ナックルボーラーとして再起を目指す大家友和を訪ね、BCリーグの富山まで足を伸ばしたのは昨年9月のことだった。
「現時点ではナックルだけではとても勝負できないですから...」
その日はナックルにツーシームなど数種類の球種を交え、相手打線を抑え込んだ。大家のピッチングは意図的にフライアウトを打たせているようにも見えた。「まだまだこのカテゴリー(独立リーグ)だと守備が乱れることが多い。ゴロよりフライの方がミスの出るリスクは低いと思う」自身の進歩はもちろん、チームが勝利するためのベストを常に考えている姿が記憶に残っている。
年が明けた今季、大家がプレーしているのは米国アトランティックリーグのブルーフィッシュという球団。本拠地は、ニューヨークから車で1時間ほど北上したコネチカット州ブリッジポートにある。独立リーグとはいえ、シーズン中でもメジャー傘下のマイナーやメキシコリーグに選手を供給するレベルの高いリーグである。
「リーグ内でチームによる力の差があるのは感じました。例えば、移籍で主力が抜けることが多いので、一気にチーム力が落ちたりする。ある種、特殊なリーグかもしれない」
「うちに関しては、結果を残せていない(9月15日現在ディビジョン最下位)。個人的にもステップアップして、シーズン中でも上(=メジャーやその傘下のマイナー)へ行きたかったけど、それがかなわなかった」
メジャー傘下の上のカテゴリーを目指すなら、ここは球界屈指のチャンスの多いリーグだ。先月引退を発表した坪井智哉氏(元阪神、日ハムなど)も、最後のチャンスをこの舞台に賭けた。アトランティックリーグの魅力の1つは、ここにある。
40歳を前にしてナックルボーラーに転身した大家の挑戦には、様々な逆風が吹く。心が折れそうになることも多いだろう。
「年齢を重ねるにつれ、新しいことに挑戦するのは、それまで以上に心身とも強くならなければいけない。何事もすごくエネルギーを使う。でも若くして野球を辞めると、それは絶対にわからない。もの凄く良い経験というか財産になっている」
「自分でコントロールできることをしっかりすることが大事。練習したり、自分自身の考えを整理したり...。自分でどうすることもできないことについては、どうしようもできない。それに対する感情を持っても仕方がない」
ナックルボーラーに挑戦する年齢が遅かったため、時間があまり残されていないことは本人が一番自覚している。だからこそ大家には、断固たる覚悟がある。富山を訪れた1年前、ナックルに加えて数種類の球種を投げていたことを、大家にぶつけてみた。
「今もナックルが100%ではない。でもかなりの割合にはなっている。フルタイムのナックルボーラーと言えるぐらいには投げている。去年に比べると着実に進歩していると確実に言える」
だが、それだけでは上には進めないことは本人が最も強く自覚している。
「少しずつつかめたものはあるような気がしている。ナックルボールを投げる感覚だったり、ナックルボーラーとはこういうものだということだったり。でも一番上(=メジャー)でやりたいのに、『成長している』で今は終わっているから...」
チーム練習が終わっても、1人で走り込みをしてから上がって来た。周囲に流されずやることをやる。大家の姿勢は13年前に初めて自主トレを見た時から、何も変わらない。いつも口にするのは「普通のことを普通にやるだけ」だ。
「与えられた環境で、やれることをやって行く。そこには何も特別なことはない。文句言ってもしゃあないですし。それをやるために、いろいろと工夫をしなければいけない。それが普通のこと」
先はどうなるかわからない。そんな状況でも強い気持ちで上を目指し、プレーし続ける。今季の大家は25試合に先発して6勝12敗。独立リーグとはいえ150イニング近く投げ、2完投が光る。日米で何度もクビになりながら飽くなき挑戦を繰り返す大家は、未来を信じて今日も異国で投げ続ける。
取材協力:山岡則夫@イニングス
スポカルラボ
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(2014年9月16日J SPORTS「MLBコラム」より転載)