「出版不況」
インターネットの普及でよく聞かれる言葉だ。
2008年1月7日に新風舎、1月9日に草思社がそれぞれ東京地方裁判所に民事再生法の適用を申請した。出版不況も底なし沼のような状況で、その後も再建を断念する出版社が発生した。
なお、前者は倒産し、後者は現在も経営を続けている。
■自費出版はお勧めしない
新風舎は自費出版の事業を中心としていた。2007年、一部の著者が東京地方裁判所に損害賠償の訴訟を起こし、窮地に立たされた。全国の書店で販売するから自費出版契約を結んだのに、実は数店でしか販売していなかったからだ。
この訴訟で新風舎の評判がガタ落ちして、事業資金が不足するハメになってしまう。当時、自費出版の契約者数は約1,100人もいた。多額の費用を投資してまで本を出そうとする人が多いことに驚く。
私は"「フリーライター」という名の商業ライター"なので、自費出版は一切しない。自費出版をすることは、「私はアマチュアです」と言っているも同然。そこまでして多額の借金を背負う気もない。
国民生活センターによると、自費出版の契約をしたのに本ができ上がらない、追加費用の請求など、問題も年々多いという。本は自費ではなく、商業出版が好ましい。費用はすべて出版社もちで、なおかつ印税がもらえるのだから。
■民事再生法を申請する前の草思社
草思社はベストセラーの本が多数あるところで、私も知っている出版社。"いつかはこちらで書籍を刊行できれば"という思いがあっただけに、民事再生法の申請はショックを受けた。
草思社は合理化を進め、自力再建を目指していたが、結局は断念せざるを得ない状況に追い込まれた。
1冊ずつていねいに制作するところで、本のタイトルを決めるため、何十回の変更や修正をすることは当たり前。どんな原稿でも、著者や編集プロダクションに丸投げすることなく、担当する編集者が責任を持つ体制だったという。それだけ妥協せず、著者に思いやりを持つ出版社なのだと思う。
■ブログ本ブーム
21世紀に入ってから自費出版がより活発になっている。それはブログを1冊の本にまとめるというものだ。
ブログはホームページよりも操作がカンタンなため、更新しているうちに書籍化したいという願望が生まれてくるのだろう。実際に2005年は、『眞鍋かをりのここだけの話』(インフォバーン刊)、『古田のブログ』(アスキー刊行)が書籍化され、ヒットしたこともブロガーの意欲をかき立てている。
私がフリーライターに転身するきっかけとなったのは、ブログだ。開設した当初はパソコンを持っていなかったため、ケータイの送信メールによる更新が中心だった。その後、パソコンを購入し、管理画面に直接入力していたが、2007年5月からワードで事前に入力するやり方に変えた。管理画面で直接入力すると、なんらかのアクシデントで今まで書いていた文章が消失してしまうことがあり、その対策としてワードで事前に入力する方式を思いついたのだ。これならワードで事前入力した記事をUSBフラッシュメモリーに保存しておけば、原稿にもなる。ケータイで作成し、パソコンのメールに送り、ワードに転送して、仕上げてブログに掲載したこともある(この手法で原稿を作成したこともある)。
ブログの自費出版は個人の記録で、1部しか刊行しないと思う。ただし、PDF化すれば、簡易的な電子書籍にもなる。個人的に自費でする気はこれっぽっちもないが、どうしてもやりたい方は慎重に考えていただくことをお勧めする。
■本は"完全商業出版"でなければ、なんの意味もない
2007年春、常時原稿を募集しているという出版社があり、私はホームページの応募欄で時事問題を中心とした原稿を送信した。1か月後に返答があり、高い評価をしていただき、「ぜひ出したい」と編集者が言ってきた(原稿を出しても、本に値しないものもあるという)。そこまではよかった。ところが出版社一部負担というカタチで250万円を払ってくれと言ってきた。私は応募する際、「費用は一切出しません」と明記しているにもかかわらず、その姿勢に不信を抱いた。
その後、何度かしつこく電話がかかり、200万円に引き下がったものの、私は「NO」と言って、交渉は決裂した。
数日後だったか別の出版社にメール原稿をで送り、返答の期日をいただいた。ところが期日を2か月以上もオーバーしていた。こちらが何度も催促した末、出版できないという返事。期日を言っておきながら守れないというのは、社会人としてあってはならない行為で、そういう場合は連絡をするものではないか。社や個人の信用問題にかかわることを考えていないのが明白だ。出版不況の原因のひとつとして、勤めている一部の人間に"おごり"があると考える。
■「出版不況」という言葉に振り回されている出版業界
出版不況の原因は様々あり、3つ述べさせていただく。
1つ目は、先ほど述べたことに加え、メールなどで問い合わせ等をしても返信してこない版元や編集プロダクションの態度にある。腹を割る姿勢がないのは残念でならない。とことん意見などを交わさないと、お互いの人間性が見えてこない。
2つ目は、インターネットの普及。例えば、月刊誌は専門情報モノが多い。交通系月刊誌の場合、発売前に事業者がプレスリリースを発表するため、編集者側、読者側の双方にとって、情報が手に入りやすくなっているのだ。しかもPDFファイルでの発表が多いので、ハードディスクなどに保存もできる。
3つ目は"安全パイ主義"で、高名著名に頼るケースが多い。この影響で、"実績をつけさせてくれない"ライターなどは少なくない。出版社や編集プロダクションの中には企画書を求めることもあるが、私は"原稿が最大の企画書"だと思っている。
■売れる本
「出版不況」と言われているワリには、興味深いことを2つ取り上げたい。
1つ目は児童書の売り上げが安定していることだ。特に初版は30年以上も前なのに、現在も重版しているのだ。少子高齢化により、学校の数も減っている中、健闘している。図書室や図書館は不特定多数が読むため、傷みやすいこと。少子高齢化でも人口増加により新設する学校があると、私は考える。
2つ目は、近年のテレビ局はマンガをドラマ化するケースが多いことだ。
ここ数年、オリジナルのドラマが少ないように思え、視聴率も15パーセントを超える作品が以前に比べて減っている。ドラマの制作もマンガに頼るケースが目立ち、原作者にとっては収入が増えて万々歳だろうが、テレビ界全体の質の低下を感じる。難しい事柄をマンガ化してわかりやすくするケースもあり、活字離れに歯止めがかからない1つの原因といえる。いくら大ヒットする本があっても、ケータイ小説や『ホームレス中学生』(田村裕著、ワニブックス刊)は"モノ書き専門職"による作品ではないのだ。
逆のケースとして、『相棒』や『ちゅらさん』などのドラマが小説化されるケースもある。特に『相棒』は2008年ゴールデンウィークに劇場版第1作が公開され、劇場版小説も10万部の売り上げを記録したという。
出版不況を脱するには、初版の部数を限定して、特定の本屋しか置かないことや通信販売でしか買えないよう、興味をそそるように仕向けないとダメなのではないかと思う。もうひとつは目の不自由な人のために本をCD化して、"本を聞く"という、まるで落語のようなジャンルがあってもいいのではないかと思う。
私はハフィントンポストなどで掲載させていただいている作品も含め、社会に関する書籍を出版し、この国が変わることを願っている。企画で持ち込んだ本を買う、買わないは出版社が決めることではない。本屋を利用するお客が決めることだ。今の出版業界というのは、"読者との距離を縮めよう"という意気が感じられない。今まで"読者が求めていた本などを売っていただこう"と原稿を売り込んだ人はたくさんいたはずで、良質な本はいくらでも刊行できたはずだ。今後は積極的な巻き返しを考えていただきたい。