではなぜ、「ネット依存」ではなく「ゲーム依存」が病気として認定されるのか。

当センターのネット依存外来では、年間延べ1,500名程度の患者を継続的に診察しているが、そのほぼすべての方が、インターネットゲームをきっかけにネット依存を患っている。その一方、依存対象がオフラインゲームの患者はほぼ皆無である。

また、ネット依存は、ゲームのほか、SNS、動画といった様々な要因が複雑に絡み合っている。そのため、ある患者の依存がどの要因に根差したものかを見極めることが、非常に難しい。しかし、「ゲーム依存」というフレームを用いて検証を行うと、アルコールやギャンブルなど他の依存の典型的な症状や、脳内に生じる反応のパターンと経過が酷似していることが明らかになってきた。そうしたエビデンス(科学的証拠)の蓄積が、WHOの厳しい審査を通過した決定的な要因になったと言える。

■ゲーム依存の脳の中で起こっている依存特有の反応

「依存」とは、少々とっつきにくいだけでなく、誤解を招きやすい用語でもある。

病としての「依存」を正しく理解するためには、「脳のシーソーゲーム」を知ることが近道だ。

通常、私たちの行動は、「本能」を司る大脳辺縁系(以下「辺縁系」)と「理性」を司る前頭前野によってコントロールされている(図1)。

図1:前頭前野と大脳辺縁系

出所)樋口進『スマホゲーム依存症』(内外出版社、2017)

この2つの脳は日夜シーソーゲームを繰り返しており、通常は前頭前野がやや優勢な状態で平衡が保たれている。だが、依存の状態にある脳は、前頭前野(理性)よりも辺縁系(本能)が優勢な状態が続き、欲求や行動を自らの意思でコントロールできなくなってしまう(図2)。

図2:前頭前野と辺縁系のシーソーゲーム

出所)樋口進『スマホゲーム依存症』(内外出版社、2017)

「ゲーム依存なんて大げさだ」と思われる方もいるだろう。しかし、アルコール依存など他の依存患者と同様の脳の反応をとらえた、ゲーム(ネット)依存患者のMRI画像を見ていただければ、納得してもらえるのではないだろうか。

依存対象を思わせるきっかけ(キュー)を目にしたとき、依存患者の脳は、依存に関連する前頭前野の特定の部位が強く反応する。その結果、「飲みたい!」「使いたい!」「遊びたい!」という衝動的な欲求が生じるわけである。

図3は、ゲームの画像を見たゲーム依存患者の前頭前野の黄色で示された箇所に強烈な反応が起こっていることを示している。健常者に同じ画像を見せても、このような反応は見られない。

図3:ゲーム画像を見たときのネット(ゲーム)依存患者の脳の反応

Ko et al. 2009.

この脳の反応パターンは、アルコール依存やギャンブル依存の患者の脳の中にも同様に確認することができる(図4)。

図4:依存対象を連想させるきっかけ(キュー)に対する脳の反応

アルコール依存(Schacht et al., 2013.)/ギャンブル依存(Goudriaan et al., 2010.)

これに加えて、ネット依存の脳の中ではさらに、「前頭前野の機能低下」、「報酬の欠乏」という、2つの特徴的な変化が確認できる。これらもやはり、アルコール依存やギャンブル依存患者の脳の反応と酷似したものだ。

ゲーム依存が1つの「病気」として成立するのは、このようなエビデンスが数多く集積されているためだ。逆に、エビデンスによる検証がなされない物事は、「依存」としては成立し得ない。依存と脳の関係については、拙著『スマホゲーム依存症』(内外出版社、2017年)で詳述している。ご興味のある方は参照していただきたい。

■医療現場の「現実」を見てほしい

さて、当初2018年6月ごろと予定されていたICD-11への改訂だが、やや作業が遅れているようだ。だが、2018年6月にはWHOから最終版に近い草稿が発表される見込みである。その後、ICD-11が正式に採択されれば、WHO加盟国である日本でもゲーム依存対策のための施策がなされるであろう。

「ゲーム障害」を病気とするWHOの方針に対しては、2018年1月、国際的なゲーム業界団体であるESA(エンターテインメント・ソフトウェア協会)が反対声明を発表している。その主張のポイントは2つあった。

「ビデオゲームに中毒作用はないと客観的に証明されている」
「世界中で20億人以上がゲームを楽しんでいる」。そうしたユーザーを病気とみなせば、「うつ病などの本来の精神疾患がささいなものと位置づけられてしまう」

朝日新聞DIGITAL、2018年1月5日配信記事より引用)

私は、長年依存のメカニズムを研究してきたが、少なくとも医学的信ぴょう性に足る研究の中に、そのような「客観的な証明」を目にしたことがない。

当センターには、何カ月も前から診察の順番をお待ちいただかざるを得ない、大勢のゲーム依存患者がいる。彼らの多くはきわめて深刻な症状を抱えている。もし「中毒作用」がないのなら、私たちはこの状況をどのように理解すればいいのだろうか。

「ゲーム依存など存在しない」と主張される方はぜひ一度、久里浜にお越しいただきたい。そして、ご自分の目で現実を見ていただきたいと思う。

■「ゲーム=悪」ではない

しばしば誤解されるが、私はゲームが「悪」であるとはまったく考えていない。私はただ、趣味としてゲームを楽しむ「ゲーム愛好家」と、生活に重大な問題を抱えている「ゲーム依存患者」とを区別して考えるべきだ、と主張しているだけである。ゲームはやれば楽しいものであり、それまで「NO」と言うつもりはない。しかし、ゲームには依存性があることにくれぐれも留意いただきたい。

だが正直なところ、長く患者と向き合ってきた専門医としては、昨今の議論がやや「概念論」に偏っている点に違和感を覚えてもいる。そのような概念的な議論の中に、私は患者たちの姿や苦しみを見ることができないのだ。議論が患者不在のものであってはならないだろう。

今後の議論がより良い形で進むよう、当センターは現実の患者に寄り添いながら、蓄積した症例や研究成果を国内外に周知していきたいと考えている。

『スマホゲーム依存症』(内外出版社)