(ニューヨーク)― 新たに撮影された衛星画像により、ビルマのラカイン州で家屋数百棟が火災の被害に遭ったことが明らかになったと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。ロヒンギャ・ムスリムが住むラテーダウン郡チェインカーリ村の衛星写真は家屋700棟の火災を捉えた。村はほぼ全焼である。
ビルマ政府は独立したモニタリング機関に現地への立入を直ちに認め、火災原因を特定し、隣国バングラデシュに避難したロヒンギャ難民が訴える深刻な人権侵害を調査すべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。
「今回の衛星画像により、ムスリム住民の村1つがまるごと焼失したことが明らかになった。ラカイン州北部での被害が、当初想定よりもはるかに重大ではないかとの深刻な懸念が生じている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理フィル・ロバートソンは指摘した。「だが今回の結果は私たちが火災を確認した17地点のうちの1つにすぎない。独立したモニタリング機関が現地入りし、現状を明らかにする緊急の必要性がある。」
ヒューマン・ライツ・ウォッチは2017年8月31日撮影の衛星画像を分析し、チェインカーリ村で家屋計700棟の焼失を確認した。村全体の99%が破壊された計算だ。破壊の痕跡は火災のものと一致する。大きな焼け跡や燃えた木の屋根などが確認できた。
今回の写真は、ヒューマン・ライツ・ウォッチが収集し、前回公開したデータの追加分だ。前回データは、8月25日から30日にかけてラカイン州北部全域の17地点で火災が発生したことを示していた。一連の火災は、2017年8月25日朝のアラカン・ロヒンギャ救世軍(AREA)のロヒンギャ武装勢力による一連の襲撃事件後に発生した。複数の警察署や検問所、政府施設のほか、国軍基地1カ所が標的となった。
衛星画像はまず、8月25日午後の早い時間帯に、チェインカーリ村があるラテーダウン郡コータンカウック村落区での火災発生を捉えていた。チェインカーリ(クラー)村の北と南に隣接する2つの村(コータンカウン村と、焼失した村と同名でラカイン民族が住むチェインカーリ村)は衛星写真では無傷だった。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの分析によれば、衛星画像が捉えた被災地域が広い範囲にわたることは、火災が人為的なものであった可能性が高いことを意味している。ラカイン州は現在雨季であるため、これだけ多くの家屋に放火することはかなり難しかったと思われる。被災被害の大きさが示唆するのは、火災にかなり多くの人数が関与したか、これだけ広範な火災を発生させるためにかなりの時間がかかったということだ。
ビルマ政府は、放火がARSAの武装集団とロヒンギャ住民(政府はかれらが自宅に火を放ったと主張)によるものとするが、その根拠を一切示していない。2016年10月から2016年12月にかけてのロヒンギャ居住地域での火災の際にも政府は似たことを主張したが、証拠は一度も提示されなかった。前回の火災についてヒューマン・ライツ・ウォッチなどは、ビルマ治安部隊の意図的な放火と判断した。
ラカイン州北部のいくつもの村からバングラデシュに最近逃れた多数のロヒンギャ難民はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、ビルマ国軍兵士と警察が自宅に火を放ち、村人を武装襲撃したと語った。こうした難民の多くに銃や刃物による最近の傷が認められる。
ビルマ政府は、国連人権理事会が指名した事実調査団メンバー3人に直ちにビザを発給すべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。
「今回の衛星写真は、国際調査団のラカイン州現地入りが不可欠な理由をはっきり示している」と、前出のロバートソン局長代理は述べた。「国連の事実調査団はビルマ政府から100%の協力を得て、ラカイン州での人権侵害調査というマンデートを実行するとともに、襲撃を終わらせ、アカウンタビリティを確立する方策を模索すべきである。」
(2017年9月2日「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」より転載)