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2015年01月15日 17時07分 JST | 更新 2015年01月15日 17時10分 JST

小売業の実店舗に求められているのは実験精神

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 ネット通販におされて、小売の実店舗というビジネスが厳しくなって久しい。

 今朝、ときどき紹介しているビジネスライターであるイアン・サンダースさんが、Rough Tradeというレコード店を例にあげて、小売の実店舗が目指すべき方向性についてまとめられていて、とても興味深かった。

 Rough Tradeは1976年にロンドンで1号店を開き、30年後(!)に2店舗目を、2013年にはニューヨークのブルックリンに、そして4店目をイギリスのノッティンガムにつくり、現在4店で営業をおこなっている。

 知人にある分野のレコードのビジネスをしている人がいて、彼から日本のレコードビジネスの厳しさを聞いていたので、伸びていて、店舗も増やしているということが、そもそも、大きな驚きだった。

 僕も行ったことがないので、なぜこの店がそれほど伸びているのか、イアンさんの考察を読むしかないのだが、彼によるとその成功の秘訣は彼らが基礎としている4つの原則があるという。

  1. 何を選んで、どう見せるかということは、とどのつまり「編集者」であるということ。「編集者」として、わくわくするものをピックアップしてきて、新鮮な視点でグルーピングするのが「店」の役割。
  2. 予測不可能な発見、驚き、喜びを、来店者に ― わざわざ足を運んでくれて、時間を使う人に ― 提供することを忘れない。
  3. ウェッブサービスと同じで、ベーター版(試用版)で始めてみる。最初から完成を求めず、さまざまな実験的な品揃え、提案を試みる。
  4. エッジ(境界)に立って、「(レコード店はこう)あるべきという観念」からは距離を置き、挑戦がしやすい場所(たとえばノッティンガム)でやる。

 さて、僕はこの話を読んで、きっと、Rough Tradeでは、かつてのビレッジバンガードのような、わくわく感と発見に満ちた店舗が実現されているのだろうと想像した。

 小売店の成功にはいくつかのタイプがある。

  • A. 上に書いたような編集の面白さで売る ex.ビレッジバンガード、ドンキホーテ
  • B. 徹底的に顧客のニーズに寄り添うことで売る(たとえば、とことん安い、とことん便利など) ex.コンビニ
  • C. お客様とのパーソナルな関係を深めることで売る(昨日の記事参照) ex.呉服NC
  •  全国に何十万とある小売店には、そういった要素が混在しているのだけど、もちろん、どれに属しているのか鮮明であるほど、効率は良い。

     そして、BとCのタイプは、論理的に考え、着実に実行していくことで、ある程度は実現できるように思う。

     イアンさんが紹介されておられるRough Tradeは、Aのタイプであり、その実現がもっとも難しい小売店だと思う。

     それにはとんがったクリエィティビティが求められる。

     だけど、実現すれば、競争からは距離を置くことができて、収益はあげやすくなる。

     なぜ、多くの小売店がありきたりのままにとどまっていて、Rough Tradeのようにリスクをとって、わくわくするようなことをしないのだろうと、イアンさんは書いておられる。

     なぜ、新しいコンセプトを試してみたり、ほかの小売店とは違うことをしてみないのだろうかと。

     たしかに、そのことを忘れがちだけど、それをしない最大の理由は、そういうことをしても、なかなか売上が、実績がついてこないからだ。

     だから、すぐに諦めてしまう。

     僕も百貨店時代にたくさんの失敗例を見た。社内でも失敗していたし、街にある斬新なアイディアの小売店が、一時の注目を集めたあと、簡単に潰れてしまうのも見てきた。

     イアンさんがおっしゃるように、そこにはたしかに小売業の最高の道があるのだ。

     ただし、それを実現するためには、クリエィティビティととんでもない数のトライ・アンド・エラーが必要なのである。

     イアンさんが紹介されている、Rough Tradeという成功例も、2店舗目をつくるまでに30年の時間が経過している。その30年の間に、さまざまな試行錯誤を繰り返したに違いない。そして、やっと、彼ら独特のフォーマットに辿り着いたのだと思われる。

     若いころ、はじめてビレッジバンガードの店舗に入ったとき、なぜ、本と雑貨がごちゃまぜに置かれているのか、わけがわからなかった。

     店にいるあいだ中、「?????????????????」で、急に場所があいたので、適当に手持ちのものを並べたらこうなったのかな、と思ったまま店をあとにしたことを覚えている。

     そののち、その店は当時急速に人気が出ていたビレッジバンガードだったことを教えてもらって、やっと疑問が解けた。

     ビレッジバンガードとの最初の出会いは、ほんとうに強烈なものだった。

     小売店に入って、あれほどの強烈な衝撃を受けたのは、ビレッジバンガードが最初で最後だった。

     あれほどのことはなかなかできないにしても、小売業として実店舗をするなら、やはり、店に足を踏み入れたお客様に、ハッとしてもらうようなもの、店内にいた時間が楽しく有益だったなというような思いをもってもらえるような仕組みを、つくりたいものだと、あらためて思った。

     時代はどんどん変わっていく。

     小売店のありかたも、お客様の変化にともない、テクノロジーの変化にともない、急激に変化していく。

     僕らは、現在あるものが「最終形態」であるかのように思いがちだ。小売店の業態でも、ついつい、現在のものが「最終形態」で、新しい業態というのは生まれないものと思ってしまう癖がある。

     新しい小売業態は上に書いたA〜Cのそれぞれの方向の先にあると思うのだけど、たしかに、Aの先にも面白いものはありそうだ。

     だって、たとえば、シニア世代がこれだけ増えているのに、シニアがわざわざ行って、楽しんで、何かを買うような小売店の業態だって、充分に開発されたとは言いがたい。

     イアンさんがおっしゃるように、いま小売業者に求められているのは、大いなる実験精神なのである。

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    *ちなみに、あれほど驚きだったビレッジバンガードの店舗も、すこし見飽きたと感じるお客様が増えたのか、売上のほうは、ここ数年横ばいのようだ。また、斬新な品揃えや店内環境で僕らを驚かせ、かつての輝きを取り戻して欲しいものである。最大限のエールを贈りたい。

    (2015年1月15日「ICHIROYAのブログ」より転載)