アギーレ監督、メキシコ監督時代とは異なる印象を見せた

メキシコ代表監督時代には相手選手に蹴りを入れて退席処分を食らうなど、激情家として知られたハビエル・アギーレ監督。8月28日の日本代表メンバー発表会見では、9月の2連戦(5日・ウルグアイ戦=札幌、9日・ベネズエラ戦=横浜)に向けて「私は15年間監督をしていて、12年間いたスペインで2回退席になりました。メキシコ代表では80試合で1回の退席処分を受けている。

メキシコ代表監督時代には相手選手に蹴りを入れて退席処分を食らうなど、激情家として知られたハビエル・アギーレ監督。8月28日の日本代表メンバー発表会見では、9月の2連戦(5日・ウルグアイ戦=札幌、9日・ベネズエラ戦=横浜)に向けて「私は15年間監督をしていて、12年間いたスペインで2回退席になりました。メキシコ代表では80試合で1回の退席処分を受けている。メキシコリーグには5年間いて1回の退席処分になった。でもヒールになって相手を怪我させたり、悪意のあるプレーをする事はない。もちろん激しく戦います。それは信じて下さい」と、苦笑いしつつ弁明をしていた。そんな強面の印象が強い新指揮官が果たして日本代表でどのようなチームマネージメントを見せるのか…。そういう意味でも、1日の札幌市内での初練習が注目された。

トレーニング開始時間より早めにピッチに登場したアギーレ監督は、この日参加した16人の選手といきなり円陣を組み、自らの考えを口にした。本田圭佑(ミラン)や長友佑都(インテル)など2014年ブラジルワールドカップ主力組がまだ合流していない事もあり、細かい戦術やコンセプトについては明言を避けたようだが、「来年のアジアカップ(オーストラリア)に向けて戦っていこう」と5カ月後に迫った最初のビッグトーナメントに照準を合わせている事を改めて強調したという。

だが、そこからの1時間半はピリピリしたムードはなかった。最初のセンターサークル内でのボールコントロール練習は主にフアン・イリバレン・モラス・フィジカルコーチに任せ、新指揮官は羽生直行通訳を挟んで手倉森誠コーチ(U-21日本代表監督)としきりにコミュニケーションを取りつつ、気づいた事があればメモを取っていた。その後のランニングや2~3人1組のパス練習もイリバレン・フィジカルコーチやスチュアート・ゲリング・コーチらが中心だった。最後のサッカーテニスの時には、アギーレ監督がちょこちょこと各グループに顔を出し、冗談交じりに声をかけていた。

「アギーレ監督は非常にボケるというか(笑)。ギャグが好きなんだなというのは感じました。気難しいのかなと思ったんですけど、結構、フランクだなという感じは受けました。サッカーテニスの時にはGKチームがいたんで、『GKチームに負けたら即帰ってもらう』って話もしてました」と吉田麻也(サウサンプトン)も笑顔を見せていた。厳しい事を言われたり、緊張感が漂う初日を想像してきた選手は吉田だけではなかっただろう。彼らにとっては入りやすい初日だったはずだ。

「『いつの日か私も日本語で話したい。今は通訳を通してコミュニケーションを取る事が多いけど、何かあったらどんどん話してくれればいい』と監督は言っていました。頑なに自分の言葉で喋る訳じゃなくて、周りの人とコミュニケーションを取りたいのかなという印象でした。短期間で日本語を覚えた監督はあまり見た事がないけど、すごい意欲を感じた」と長身GK林彰洋(鳥栖)も前向きにコメントしていたが、指揮官は日本に溶け込もうという積極的な姿勢を示している。それは2002年日韓ワールドカップを指揮したフィリップ・トルシエ監督らとは異なる点だろう。前任のアルベルト・ザッケローニ監督もそうだが、日本サッカー協会の原博実専務理事兼技術委員長、霜田正浩新技術委員長はアギーレ監督のそういう部分も評価して、新たな指揮官に抜擢したのかもしれない。いきなり選手を考えさせる練習をいくつも実践してカリスマ性を示したイビチャ・オシム監督ほどのインパクトはなかったが、第一日目としては悪くないスタートだったのかもしれない。

とはいえ、全員が合流する2日目以降は、本来の激情家の姿を少しずつ見せ始めるのかもしれない。メキシコ人のアギーレ監督にとって、南米のウルグアイとベネズエラという相手は絶対に負けたくない相手に違いない。いくら相手が格上といえども、黒星から入るのだけは避けたいだろう。となると、勝つための戦術やコンセプトはしっかりと植え付けるはず。カバーニ(PSG)やゴディン(アトレティコ・マドリード)、カセレス(ユヴェントス)ら百戦錬磨の面々が揃うウルグアイに互角の勝負を演じるのは簡単な事ではない。実際、昨年8月の仙台でのゲームも日本は大量4失点を喫している。それを考えると、まずは守備の整備から始めるのではないか。GKや最終ラインの陣容、中盤の構成などを含め、ここから彼がいかに自身の色を出していくかをしっかりとチェックしたい。

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元川 悦子

もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。

(2014年9月2日「元川悦子コラム」より転載)

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