なにか精魂込めてやったことを、200回やり直すなんてことを、僕はできるだろうか?
たまたま、最近知ったふたつの素晴らしい業績のトライアルの数が、200回だった。
ひとつは、『本泥棒(原題:The Book Thief』というマークース・ ズーサック氏のベストセラー小説だ。この本は ニューヨーク・タイムズ誌のベストセラーリストに230週に渡って留まり続け、800万冊を売り、40ヶ国語に翻訳され、ハリウッド映画にもなった。
この小説は、ナチス政権下のドイツで、里子に出された孤独な少女リーゼル、本を盗むことを密かな慰めにする少女の数奇な運命を、「死神」がナレーターとなって読者に語りかける異色の物語文学だそうだ。(未読)
(『本泥棒』作者:マークース・ズーサック、入江真佐子 出版社:早川書房)
著者は3年かけてこの本を書いた。
とくに最初の部分に苦労した。
最初は主人公視点で書いた。うまくいかない。次に第3者視点で書いた。それもうまくいかない。
現在形で書いた。しっくり来ない。過去形で書いた。まだ、物語が流れ出さない。
彼はこの最初の部分を何度も何度も書きなおした。本人の回想では、その回数は150回から200回にのぼったという。
そして、200回目、「死神」を物語の視点に持ってきて書いたもので、やっと彼は満足のいく結果を得た。
この著作をベストセラーに導いた、「死神の視点」という独特のスタイルに到達するために、200回のトライアルを経ているのである。
僕らはそういう常人が思いつかないクリエィティブなものを見せられると、作者の天賦の才を賞賛し羨むことはあっても、それが、200回のトライアル&エラーによって生み出されたものであるとは、普通は考えない。
去年、すい臓がんの早期発見を容易にする新しい検査方法が開発された。
このニュースはかなり共有されたので、知っているひとも多いだろう。
15歳のアンドレイカさんは、少年のもつ楽観と熱心さだけを武器に、その開発に成功したのだが、彼が研究を続けるために、研究機関・大学教授などに送った提案書と手紙は、200通にものぼったという。
その詳細を、彼は最近、Mediumに寄稿しているが、その200通の提案書や依頼書は、同じものを200の送付先に送ったものではない。
送って断られるたびに、彼は何が悪かったのかと考えて、その提案書を書き直し、別の機関に送っているのである。
200通目で採用されたわけだが、採用した教授がその大きな理由として、彼の提案書の緻密さ、予算とタイムラインを添えた具体性(必要な実験設備などのカタログナンバーまで添えられていた!)を述べている。
アンドレイカさんも、 ズーサック氏と同じように、200回の精魂込めたやり直しの結果、誰もが到達したことのない高みに到達する足場を築いたのである。
5回でも10回でもなく、200回。
僕は200回もやり直したことはない。
あなたには、200回やり直したことがあるだろうか?
*『本泥棒(原題:The Book Thief』のことは、おなじみJames Clearさんの最新記事で知りました。彼の文章は非常に読みやすいので、お暇があればそちらもどうぞ。
*photo by Pascal
(2014年8月27日「ICHIROYAのブログ」より転載)