「仕事が好きすぎる」ワーママたちへ 先輩ママからのアドバイス “突破口”の見つけ方

「とにかく上司や周囲に対して相談し、常に自分の状況をオープンに」

ラシク・インタビューvol.121

フリーランスデザイナー・アートディレクター 笠原美和さん

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仕事は大好きだけど時間足りなくてもがいている、何かを犠牲にしているので無理が生じてバランスを崩す...... 悩みを抱えながらも、なかなか自分の中でも突破口を見いだせていないワーママも多いと思います。そんな中、大手制作会社で19年アートディレクターとして活躍し、今年、フリーランスとして独立された笠原美和さんに出会いました。中学1年生になる男の子のママですが、多忙を極めるクリエイティブ業界の第一線で、ずっと走り続けて来られた笠原さん。13年前は今ともまた状況が違っていて、モデルケースもなく試行錯誤の連続だったそう。その状況をどのようにして乗り切られたのでしょうか? 少し先を行く先輩ママとして、働き方のこと、子育てのこと、中学受験のこと、独立のこと...... など教えてもらいました。

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両親の協力の元、産後5ヶ月で職場復帰するも......

編集部:現在中学1年生のお子さんが生まれた頃、今と違って制度も民間のサービスもそこまで整っていなかったと思いますが、産後はどのようにして乗り切られたのですか?

笠原美和さん(以下、敬称略。笠原):仕事がちょうど楽しくなり始めた頃だったので、子どもが生まれても「すぐに復帰する」という意思は、最初から家族に伝えていました。東京にいる義理の母が「私達がサポートするから大丈夫よ。みんなで育てましょう」と言ってくれたのが大きいです。産後5ヶ月で復帰しました。帰宅が遅くなる月4~5回は義母に泊まりにきてもらい...... かれこれ13年経ちました。長野にいる実母にもお願いすることもあります。家族のサポートがなかったら無理でした。

編集部:すごい全面サポートですね! そしてお姑さんともすごく関係が良好ですね。社内の状況はどうでしたか?

笠原:他の職種で出産して復帰している方はいましたが、アーティクトディレクター(AD)は初めてでした。私も試行錯誤、みんなノーイメージ。今の私に何ができて、どこが手伝ってもらわないといけないか、誰もわかっていなかったです。私自身もこれまでと変わらず同じペースでやる気満々でしたので、ついオーバーワークになって体調を崩し、しばらく入院という事態になってしまいました。そこでやっと気がついたのです。

編集部:無理しすぎたのですね...... それまで体は辛くなかったのですか?

笠原:当時はやりたい気持ちの方が優っていたので、全然気がついていませんでした。体力の使い方が産後、これまでとは違っていた事に気がつかなかったんです。以後は上司と相談して、年間の予定が決まっていて、スケジュールの見通しが立つ案件を担当することになりました。と言っても毎月4~5日は遅くなる日があるので、母に泊まりにきてもらっていました。時間がない時は、よく始発出勤をしていました。

編集部:始発で出勤...... ですか!?

笠原:夜は保育園のお迎えや寝かしつけがありますので、自然と朝方のスタイルに変化していきました。

編集部:クリエイティブに正解はありませんものね...... それにしてもパワフル過ぎます!

とにかく上司や周囲に対して相談し、常に自分の状況をオープンに

編集部:そこまで体を壊したら「仕事を減らそう」「退職しよう」と心が折れると思うのですが...... それでも続けられたのはどうしてですか?

笠原:とにかく、やりたい気持ちはあったのでいろいろなステージの上司たちと話しました。「今は100%できないけれど、やりたい気持ちはある。でも一回途切れるとスキルが落ちるから、何かしら続けていきたい。どうすればいいですか?」と正直に相談していました。あとはチームや協力会社の皆さんに無理をお願いしながら、協力してもらいました。私が17時すぎには帰ることはみんなが知っている状況でしたから。

編集部:現状を周囲にオープンにしていたからこそ、大変さを理解してくれていたのでしょうか。

笠原:そうですね。とにかくみんなが息子のことを気遣ってくれました。仕事仲間の集まりの場に連れて行っても、誰かしら息子をかまってくれていて。本当にみんなで育ててもらった感じです。息子も「仕事は大変そうだけどママはいつも楽しそう。ここにいるみんなママの仲間で、自分もその一員」みたいに思っていますよ。

編集部:良い環境ですね! 「迷惑かけちゃいけない」って仕事と家庭を分けてしまいがちですが、どちらも生活の一部。子どもにもチームにもオープンにする方が、笠原さんの場合は良かったのですね。他にはどんな弊害がありました?

笠原:常に時間に追い立てられているのが一番のストレスでした。17時15分までに出ないといけないのに、仕事は山積みだし、そう言う時に限って長い電話が......! といった毎日でしたので。その分、フリーランスになってからは自分の采配ができるので精神的にラクになりました。

子育てでうまくいかなかった時、まずは自分が変わってみた

編集部:子育てについて悩んだ時や、うまくいかなかった時期はありますか?

笠原:4、5歳ぐらいの意思疎通がまだちゃんとできない頃ありましたね。息子の思いも汲み取れないし、常にイライラマックス。育児は待ってくれないし、仕事もやらないといけない、17時には会社を出ないといけないし、ご飯も作らないと...... と、八方塞がりな状況でした。でも、ある時まずは「やれる範囲で、自分がやる」と割り切ったのが大きかったです。

編集部:なるほど、イライラしている時期、お子さんはどうでしたか?

笠原:子どもにすぐに伝わるんですね。子どもの行動に現れました。「お母さん、最近忙しいですか?」と保育園の先生に聞かれ、どうやら息子の情緒に直結していたようでした。

編集部:わかります、時期的なこともあると思いますが、子どもって親の感情を読み取るのが本当に早い。

笠原:それ以来、あれしてこれして、と言うよりも「私はあなたのことが大好き」と言う気持ちをまずは伝えようと試みました。常に"好き好きオーラ"を注入してみたら、スッと落ち着いてきました。この時に「子どもにあれこれ言って聞かせるより、自分が変わる方が早い」と思いましたね。「そういうとこお母さん大好きなんだよー!」って言うと、やる気も出るし心が落ち着きます。

あと、子どもと接するときは一旦仕事を置くようにしています。何か注意するときでも「君のことは大好きだよ、でも直した方がいいところもある。じゃぁどうしようか?」と、上から頭ごなしに言うのではなく、友達みたいな感覚です。

編集部:関係性が横並びですね。自分が変わった方が早いってのが、確かにそうかも...... あと「仕事を一旦置いて」というのがなかなかできない。気持ち的にもいろんなことを引っ張りながらやっているから疲れちゃう。そこのメリハリが大事ですね。

笠原:時間がないときは10分でいい。でもその10分はしっかり向き合って話を聞く。それも自分から先にその時間をもちかけよう、と思っています。出来ない時も多いのが現実ですが......

中学受験とこれからくる思春期に対して、常に自分を変えて

編集部:中学受験をされたとのことですが、働きながらサポートしてきて、実際どうでしたか?

笠原:最初は周りに流されつつ......(苦笑) 学童が終わった4年から、塾へ通い始めました。私は送り迎えができないから家からとにかく近いところへ。最初のうちは週2ぐらい、6年生になってからは週4回+自主勉強なので、毎日21時ぐらいにお迎えに行って一緒に帰ってきました。私の帰る時間をメールで連絡して、遅い日は一緒にパスタ食べて帰ろ、とか。

編集部:それにしても、息子さんは自立していますね。

笠原:まだ中1なので、自立している面とまだまだ可愛い面もありますよ。最近では、学校から帰ってきておやつを食べた後、私が仕事場にこもっていると「ママの隣にいると緊張感があるから、勉強もはかどるんだよね」といって、隣で宿題を広げています。

編集部:その新しい関係性も素敵ですね。今後、思春期も訪れてくると思いますが。

笠原:そうですね。思春期に入るとまた変わってくるだろうなぁ。どんどん子どもは成長しますから、自分も変えて色々試しながらチューンナップしていかないと。自分の思春期を振り返っても、内面のモヤモヤがやはりあったので、今から身構えています。でもこの前、疲れてソファで寝ちゃっていたら、食器を全部洗ってくれていました。

編集部:なんて優しい男子......! ご主人と子育ての話はよくされますか?

笠原:平日はなかなか時間があいませんが、週末には話をします。困った時は、私は感覚的にしか話せないことも、主人は解決に導く方法を手順踏んで説明してくれます(苦笑)

編集部:ロジック的に攻めそうですね。

笠原:図式化してスケジューリングして...まるでプレゼンみたいです(笑)夫婦ともにデザイン関係の仕事なので、息子も「空の色がすごく綺麗だよ」とか「ママ、お花が1週間以上ないよ」というような感性を持つ子に成長しています。

43歳で独立、好きだった会社を辞めることになった"タイミング"

編集部:今年の春に独立されましたが、きっかけは?

笠原:職場をやめる気は全くなく、定年までいるつもりでした。大きな会社だったので、自分が得意とする表現に専念すればいい、本当に恵まれた環境でした。

ただ、時代の変化に伴い、会社の方針もかわっていくなかで、私はADとしてこの先も活動したい、という気持ちが明確になったのです。そこで外へ飛び出てみるには、43歳はラストチャンスかなと。子どもが一生懸命勉強している姿を見ると刺激になりましたし、思い切って子どもの卒業を機に辞めることに決めました

編集部:いろんなタイミングが重なりあったのですね。

笠原:同じフィールドだけだと視野が狭くなり、自分の成長速度が落ちている気がして。もう少し広く見て、何か突破口が見えたらいいな、と。できればおばあちゃんになってもデザインの仕事を続けていたいので。

編集部:あとお子さんが中学生ぐらいでフリーランスというのも良いタイミングですね。表面的に現れにくい時期ですから、そばにいると変化に察知できますね。

笠原:そうですね。帰宅すると嬉しそうに今日あったことをバーッと話してくれます。この時間は、今までは確保できなかったので「本当は言いたいことがあったのに、自分の内に留めていたんだな」と改めて思いました。尚更、あと少しの子育ての時間を大事に過ごしたいな、と。

編集部:心の安定、身体の安定、本当に大事ですね。

子育て、仕事、自分。それぞれのゆずれないところ

編集部:最後に、仕事と子育て自分と...ご自身の中で譲れない思いがあると思います。それぞれ教えてください。

笠原:仕事に関しては、ずっとプロフェッショナルであることは妥協しない。プラス、私らしさの付加をできる中で組み込みたいですね。

子育てに関しては、頭では大事とわかっているのに後回しにしがち。「子どもの思いってその時に聞かないと、後で聞いても話してくれないんです。内に秘めている困ったところを「大丈夫だよ」ってすぐに寄り添ってサポートしてあげることができたらいいな、と。

自分に対しては、独立したいい機会だし、チャレンジする気持ちを忘れないでいたい。新しい仕事も「今から勉強!」と、ポジティブに楽しみながらチャレンジしていきたいですし、そしてその姿を家族に見てほしいと思います

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笠原さんの経歴からすると、バリキャリで思わず身構えてしまいそうですが、お話してみると物腰柔らかで、とても開かれている感じがします。「自分にできないことが多いことを自覚しているので、みんなに助けてもらっています」と笠原さん。そんな飾らないオープンさが、これまで数々の壁を乗り越えてこられた秘訣なんだろうな、と思いました。今の苦しい現状だけを考えると、心が折れてしまいそうですが、自分の気持ちを正直に周りに相談してみる、そこで助けてくれる人が出てきたり、良い方法をみんなで考えたりできるのでしょうね。いつも笑顔でいられるように、チャレンジを楽しめる前向きな気持ちもとても大切だと思いました。

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文・インタビュー:飯田りえ

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