(A ROYAL NIGHT OUT/2015年)
現在も90歳でご存命どころかバリバリと公務をされているエリザベス女王が主人公。19歳のとき、非公式に一晩限りの外出を許可された"実話"がベースとなっている。お忍びで自由を満喫するというのが、当然のことながら『ローマの休日』を彷彿させる。
1945年5月8日、第2次世界大戦においてドイツとの戦争に勝利したロンドンでは、誰もが戦勝記念日を祝っていた。この大騒ぎの機会を逃せば、外出のチャンスはないと感じた19歳のエリザベス王女は、父親の国王ジョージ6世に対して宮殿の外に出たいとお願いする。エリザベスは、妹マーガレットと共にオシャレしてお忍びで外出する。お約束であるが、素敵な庶民階級の若い軍人ジャックと出会って、一晩の冒険が始まる。ジャックの母親がつぶやく「国王は頑張っている。継ぎたくなかっただろうに」という言葉がエリザベスの心にしみる。このジョージ6世に関する映画が『英国王のスピーチ』である。
この一晩の冒険によって、戦争というものや、社会の格差を身をもって知ることになる。そして成長したエリザベスは女王が統治者としての責任を自覚していく。コミカルで可愛いだけではなく、厳しい物語である。
現在、英国はEU(欧州連合)離脱問題で揉めている。キャメロン首相は必死に離脱を阻止しようとしている。筆者は政治家として、特に経済政策の面でキャメロン首相を高く評価している。先日の英国の総選挙で圧勝したが、彼は単年度財政赤字を約4割削減し、日本では消費税に当たる付加価値税(VAT)を上げた。それで圧勝した。
日本では、国民の財政に対する知識の不足のせいか、政権のいい加減な説明のせいか、消費税を始めとした税金上げは、逆に国民の人気がない。そのため、最近も、公約であった2017年4月の消費税上げを、代替の財源を示すことなく、選挙のために延期した。これで財政状況が悪化するとともに、政権に対する信認が薄らいだ。
EU離脱問題は、EUに最近参加した東欧諸国からの移民が大量に英国に押し寄せて、英国民の雇用が悪化していることが問題の根底にある。EUは統合のために人の移動を認めているので、移民を遮断することができないのである。さらに、最近も欧州の経済債務危機のとき、その負担も掛けられそうになったこともその一因となっている。
実際、もし英国がEUを離脱すると、今までほぼ自由にできていたが、ビジネスの環境が悪化する。また、当然のことながら関税も上がる。さらに、ロンドン(シティ)は、自由な金融市場で英国経済を支えてきたが、その自由度も低下する。
筆者はEU離脱の可能性は低いと思うが、6月23日(木)に国民投票が行われる。本作は6月3日(金)に公開される。
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