今更ながら「交際費」について考えてみる

読売新聞が伝えるところでは、大企業の交際費、一部非課税に...14年度からとの事である。私は、従来から「交際費」は企業組織や、その背後にある社会を円滑に動かすための必要な潤滑油だと思っている。そういった背景があって、今回改めて「交際費」の意味について考えてみる事にした次第である。

読売新聞が伝えるところでは、大企業の交際費、一部非課税に...14年度からとの事である。

政府・与党は、大企業が取引先の接待などに使う交際費の一部を税務上の経費(損金)として認め、非課税とする方針を固めた。

企業が納める法人税を減らすことで、交際費をもっと使ってもらう狙いで、来年4月の消費税率引き上げによる消費の落ち込みを和らげたい考えだ。2014年度からの実施を目指し、12月にまとめる14年度税制改正大綱に盛り込む方針だ。

ネット上で薀蓄を傾ける事の多い識者・論者と目されている先生方は、普段「交際費」を使う立場になく、この事には無関心なはずである。一方、今回の政府・自民党の方針に内心拍手喝采を送っている大企業中間管理職は、普段差障りを恐れネットで発言する事は稀である。私は、従来から「交際費」は企業組織や、その背後にある社会を円滑に動かすための必要な潤滑油だと思っている。そういった背景があって、今回改めて「交際費」の意味について考えてみる事にした次第である。

意外と人気が高い麻生財務相

今回、反対する財務省を説得して大企業の交際費を一部非課税とする事を決定したのは麻生財務相と聞いている。勿論その事もあるが、「麻生さんは実際に企業経営をした経験もあり、実体経済を良く理解している」などと、マスコミとは違って大企業中間管理職には麻生財務相を評価する声が高い。考えてみれば無理もないだろう。民主党政権下の三年三か月5人の財務大臣が誕生しているが企業経営や実態経済とは縁のない人達ばかりであった。大企業中間管理職に取っては隔靴掻痒の日々であったに違いない。

民主党政権下の財務大臣

それでは、民主党政権下の財務大臣について実際に調べてみよう。

誰一人として企業経営の経験はおろか、民間企業での職務履歴すらない。これでは、企業経営の実績がある麻生財務相が大手企業中堅幹部のハートを鷲掴みするのも納得出来る。

黒字の会社は良い会社、赤字の会社は悪い会社

企業決算が黒字であれば黒字額に応じた法人税を納税する。従って、黒字の会社は良い会社という結論になる。一方、赤字決算であれば企業は納税を免れる。この場合、行政は企業が企業活動を継続するための行政サービスを提供しているから赤字企業は行政サービスにタダ乗りをしている事になる。従って、赤字の会社は悪い会社という分り易い結論となる。良い会社は納税する事で社会に貢献している訳で、当然称賛され今回の交際費の一部非課税の様な形で「ご褒美」を貰うべきと思う。それによって、社員にやる気が出て更に頑張る事が予想される。好ましいスパイラル、つまりは「増収増益」のトレンドが維持されるのだと思う。「成長戦略」についての抽象的な議論も良いが、「交際費」の様な効果がはっきりした施策から着手するのは正しい選択だと思う。

何故「新規ビジネス」を創出せねばならないのか?

企業に利益をもたらす「優良ビジネス」であってもやがては「薄利ビジネス」となってしまう。そして、対応を検討している内に「赤字ビジネス」に転落してしまう。こうなれば、リストラにより赤字の垂れ流しを止め、縮小均衡を図るしか手段がなくなる。企業がデフレスパイラルに陥るとはこういう事であろう。

対策としては「新規ビジネス」を創出し、既存ビジネスが「薄利ビジネス」になる事が見えた段階で軸足を「新規ビジネス」に移行して行くしかない。勿論、環境の変化に付いて行けず、リストラの憂き目を見る社員も出て来るであろう。それでも、事業部全体がリストラされるよりは痛みはずっと少ないはずである。

「新規ビジネス」をどうやって創出すれば良いのか?

優秀な社員がいて、「新規ビジネス」のアイデアが泉の如く次から次へと湧いて出れば何の問題もないだろう。しかしながら、実際にはそんな都合の良い社員はいない。何もない状態で、先ずは何となく面白そうだなと思った人間と交際費を使ってと付き合い始めるところからのスタートではないのか?次いで、親密な人間関係の中でおぼろげながらビジネスの概要が見えて来る。やがてビジネスが実際に動き出し、売り上げと利益が発生する。この段階となると交際費は利益を生むためのコスト扱いとなり、誰からも後ろ指を指される事はない。最後は、ビジネスが賞味期限切れとなり、優良ビジネスから薄利ビジネスに転落する段階である。手仕舞いをどうするか? 相手方としっかりすり合わせすべきで交際費も必要である。後ろ向きの仕事と捉える向きも多いが、こういう事をしっかりやってこそ次の新しい仕事に繋がる訳である。

「交際費」は「幹部候補生」を育てる?

新卒の採用に「幹部候補生」と「兵隊」の二通りがあると推測される事は、「12月1日就活解禁」をどう理解すべきか?で説明した通りである。

企業には「幹部候補生」と「兵隊」の二種類の採用がある?

それでは、果たして経団連に加盟している企業が指を咥えて外資、ベンチャー企業の青田買いを座視しているのだろうか? 私は決してそうは思わない。12月1日に拘束される事無く、就活生が話を聞きたいと大学の先輩を訪ねて来る事は何も不自然ではない。「幹部候補生」の資質を備えた良い人材であれば当然人事部に報告し、人事部が了解すればその後、ランチ、次いで夜の飲み会と発展するのは当然の成り行きであろう。勿論、唯単に先輩後輩が酒を飲んでいる訳ではない。先輩は後輩に自社が本当に第一志望なのか? どういう形にせよ内定を出せば必ず入社するのか? を確認しているはずである。

日本国内には3.4万の上場企業がある。極めて大雑把な推定であるが、55万人といわれる就活生の内5万人程度が「幹部候補生」として採用され、採用活動が正式に開始される12月1日以前に内定を貰っている様に思う。就活に懸命に取り組む就活生を揶揄する積りは毛頭ない。しかしながら、仮に私の推論が正しければ12月1日以降の就活を巡る大騒ぎは、大部分の就活生に取って企業の「兵隊」になるためのものという事になってしまう。

冷徹にいってしまえば代替の効く「兵隊」は企業に取って使い捨てでも構わない。そして、これが所謂「ブラック企業」が世の中からなくならない背景である。一方、企業は「幹部候補生」をしっかりと育成せねばならない。「幹部候補生」が育たねば、企業の将来は先細りとなってしまうからである。

仮に営業部門の幹部候補生であれば、良い人脈を構築、拡大し、そこからレベルの高い情報を日々入手する必要がある。そして、入手した情報を一度自分自身で整理し、体系化した上で、自身のデーターベースを都度更新し常に最新状態に維持する訳である。更には、必要に応じデーターベースを活用して、社内向けであれば企画書、社外向けであれば提案書を作成する事になる。勿論、そこで必要となるのは考え抜く力である。

入手した情報を都度体系化する事を習い性にしている事、整理され、体系化された情報をベースに考え抜く力、そして、考えた結果を企画書、提案書として分かり易く取り纏める能力が重要である事は勿論否定しない。しかしながら、良い食材が手に入らねば美味しい料理が調理出来ない様に、質の高い情報の入手から全てが始まるのは事実である。そのためには「幹部候補生」は人脈の構築、拡大に注力せねばならず、企業はその際必要となる「交際費」の面倒を見るべきと思う。

「交際費」が給付されている若手社員とそうでない社員の異なる未来

例えば近い将来こういう事が起こるのだと推測する。A君とB君は共に都内の有名私立大学を8年前に卒業し同じ企業の経営企画部に所属する男子社員である。役職、年収、所属部署は全く変わらず、卒業した大学も甲乙付け難い名門大学なので外から見る分には全く同じ様に見えて当然である。強いて違いを探せば、A君には月10万円の「交際費」枠が認められているのに対し、B君には認められていない事くらいであろう。

部長は、A君の仕事は外部の人間と付き合い情報を得て将来の会社のあるべき姿を考える事。一方、B君の仕事は経営企画部の策定した戦略を社内各部門に落とし込み、部門毎に出て来る問題を戦略のカスタマイズで解決する事。この二つの仕事は経営企画部の両輪といって良い重要な仕事だが、A君の仕事は外部の人間との信頼関係構築がキーとなるので「交際費」を認めているといったものである。一見本当らしい説明に聞こえるが、信じて良いのだろうか?

A君が会社に経費を負担させて構築した人脈は会社の財産でもある。従って、元々優秀な事もあり、会社としてはA君に転職される様な事があっては困る。従って、近い将来経営企画部の課長に昇進させる予定にしている。一方、同期のB君を同じ職場に置いておくのは余り好ましい事ではないと部長は考えている。従って、A君の課長昇進以前に一度現場を経験した方が良いという口実の下、地方支店に転勤させる予定である。A君とB君のその後の昇進に大きな差が付く事は確実である。

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