前回に引き続き総括質問のご報告です。
板橋区政最大の課題のひとつが、保育の待機児童対策です。折しも総括質問の2日前、埼玉県富士見市で、ベビーシッターが2歳の子を死亡させるという、痛ましい事件が起こった直後でした。
冒頭で私はこの事件について触れ、保育の不足がリスクの高いサービスを蔓延させる原因になっていると述べて、待機児童解消に総力を上げる必要があると訴えました。
区も手をこまねいていたわけではなく、平成25年度には500人の定員増を行なっているのですが、それにもかかわらず平成26年4月時点での待機児童解消は困難な情勢です。
■リーマン・ショック後に待機児童数は急増、保育需要率も上昇続く
上に示したのは、板橋区の保育待機児童数と保育需要率の推移を表したグラフです。
リーマン・ショックが発生したのが平成20年ですから、その翌年度から急速に待機児童数が増えていることがわかります。
保育需要率とは「全未就学児童数のうち、保育を必要としている児童数の割合」で、(保育定員総数+待機児童数)÷全未就学児童数、で求められます。保育定員をどれくらい確保すべきかを検討する上での重要な指標です。
保育需要率もずっと上昇を続けており、保育定員増を図ってもそれを上回る需要が出てきて待機児童が解消できない「掘り起こし効果」が顕著に現れています。
■社会の構造が「共働き前提」に変化、もう時計の針は元に戻らない
私は一昨年、東京都が「スマート保育事業」を開始するという情報をいち早くキャッチし、「予算が限られているから、すぐに手を上げろ」と文教児童委員会で訴えました。
それが功を奏して、板橋区では「板橋スマート保育」として都内随一の規模で導入しています。
また、昨年の総括質問で私は「1・2歳児だけではなく、特に厳しい0歳児の定員拡充を」と求めましたが、この意見を入れていただき、区は平成25年度からは「0・1・2歳児」の定員を特に拡充しています。
しかしそれにもかかわらず、想定を超える需要増に追いついていないのが現状です。
これは、リーマン・ショックによって企業がまず自己防衛を行い、非正規雇用を推進した結果、社会の構造が実質的に「共働き前提」に変化してしまったということではないだろうかと私は考えています。
リーマン・ショックは、虫の息だった終身雇用制に完全にとどめを刺しました。
しかし制度としては残っているので、正社員として雇ってしまったらその後の解雇がしにくくなるため、非正規雇用が拡大していったわけです。
非正規社員の正社員化は、財務上では企業業績を悪化させるため、多くの企業はやりたがりません。
つまり、「正社員」「非正規社員」という身分が固定化しやすくなり、収入が増えにくい非正規社員が家庭を維持するためには、共働きをしないわけにはいかなくなる。
このような社会構造の変化が、保育需要率上昇の背景にあるのではないかと思われます。
「家庭のあるべき姿」というものについては様々な意見がありましょうが、それとは関係なく、もう時計の針を元に戻すことはできないのです。
保育の需要が急速に高まる中で保育定員拡充を緩めれば、保育がなければやっていけない世帯は、「保育をあきらめる」のではなく「なんとかして預けようとする」、つまり、リスクが高い保育サービスでも使ってしまうということになります。
まず、待機児童解消が最優先です。
雇用のあるべき姿や家庭のあるべき姿を論じることも必要でしょうが、とにかくまず待機児童解消を実現しなければ、今、幼い命が失われる可能性がある。
そういう社会情勢であることを、関係者は肝に命じなければならないと思います。
(2014年4月4日「中妻じょうたブログ」より転載)