Googleが買収したものの鳴かず飛ばずで赤字が続き、リストラを進めていたモトローラが思い切った一手を打ってきたようです。米国、カナダ、南米地域で8月下旬から9月上旬から販売が開始される"Moto X"です。
所有者の声に反応し、タッチすることなく音声アシスタントが起動するとか、常に時間や新着メッセージなど、端末が判断した最適な情報を自動で表示するとか、端末を持って手首を素早くねじるような動作をするとカメラが瞬時に起動して、またどこに触れてもシャッターが切られるといった特徴があるそうです。おそらく昨年買収したViewdleが持つ顔認識技術も盛り込まれているのでしょう。
そういった特徴は各社が競っていることなので、さほど驚くものではありませんが、それよりも驚かされるのは、注文時には前面、背面、アクセント、メモリー容量、壁紙などを選択が可能で、組み合わせは全部で2000種類以上だそうで、注文を受けて米国内で組み立てられ、4日以内に出荷するビジネス展開に踏み切ったことです。
予想実売価格はキャリアとの2年契約つきで199ドル(約2万円)ということですが、はたして採算がとれるのでしょうか。普通に考えれば、部品在庫も増え、製造コストも嵩みます。
デルがPCでカスタマイズを始めたときは、部品メーカーに在庫を持たせ、注文を受けてから発注することで、逆に売ってから仕入れるという旨味のあるビジネスができたのですが、"Moto X"の場合はどうなんでしょうか。なにかうまい一手を見出したのかもしれません。
モトローラが、この"Moto X"でひとりひとりに異なったカラーや画面デザインを提供するというチャレンジに挑むことは、逆に言えば、もはや機能では決定的な差別化が困難になり、外観のカスタマイゼーションに向かったとも受け止めることができそうです。
しかし、米国、カナダ、南米地域の消費者がどう評価するのかはよくわかりませんが、日本では、耳のついたスマートフォンカバーとか、キラキラのデコレーションを施したカバーなどが数多く売られており、個性を求める人たちは、すでにそういったパーツを使い、また人によっては季節に応じてカスタマイズしているので、カラーなどを組み合わせる程度ではパンチが弱いのではないかとも感じます。
それよりは、アンドロイドの世界の行く末のほうが気になります。もうなんでもありという感じになってきています。昨年に発売されたアンドロイドの機種が3,997というのも驚きですが、今年はさらに11,868と3倍以上に機種が増え、しかもウィンドウズではせいぜい、XP、Windows7、windows8の3バージョンですが、アンドロイドの場合は、8つの新旧異なるバージョンが同居しているのです。いわるゆる「断片化」がどんどん進んできています。
ソフトのバージョンも混在している、画面サイズもバラバラ、こういった「断片化」は、アンドロイドにむけたアプリなどの開発にも少なからず影響してきます。アプリでこういった断片化に対応するのは非効率で、非現実的だからです。
そういった多種多様な機種が生まれてくることは、およそ5億4200万年前から5億3000万年前に膨大な種類の生物が突然発生し、さらにDNAがかけあわさって進化し、今日の生物の祖先が生まれた「カンブリア爆発の謎」を思わせますが、ひとつ大きな違いがあります。
カンブリア爆発では多様なDNAが存在していましたが、アンドロイドは、8つの異なるバージョンが同居し、しかもそれぞれのメーカーが機種ごとにカスタマイズしているとはいえ、DNAともいえるOSは一種類だけだということです。つまり、カンブリア爆発のようなかけあわせは起こってきません。あくまでグーグルが支配する世界です。
そういった限界をグーグルもわかっているから、あえて"Moto X"で、デザインのカスタマイズというところに踏みこんだのかもしれません。
(※この記事は、2013年8月2日の「大西 宏のマーケティング・エッセンス」から転載しました)