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2018年03月19日 09時25分 JST | 更新 2018年03月19日 09時25分 JST

「発達障害者の就職支援」とは? 友人がもたらした“新しい視点”。

変わりゆく「発達障害者」就職のリアル(1)

◇20年ぶりの邂逅

11月にはじめての本を出版し、イヤイヤ期真っ只中の子どもを抱え、ありがたくも忙しない日々を送っていた、師走のある日のことだった。何気なく携帯を見やると、SNS経由でメッセージが届いている。

「こんにちは。中高で同級生だった有田(仮名)です。覚えているかな? たまたま本を出したと知って、読みました。今、仕事で障がい者雇用の就職支援をしているの。最近、発達障害の方がとても多く相談にいらっしゃるので、興味深く読ませてもらいました。」

私は中高一貫の女子校に通っていたのだが、そこで同窓だった友人である。彼女のことは、もちろん覚えていた。私が何かを言って、それにキャッキャと笑い声を立てる笑顔が、ふと脳裏に浮かぶ。しかし、それは20年も前のものだ。懐かしい顔を思い浮かべながら、私は返信の文章を打った。

「ご無沙汰しています! もちろん覚えています。本を読んでくださったとのこと、ありがとうございます。お仕事、とても興味深いです。発達障害(二次障害の鬱とか)で就職できず、もしくは勤務が続かずに困っている方、多いですよね......。よろしければ今度、お話聞かせてもらえませんか?」

話はとんとん拍子に進み、まずは彼女と軽くランチを共にすることになった。暮れも押し詰まったある日、サラリーマンと学生の行き交う、昼時の三田の交差点に現れた彼女は、20年前と同じ笑顔を浮かべていた。

◇「障がい者雇用」とは?

私は、発達障害を抱える人間の一人である。だから、その生きづらさ(最近では「困り感」というらしい)については、経験上知っているつもりだし、本を書くにあたって、様々な発達障害者のお話を伺うこともできた。つまり、色々なケースの"当事者視点"を、知識として持っているつもりである。

ところが、いまこの日本で、私たち発達障害者を取り巻く制度にどのようなものがあるのか、また、それがどのように変化しつつあるのかという点については、恥ずかしながら全くもって疎かった。とにかく、自分の行く道をならすことに必死で、そのような視点がすっぽりと抜けていたのである。

有田さんは、パーソルグループの特例子会社であるパーソルチャレンジという会社で、障がい者雇用の就職支援の仕事に就いているという。正直、社名にピンとこなかったが、彼女が「もともとインテリジェンスという会社でね、いろいろな事業が統合されて社名が変わったの」というので、「ああ、インテリジェンス!」と頷いた。というのも、私がかつて勤務していたIT企業の社長が、もともとインテリジェンスの出身だったからである。懐かしい名前をあげて、ひとしきり盛り上がった後、私たちは本題に入った。

「本当にね、ここ数年で発達障害を持つ人からの相談が、グーンと増えたの。だからクニザネの本を読んでいて、いろいろ思い当たる節が多かったよ」

正直、「障がい者雇用」に発達障害が含まれるということすら、最初はピンとこなかった。なにしろ、私が大学を卒業し、ろくに就職活動もしないまま、出版社にアルバイトとして潜り込んだのは、もう、20年近く前のことである......。

私は、ぼんやりとした頭で考えた。「障がい者雇用の就職支援」を受ける発達障害者が増えている? それってつまり、私のように障害が原因で会社に通えなくなってしまったりすることが社会的に問題視されていて、国や有田さんが勤めるような民間企業が、私のような「困り感」のある発達障害者の就職を支援している、ってことよね......。

本を書くにあたり取材をさせていただいた方のお話からも、そして自身の体験からも、発達障害を抱えながら"会社勤務を継続させる"ことの難しさはわかっているつもりだ。もちろん「困り感」を抱えつつもそれを自分なりに解消させつつ勤務を続けている人も多くいる。しかし、同僚や上司とのコミュニケーションの問題を抱えたり、マイペースな仕事ぶりがトラブルを生んでしまったり、もしくは私のように過剰適応をするあまり二次障害を発症するなどして、物理的に会社に通えなくなる人はあまりに多い。

多くの場合、彼らは転職を繰り返すことになる。その過程で、私のようにフリーランスになる者もいれば、良き理解者に恵まれて一つの会社におさまる人もいる一方で、さすらいつづける人もいる......。

◇発達障害者が、「障害者手帳」を取得するということ

そのようなケースしか知らなかった私は、彼女が口にする「障害者手帳」という言葉に心をざわつかせた。理由はいうまでもないだろう。私も過去に苦境に立たされた時、頭をかすめたことはあったものの、「障害者手帳」を取得するということに、今でもいささかの抵抗感があるからだ。自分が障害を抱えていることはどうにか腑に落ちても、いざ手帳の取得となれば、そのメリットよりもデメリットが大きいような気持ちになってしまう。私は恥ずかしげもなく、思ったことを彼女に投げかけた。

「うーんと。つまり、障がい者雇用っていうことは、障害者手帳を持っていなきゃいけないってことだよね。発達障害を抱えている人で、障害者手帳を持っている人って、そんなに多いのかな?」

「そうね。うちは、基本的に手帳の取得を前提に就職支援をしているの。つまり、障害者枠での雇用をお手伝いしているのね。特にここ数年は、ASDとかADHDを主とする発達障害が理由で勤務が続かなかったり、二次障害を発症すると、"発達障害"の診断が下りると同時に手帳を取得する人が、とっても多いのよね」

「時代、明らかに変わってきているね......。これ、率直な感想だけど」

「うん。特に若い方だと、抵抗感がほとんどない人も多いかな。まあ、私たちぐらいの年代の方だと、いろいろ苦労してきて、やっぱり仕事がうまくいかなくて......。それで手帳を取得されて、うちに相談に見えるケースが多いかもね」

「うん、それだったらわかるなあ。職種こそ違えば、私も考えざるをえなかったかもしれないし......。もし事務職だったら、フリーランスで、在宅で、自分のペースで、なんて難しいよね」

「そうだね。クニザネの仕事だと、たしかにどうしても会社に通わなくちゃいけない、ってわけじゃないだろうからね」

「じゃあさ、障害者手帳を取得して、障害者枠での雇用を選択するメリットとデメリットって、どんな感じなの?」

「そうね、デメリットとしては、正社員になりにくいだとか、障がい者雇用とはいっても、現場レベルでの配慮が足らないケースもあって、結局あまり状況が変わらないというケースがあるかな......。あとは、定型業務メインの会社へ転職された方なんかは、業務が簡単で残業もないから、なかなか収入を上げられないっていう人が多いかもしれないね。それでも最近は収入が上がってきていて、だいたい年収300万円くらいとか......。」

「思ったより、多いかも」

「で、メリットとしては、ある程度の規模の会社に入社できるケースが多いから、研修やマニュアルが充実していて、発達障害の方が働きやすいのよね。あと、何より会社側へ"ここを改善してほしい"という風に頼みやすい。ほら、会社側も障害を理解した上で雇用しているわけだから、ちゃんと慮ってくれるケースが多いの。積極的に電話を取らなかったとしても"やる気がない"とは思われないし、そのあたりは強みだよね」

「なるほどねえ......」

ランチの時間はとっくに過ぎている。街はふたたび「オフ」から「オン」に戻っていた。有田さんを長く引き止めてはいけないので、後日、会社で詳しく話を聞くことを約束し、私は彼女に手を振った。帰路、あまりに世情に疎い自分が恥ずかしくなったが、何より"新しい視点"がもたらされたことに、私は心から感謝していた。                     

                                       (この項続く)