緊急座談会「クリエイティブは効率化だけじゃない!」 ママクリエイターたちのアイデンティティ

思いの丈を存分に語っていただきました。

長時間労働が問題視されているクリエイティブ業界にも、働き方改革の波は加速中です。その一例として、2017年6月にソーシャル クリエイティブ グループAMDは、ママクリエイターたちを新たに雇用したモーメント株式会社(以下、mom.ent)を立ち上げました。

「全員正社員雇用」「徹底したチーム制」を提言し、会社としてサポート体制を整えつつ、ママであることを強みに活動されています。現在、グラフィックデザイナー、WEBデザイナー、プランナーなど8名が在籍中とのこと。そこでママクリエイターたちの緊急座談会を依頼! 彼女たちの葛藤や、クリエイティブ業界のリアル...... など、思いの丈を存分に語っていただきました。

(写真右から)

  • アートディレクター・グラフィックデザイナー/三上 悠里さん お子さん1歳半

大手広告制作会社、デザイン事務所を経て、妊娠6ヶ月の時にフリーランスに。現在は週3回で勤務し、残り2日はフリーランスという働き方。

  • プランナー/新井 麻亜沙さん お子さん2歳

イベント制作会社にて産育休を取って復帰するも、仕事を大幅に制限されマミートラックに陥り...... 復帰後半年で転職。週5で勤務。

  • マネージャー/中庭 未保さん お子さん15歳、11歳

クリエイティブ業界に身を置きたい、と考えるも子育て期のため断念。別業界で営業スキルを磨き、設立と同時にマネージャーに従事。

仕事を剥がされて絶望ママ、妊娠後も長時間労働ママ

クリエイティブ業界を諦めたママ...... 軌跡はさまざま

(右)三上さん

編集部:皆さんが、mom.entに来られるまではどんな環境でした?

新井麻亜沙さん(以下、敬称略。新井):私はイベント制作会社に勤務していました。長時間労働だけどやりがいもあり、気持ちを注いで働いてきました。でも妊娠を上司に伝えた途端、ほとんどの仕事を剥がされました。会社としては優しさだったとは思うのですがこんなにもあっさり...... 上司に「もったいない、なんで今なんだ」と言われた時、「このギャップは私には埋められない!」と痛感しました。育休から戻っても仕事はなく、デスクでネットサーフィンをする日々でした(苦笑)

編集部:ママの前例はいらっしゃらなかった?

新井:先輩ママは5人いましたが、働き方は両極端で。(旦那さんが主夫で)徹夜で働ける人か、(時短で仕事を制限されても)文句を言わない人。私はその間をなんとか行きたかったのだけど、その選択肢はありませんでした。

それに、現場は深夜早朝の仕込み・撤去は当然だし、大阪、名古屋、福岡と全国回りますよね。上長からしてみたら使いにくいですよ、でも「一緒に考えよう」という姿勢はなかった。そんな中、mom.entの記事を見て説明会へ。

編集部:イベント業界って男社会ですものね。三上さんはどういった状況で?

三上悠里さん(以下、敬称略。三上):彼女とは真逆で、私は妊娠しても仕事は減らず、ガンガン深夜作業もありました。子どもはずっと欲しかったのですが、先輩ママの働き方を見て「私には同じような働き方はできないから、フリーランスになろう!」と心に決めていました。そしてデザイン会社に転職し、妊娠半年で退社してフリーランスに。産む10日前まで仕事は続け、本格復帰は産後1ヶ月からでした。

編集部:またまた過酷ですね...... フリーランスからなぜ就職を?

三上:イベントの登壇者として話をしていたところ声をかけていただいて。二度と就職はしない、と思っていましたけれど、自分としては一人でやるよりは、チームで動く方が視野も広がるな、と。

中庭未保さん(以下、敬称略。中庭):私は26歳くらいの時に、ウェブ制作会社でアカウントディレクターとして働いており、「クリエイティブ業界をもっと広く経験したい」という思いがありました。(親会社である)AMDの面接も受けましたが、その時二人目がまだ小さくて、子育て真っ只中。その時はマッチングせず、一旦は諦めて別業界へ。

それから6年経った昨年3月。代表の千布から「mom.entを設立するのでマネージャーとしてどうかな?」と声をかけて頂いて。子どもも大きくなり自分の生き方を考えていた時だったので、是非! と。

「自分じゃないとできない仕事に時間を割きたい」

ママになってから作りたいものが変わってきた

新井さん

編集部:ママになり、クリエイターとして一番変化した点は?

三上:現実的な話ですが「残り時間」についてすごくシビアになりました。「誰と」「何に」「どのぐらい」時間を使うのか。子どもとの時間、そして自分のデザイナーとしての寿命...... その中で自分はどこまでできるか。自分じゃなければできない案件や、自分がやる意義の案件だけを受けたい。

新井:意識的なところでいうと「誰が心からハッピーになるのか」を考えるようになりました。以前は販促イベントが多く、インスタントな消費を促すこともあったので。規模に捉われず、一人でもいいから自分の作ったコトで人生が豊かになるような...... 小さくても深い仕事をしたいな、と。

三上:それ、めっちゃわかる。将来、自分の子どもが享受するかもしれないモノを作れた時は嬉しい。

新井:私、子どもを考えていなかった時に授かったので、育児が毎日が辛くて...... これまで自分の人生自分だけのものだと思っていたので、24時間寝ずに働こうがどこで何をしようが、自分勝手に使えていた。でも、産後は違っていて、旦那も帰ってこないしなんか子育てが辛い。その辛さがわかる分、同じ環境のママたちの助けになれたら、と。

三上:私は子どもが欲しかったから、心の準備はできていました。でも、産後一年以上経ってから、益々大変になってきて「大人になるまでこれが続くのか......!」って思うとじわじわきています......

中庭:改めて親の責任を感じたのね(苦笑) 直後に絶望したタイプと、じわじわきたタイプ、あなたたちって本当に両極端!

「自分は何を大事にして生きて生きたいか」を筆頭に

ママクリエイターに欠かせない5つのマインド

(左)中庭さん

編集部:ママとクリエイター、両立に欠かせないマインドってなんでしょう?

新井:「自分にとって何を大事にしたいのか」これを明確にすることが一番大事だと思います。クリエイターに限らず、ママとして働く時に「家族との時間を大切にしたい人」は仕事との付き合い方を考えないといけないですし、「仕事での野心を捨てたくない人」は家庭とのすり合わせをしないといけない。そこが不明確な状態で働こうとすると辛いと思う。

編集部:わかります。周りの声に羨ましくなってその都度、揺れてしまう......

新井:私は改めて「仕事が好きだな」と気づきました。そのために家族とはどう時間を使うかでクリアになっています。

三上:まず「プロフェッショナルの自覚を持ち続けること」と「諦めないこと」。時間ないしこの程度でいいや、と思ったらそれで終わり。それって「自分にとって大事なものが何かがわかっているか」と同じことですが。あと「周りから何か言われても気にしない」。そんなに小さい頃から預けてかわいそう、みたいな意見も気にしません。幸せかどうかを決めるのは子ども本人なので。

新井:業務的なところでは「インプットに対する意識」も大事。今までインプットにも24時間自由に使えた。限られた時間でどれだけインプットするか。

編集部:ちなみに最近はどんなインプットを?

新井:機会があったら社外のアイデアソンやワークショップに顔を出すようにしています。訓練の場にもなるし人脈作りにもなる。

三上:私は、土日によく展覧会に行きます。最近の美術館って、子連れでも意外と入りやすいですし、大きな公園が隣にあったりするので子どもと一緒に楽しめる。あとは絵本が好きで、五味太郎さんや駒形克己さんの作品を見ては感動しています。閲覧用と保存用、2部買いしています(笑)

編集部:デザイナーさんならではの視点ですね。でも、子どもの存在が仕事に生かせている部分、ありますね!

三上:めちゃくちゃありますよ! 子どもって相当クリエイティブな存在ですから。今、特にイヤイヤ期に入りかけているので、どうしたらお風呂に入ってくれるのか、どういう声かけしたら食べてくれるか...... とか結構、アタマ使います。

新井:コミュニケーション能力鍛えられるよね、相当。

編集部:あと待つ姿勢と忍耐力。焦らせても誰も得しない...... とか。

新井:怒ればうまくいくって訳じゃない...... とか(笑)

三上:理不尽を受け入れる...... とか。皆、結構鍛えられていますね。(笑)

クリエイティブは"効率化"では解決できない

「もう一歩、その先」をどう体現化していくか挑戦中

編集部:理想と現実のギャップを感じることは?

三上:今までの理想は「効率よく、良いアウトプットを出すこと」と思っていたのですが「それって本当に理想なの?」って思い始めて。そもそもクリエィティブって効率じゃない。「もう一歩、その先」と考えちゃうんです。でもその先はエンドレスですよね。そう思うと効率化って必ずしも意味を持たないって思えてきて。

でも、巷に溢れているワーキングマザーの情報には「どう効率化して、どうタスクを割り振って」という話ばかり。でもクリエイティブの本質はそこにはないから、それは私たちが体現しないといけない。

中庭:毎日壁にぶち当たっていますよ。理想と現実のギャップって一分一秒ごとに訪れるし。そこへ日々、挑戦です。

編集部:そういったギャップを埋める意味でも、チームになれてよかったですか?

新井:以前はママであることが弱みだったので、それが今なくなったことが強み。純粋に私の能力や意見に対して、良し悪しの話ができるのが有難いです。

三上:ここだとママが固まっているという強みはありますよね。クライアントにも「何かあっても穴は開きませんよ」って言える。あと、私にとってここに属していることがインプットなので、新しい視点で刺激になるのでよかった。

新井:働くママの大きな流れは、確実に市場を生んでいます。その当事者である私たちが作る、ってところでストーリーが作りやすいですし、その中で存在感が出せればなと。

編集部:最後に、一人で悩んでいるママクリエイターたちがたくさんいると思うのですが一言アドバイスを!

三上:どの部分で悩んでいるかがわかれば対策できますが、一人で考えこむとそこが分からなくなる。そう言う意味でもぜひ、一緒にみんなで頑張りましょう、そしてぜひ繋がりましょう。

編集部:お忙しいところ、ありがとうございました!

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色々な制約がある中で、効率化だけでは解決できない「その、一歩先」の高みを目指して、日々挑戦し続けているママクリエイターたち。山あり谷ありを経験されているので、揺るぎない芯の強さを感じました。最後に「繋がりましょう!」の言葉にもありましたが、5月後半にmom.entが主催する、初めてのセミナーイベントが開催されます。今回お話を伺った三上さんも登壇されます!(laxicでは当日の様子を取材させて頂きます)

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取材・文・撮影/飯田りえ

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ワーママを、楽しく。LAXIC

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