photo by Tamer Shabani
勝負をして、勝ち負けを決めるのは、嫌なものだ。
懸命にやっていればいるほど、負けた時の悔しさは苦い。
そして、勝つにせよ、負けるにせよ、その時に、どんな振る舞いができるかということは、おおいに人間性を試すと思う。
大学時代、アイスホッケーのあるリーグ戦で、いろいろな事情が重なり、その年、とても戦力が落ちているチームとあたったことがある。完全に一方的なゲームで、まだ控えだった2回生の僕にも出番が多く回ってきた。
僕は試合の経験がまだ不足しており、多い出番を走りぬく体力がなかった。ただ、点を入れるチャンスは多く回ってきて、たしか4~5点ゲットすることができた。
あまりに一方的な試合だったし、僕はただ体力的に辛いこともあって、2点目以降、ゲットしてもあまり嬉しく思えなかった。
普通、ゲットすれば、それなりのアクションをして喜ぶものだが、その時の僕は、それもほとんど省略して、さっさとベンチに戻った。
試合後、相手チームのキャプテンが、完全に脱力している僕のとこへやってきて尋ねた。
「君は何回生?」
「2回生です」
彼は心の底から驚いたという表情をして、にこやかにこう言った。
「おおっ、それは、凄い。将来楽しみだな」
「ありがとうございます」
「だけど・・」彼は笑顔を引き締めて付け加えた「ゲットしたら喜べよ。いくら相手が弱くても、それが礼儀というものだぜ。じゃあな」
今朝、ウォール・ストリート・ジャーナルの記事
Andrew Luck: The NFL's Most Perplexing Trash Talker(NFLのもっとも奇妙なおしゃべりくん:アンドリュー・ラック)
を読んで、あの時の苦い思い出が蘇った。
この記事に紹介されているアンドリュー・ラックというまだ若いQBは、2012年にドラフト1位でインディアナポリス・コルツに入団した若手の超有望株。
アメリカンフットボールでは、攻撃側のQBに向かって、相手チームが突進してくる。ディフェンスがそういう相手からQBを守って、走るか、パスを投げるかして、進むことを手伝うのだが、守りきれずにQBがボールを持っているあいだにアタックされて倒されることがある。それをQBサックといい、攻撃側からすると、大きな失敗、相手チームからすれば、大きな成功となる。
アンドリュー・ラックは、QBサックされた時、QBサックした相手チームのプレイヤーに「Good Job!」(よくやった!)などと、褒め言葉を言うというのである。
彼をサックした何人かのプレイヤーが、同じような褒め言葉を聞いている。
なんだか、奇妙だが、たしかに、ラックはボールを持ったまま打ち倒されてなお、相手チームのプレイヤーを称えるというのだ。
相手チームに反則がないか探してレフェリーに抗議したり、相手プレイヤーに怒りの感情を覚えたり、ただただ痛みに耐えて沈黙するのが普通だというが、ラックは違う。
なぜ彼がそういうことをするのか、彼自身はノーコメントである。
ただ、彼の父によれば、彼がそういうことをするのは高校時代からであるという。
彼の父やチームメイトたちは、その理由を、こういうふうに推測している。
どちらのチームのものであれ、彼が、素晴らしいプレーに対する真摯な尊敬の念をもっていること。そして、彼が、とにかく、いいヤツであるからだ、と。
アンドリュー・ラックはまだ25歳。
伝説ははじまったばかりだ。
(2015年1月17日「ICHIROYAのブログ」より転載)