くっきり役割分担しなくてもいい、大切なのは背負わず抱え込まず「ふたり同時に親になること」 著者・狩野さん×出版社代表・古川さん対談

「産後」だから家事育児が完璧にできないのは当たり前って知ってほしい(狩野さん)

ラシク・インタビューvol.108

『ふたりは同時に親になる 産後の「ずれ」の処方箋』著者 / patomato主宰 狩野 さやかさん

猿江商會(出版社)代表 古川 聡彦さん

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以前、LAXICのインタビューでも産後クライシス、夫婦2人での育児について話してくれた狩野さやかさんが初の著書「ふたりは同時に親になる」を出版されました。

産後の夫婦間のモヤモヤについて、ウェブサイトでの執筆やワークショップを通じて狩野さんが発信してきたものの集大成ともいえる本著は決して夫を糾弾するわけでもなく、妻を擁護するだけでもない、ニュートラルかつフラットな視点で綴られています。

編集・出版を手がけた猿江商會の古川聡彦さんが狩野さんの主宰するワークショップに参加する中で、狩野さんの問題意識をもっと広めたいと感じて本の出版をすすめたそう。

プライベートでは2人のお子さんのパパでもある古川さんとともに狩野さんと改めて「夫婦間のモヤモヤの本質」はどこにあるのか語り合ってみました。

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ワーママだから、専業主婦だからじゃない

「産後」だから家事育児が完璧にできないのは当たり前って知ってほしい(狩野さん)

狩野 さやかさん(以下、敬称略。狩野):本の執筆について最初古川さんからオファーを受けたときは、ワーママ向けの本にしたらどうかって提案されたものの、私の問題意識はそこじゃないということで譲れなかったんです。

私が主宰しているワークショップに来てくれる人や話を聞いた人は、育休中だったり、妊娠出産を機に一度仕事を辞めてしまって今は専業状態という人が多くて、その大半が「家事育児は自分がやらなきゃいけないと思うんだけど」とか「うちの夫は結構やってくれてるほうだから、恵まれてるのかもしれないんだけど」って遠慮しつつも、何かモヤモヤしている様子を感じていました。

また、純粋な専業主婦の人ほど、「よその家庭はどれくらいパパが家事育児をやってくれるのか分からなくて頼みづらい」とか「夫と言い争うくらいなら言いたくない」って飲み込む傾向が強いんです。

今は「私も働くからあなたも家事育児をやってね」っていうワーママからの意見が主流になってきてるけど、それが強くなればなるほど、フルタイムではない働き方だったり、専業なんだけど夫と一緒に育児してる感が欲しいっていう人は頼れるものがなくなっちゃってるなって感じてきました。

働いているからではなくて「産後」っていうだけで相当ストレスフルな状態なんだから、家事育児が完璧にできなくていいし、ひとりやりきれるようなものじゃないんだってことを誰かが言わなきゃいけないと思ったんです。著書でも示しましたが、産前産後の女性の環境変化はあまりにも劇的で相当危険な分量なんです。

女性は子どもができてたくさん変化せざるをえない一方、男性は何の制約も受けずに仕事を優先にしていられることや、それについて不満を口にしたとき「じゃあ俺が仕事しなきゃどうするの?」って持ち出されることが一番つらいし、モヤモヤしてるんじゃないかと思います。

だから夫が同じだけ家事を負担するとかではなくて、「僕も制約を1つ受け止めました」ってことが分かれば女性の納得感も上がるんじゃないかって思うんですよね。たとえば2次会まで行ってた飲み会を1次会で切り上げるとか、逆に子どもの寝かしつけが終わって、2次会から参加するとか。小さなことでいいから「痛み分け」するという発想です。

会社員だって、仕事中にサボることもある。だから「私は家にいるのに」なんて引け目に感じる必要はないんです(古川さん)

編集長 宮崎(以下、編集長略。宮崎):その一歩が出ない男性が大半なんじゃないかって気がします。

共働きであることについては賛成、共感しているつもりだけど、自分が制約を受けない範囲でやってほしいと思っているような。

古川 聡彦さん(以下、敬称略。古川):我が家は保活の時期に、認証保育園の待機が100何人もあるって状態で妻が途方に暮れてしまうということがありました。ただ、僕はその状況下でできることは限られているから粛々とやるしかないって思っていたんだけど、妻からしたら「保育園が決まらなくて私が復職できなくなったら、あなたが代わりに育休取って家で子どもを見てくれるの?」って言いたかったかもしれない。

いま話題になっている「見えない家事」もそうだけど、女性が割りを食う部分が産後は無数にあるなって思います。

狩野:男性がどこまでも「サイド」で、無傷でいられる余裕は何なの?って思う気持ちはちょっとずつ色んなところで積もっていってアンフェア感に繋がっていってる気がします。とは言っても、私は著書の中で決して「男性も育休を取らないとダメだ」とは言ってないんです。そう言い切ってしまったらスタートラインにすら立てない人がほとんどだから。

そこまでできなくてもちょっと定時退社することを意識してみるとか、普通に関わることで「戦力」になれるっていう意識を持ってほしいんです。

古川:自分に収入がないことで旦那さんにアドバンテージを取られちゃう気がするのは、仕事="9時から17時まで会社にいること"と捉えている延長線上にあるのかなって思います。

旦那さんが会社にいる時間に自分は子どもと一緒にいて、たまたま一緒に15分うたた寝しちゃったら引け目を感じてしまうかもしれないけど、会社員だって仕事中にサボったりすることもあるわけですよ(笑)

もちろん9時から17時まで休みもせずひたすら仕事している人もいるんだけど、会社にいる間、姿が見えないと「会社員も業務中にサボってる」発想にはなりにくいのかもしれないですね。

狩野:パパだって最初から「今日から僕は毎日17時に帰ります」なんて宣言しなくていいと思うんです。

「すみませんけど今日はもう帰りまーす」って日を2週間に1回、週1回くらいのところから増やしていって、既成事実をちょっとずつ作っていく感じでいいんじゃないのかなって。

古川:変わった人は気づいたら変わっていったって感じなんだよね。「そういえばあの人最近早く帰ってるよねー」みたいな。

おむつを替えること、ミルクを作ることじゃなくて、それまでの自分と違うインターフェースを持つことが子育てだと思う(狩野さん)

狩野:くっきり役割分担っていうのはもうそろそろキツいから、女性も専業だから全部自分でやらなきゃいけないってのはもうなしにしていいと思うし。自分に「母親」としての顔しかないのは危険だと思うんですよ。もっと役割の境界ってあやふやでいい。

逆に男性も自分の生活に制約ができることで仕事以外の顔、違うインターフェースを持つチャンスだと思ったらいいんじゃないかな。

近所にこんなお店があったのか、とかバスによく乗るようになったな、とか同じところに住んでいても子どもができると動く場所とか見えるところがガラっと変わるじゃないですか。女性はそこを嫌でも経験しちゃうけど、男性はちょっとそこに自分から入っていく意識が必要かもしれない。

おむつを替えるとかミルクを作る作業じゃなくて、今までの自分とは違うインターフェースを持って周りを見て情報を選び取り判断することが子育てなんじゃないかなって思います。

古川:子育てすることで生活することにもう一度向き合うことになりますよね。

冷蔵庫にこれだけ野菜があるから、このおかずを作って、残りでお味噌汁を作って、そしたら金曜日でなくなる計算だな、とかシステマティックに物を動かしていくのも仕事にフィードバックできたりするし、タイムマネジメントの観点でもいい影響しかないんですよね。

狩野:私自身、夫が家にいて私が会社で働いていた経験も、逆に私が家にいた経験もあるんだけど、会社で働いていると「外で働いてるから仕方ないじゃない」って家でごはんを作ってくれる人に感謝をしなくなるなって身に覚えがあるんです。

そこには「家事をしていない者」としての引け目もあるんだけど、「働いているものの強さ」が想像以上に強く働いていて。それを自覚していないと仕事をしていることを盾に相手をボコボコにしてしまう。特に産後妻から責められがちな男性には、防御反応としてその強さが顕著に出るんじゃないかな。

夫婦ってすごく不器用な存在だと思うんです。他人になら腹を割って話せることでも夫婦だと意地はったり、張り合ったりしちゃうんだから。

だからこの本で「ここ、共感するんだけど相手にはなかなか言えないんだよな」みたいに思うところがあったら付箋を貼って相手に渡してみたり、2人で伝え合うツールにしてくれたらなって。

古川:お互いのことが好きって思えるなら読んでほしいなって思います(笑)

狩野:「相手には期待してません」からみたいに諦めてしまうことがカッコよかった時代もあるんですよね。男性も「妻と子供に占領されちゃってるから家庭に自分の居場所はありません」って自虐的になったりね。

編集部:「夫のことはATMと思ってます」て言っちゃったり、居場所がないダメなお父さんであることがちょっとウケる、という部分もありましたよね。

狩野:そういうの古いよ、カッコよくないよって思うけど、かといってガツガツイクメンになっちゃっても倒れちゃうだけから。

パパはパパだけで実はいろいろ抱え込んでいるし、ママは明らかにひとりで背負って抱え込んでいる。それぞれ抱え込んでいるものを意地をはらずに見せ合って、とりあえずひとりで抱え込むのを一緒にやめよう、って言えたらいいなって思います。

狩野さんの前回のインタビューはこちら

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狩野さん、古川さん、編集長宮崎、ライター真貝の4人で雑談感覚で進行していったこの日のインタビュー。

会社員としての働き方、男性育休、家事育児の理想のレベルを落とすこと、親世代からの刷り込みやとらわれ、などあらゆる方向に会話が行ったり来たりの連続で結論は出ずじまい。

これはまさに夫婦の問題を万事解決するハウツーがないということだろうなとも感じました。

私自身ももう少し、この問題について考えるべく「ふたりは同時に親になる」を繰り返し読んでみようと思います。

【狩野 さやかさんプロフィール】

株式会社Studio947のデザイナー・ライターとしてウェブやアプリの制作、技術書籍の執筆等に携わる一方、育児系ウェブ媒体に子育てにまつわるコラムを寄稿している。「ふたりは同時に親になる」をテーマにpatomatoを主宰し、ワークショップなどリアルな場づくりや情報発信をしている。著書に『ふたりは同時に親になる 産後の「ずれ」の処方箋』。HP:patomato

【古川 聡彦さんプロフィール】

光文社で写真週刊誌『フラッシュ』、女性ファッション誌『STORY』の編集、広告営業などを経て退社。その後大修館書店に入社しPR誌『辞書のほん』を創刊。15年に同社を退社し、株式会社猿江商會を設立。ひとり出版社として、現在までに8点の書籍を刊行している。HP:猿江商會

ワーママを、楽しく。LAXIC

文・インタビュー:真貝友香

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