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2016年01月09日 00時28分 JST | 更新 2017年01月08日 19時12分 JST

和歌山でポートランド流のまちづくり?住民が旗振り役の地方創生プロジェクト『有田川という未来』ARIDAGAWA2040

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子ども時代を過ごした場所が廃墟になってしまったら、切ない気持ちになりませんか? 総務省の統計によると、現在、日本人の総人口は年間27万人ずつ減少しているといわれ、保育所・幼稚園・小学校など、かつて子どもたちを育んだ地域の学び場はどんどん縮小する一方です。

和歌山県にある「有田川町(ありだがわちょう)」も、人口減少から消滅危機が叫ばれる地域。それを解決しようと「有田川という未来 ARIDAGAWA2040)」という興味深いプロジェクトがはじまりました。なんと、民間が旗振り役となって官民一体で地方創生を実現しようとしているのです。しかも、それをサポートしているのが、全米で最も住みたい都市として有名な「ポートランド」というから、なおさら驚きなのです。

和歌山の小さなまちで、いったいどんな内容が実践されているの? どうやってあのポートランドと繋がったの? その疑問を解き明かすべく、「有田川という未来 ARIDAGAWA2040」仕掛人・有井 安仁(ありい やすひと)さんにインタビューをしました。

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有井 安仁(ありい やすひと)さん プロフィール

1976年和歌山市生まれ。22歳の時、高齢者や障がい者などの自宅訪問理美容サービスを立ち上げる。現場での経験を通じて社会の仕組みをより良くする必要があると痛感し、社会的活動を展開しはじめる。27歳の時に関わった、市民活動をサポートするNPOでは事務局長、副理事長を務め退任。2012年から社会的投資をデザインする会社での取締役と、地元の公益財団法人で代表理事を担っている。

全米で最も住みたいまち「ポートランド」とは

ポートランドは、アメリカ北西部に位置する人口約60万人のオレゴン州の中核都市です。年々移住者が増え、2030年には100万人を超えると予測されています。40年前までは工業化による環境汚染から人口流出に苦しんでいましたが、立場に関わらず各住民の意見を積極的に取り入れる体制を行政が確立したことで住民が主体となってまちづくりが進み、今やまちづくりの成功事例として注目を集めているほど。DIY精神も強く、芸術都市としても有名です。

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『有田川という未来 ARIDAGAWA2040』とは

和歌山県にある人口2万7千人のまち、有田川町。この地域では年間8万2千トンの「有田みかん」が生産されています。そんな有田川は、出産適齢期を迎える若年女性の人口が急激に減っており、このままでは2040年に現在の約30%にあたる8000もの人口が減少すると予想されています。

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現状の未来を変えるために、2015年7月に発足したのがこのプロジェクト。主な活動メンバーは、みかん農家・教師・大工など地元に拠点を持つ経営者・地元出身の大学生などさまざまです。さらに役場の若手職員も大勢巻き込んで、官民一体となって取り組みを進めています。そこに、サポート役としてポートランド市開発局で働く日本人職員や、ポートランドの現地企業に勤めるマネージャー陣などが加わってアドバイスをしているのです。

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彼らは定期的にチームで集まり、まちを歩いて目で見て空気に触れ「どの場所を拠点に」・「誰に向けた」・「どんなアプローチが必要なのか」について、仮説を立てていきます。そして、地域住人から参加者を募り、ワークショップを交えた大規模なイベントを開催。まちの兆しとなりうる場所のリノベーション案や、活用方法などを地域の皆で検討していきます。そこから有志の実践部隊を新たにつくり、皆から出たアイデアの実現を進行していくという流れです。

ポイントは、これが行政発信ではなく「民間発信」だということ。20代30代の若い地域住民が旗振り役となって地域と行政を巻き込みながら、この新たな挑戦を進めています。これにより、柔軟な発想で試行錯誤をしつつスピーディに取り組むことができ、また当事者として地域に向き合うべき同年代の関心を多く集めることができているのです。

廃園が予定されている保育所をまちの拠点に

では、実際どんな活動が行われているのか。先日開催されたイベントをひとつご紹介しましょう。2015年10月25日(日)、地域住人を巻き込んだワークショップ企画として、翌3月末に廃園予定の田殿保育所にて、この場の新たな活用アイデアを出し合うイベントが開催されました。

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参加人数は午前と午後の部を合わせて総勢80名。20代から40代を中心に、小さな子供を連れたお母さんから建築関係の自営業のひとや公務員まで多様な人たちが集まり、4つのテーブルに分かれてアイデアを出し合います。ポートランドからは、海を渡ってはるばる7名のサポーターたちが有田川まで駆けつけてくれました。

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テーブルの上には、有田川のみかんと、アイデアの活性化を促せるようにとポートランドチームが用意した様々なキットが並びました。通訳担当の大学生ボランティアスタッフとともに、ポートランドメンバーが各テーブルに参加して進行をサポート。「こんなのあったらいいね!」という前向きな意見をどんどん出し合って書き出していきました。

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ポートランドチームの姿勢から学ぶ2つの大事なこと

ワークショップという全員参加の意見交換の場を通じて、ポートランドチームが自らの姿勢をもって教えてくれたことはたくさんありました。その中でも特に、ぜひ皆さんにお伝えしたい点が2つあります。

1つ目は、異なる視点を積極的に取り入れること。実際にポートランドでも、富裕層からホームレスまで多様な立場のひとたちの意見を取り入れることが重要とされています。皆に愛される地域づくりには一部の立場からではなく、それぞれの立場から感じる意見を持ち寄ることが大切なのです。

そうはいっても、参加者の年齢や職業によって、どうしても立場が偏ってしまうもの。そこで、今回のワークショップで用意されたのが「役割カード」です。束になったカード一枚一枚に、企業家・主婦・おじいちゃん・病院の先生・ニートな若者などと異なる役割があらかじめ記載されており、一人一枚カードを引きます。普段の職業や立場の違いだけでなく、普段とは異なる立場にあえて思考を転換させることで、さらに多面的な発想が膨らむようにする仕掛けの一つです。

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2つ目は"今からできることは何か"を考えるということ。「保育所は来年3月に廃校する」と聞くと、思わず4月以降のことを考えてしまいそうですが、ポートランドチームが提案したのは「まずは今からできること。例えば保育所が終わった夕方以降の時間帯からできることを考えてみよう」という発想だったのです。固定概念を取り払うことで可能性は広がる。いつかではなく今からできることはたくさんあるのだと、彼らは教えてくれました。

彼らのアイデアを受け、参加者からは「近隣のおばあちゃんたちに教わって夕方はお料理教室がしたい!」や「夕方以降のマーケットイベントを開催して、この場に対してワクワクする印象を今からでも発信しよう!」という柔軟なアイデアが膨らんでいきました。

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ポートランドと有田川はどうやって繋がったのか

このプロジェクトの活動内容を知れば知るほど、「どうやってポートランドとつながったの?」とさらに不思議に思えることでしょう。人口も文化も全く異なるこの2つの地域が共通しているのは、"住民を主人公に官民一体となって地方創生を"という方向性です。そのはじまりは意外にも「みかん」にありました。

2012年秋、みかんを題材にした映画が撮影されました。そして、舞台として選ばれたのが有田川。その監督が有井さんの知人だったことから、資金集めのサポートをすることになりました。有田川の企業家たちに会って協力者を募るうちに、有井さんは有田川に住む地域住人の魅力に気付きました。

「こんな未来をこの地域で一緒につくりませんか」と説明を重ねるうちに、「そんなことがうちのまちでできるなら一緒にやろうじゃないか」と、賛同し応援してくれるひとたちが続々と現れはじめたのです。新しい未来の挑戦に対して、センス良く前向きに応じる彼らの姿に、有井さんはこの地域の素晴らしさを感じました。

ちょうど同時期、有井さんは個人的にポートランドのまちづくりに関心を持ち、東京で開催されたポートランド市開発局の山崎 満広(やまざき みちひろ)さんが登壇されるイベントに参加していました。そこでの出逢いをきっかけに、有井さんと山崎さんは意気投合し、縁が続いていきます。

何度か再会するなかで、山崎さんから今年の春「次をラストチャンスとして、日本のどこかの地方創生に関わりたいと思っているんだ。どこが良いと思う?」と相談を受け、これはぜひ地元和歌山県のどこかでと思案したそうです。その時、有井さんの頭に浮かんだのは、有田川に住むあの日の彼らの顔でした。

地域のひとたちが大切に育てたみかんがはじまりの縁を運び、今回のプロジェクトへと結びつきました。

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有田川の未来が、日本と世界の未来に繋がる

縁がはじまりだとしても、なぜ大都市ポートランドが有田川という小さな地域に着手することを決めたのか?と一見不思議に思えるかもしれません。しかし、有井さんや山崎さんをはじめとするプロジェクトメンバーが変えようとしているのは、有田川の未来だけではないのです。

有田川という消滅可能地域として叫ばれるまちで「民間発信で官民一体となり地方創生を行う」という新たな取り組みが実現すれば、国内の消滅可能地域を救う一つの解決策を提案することができるようになります。さらに、他の先進国も恐らく今後同様の課題を抱えると想定すると、世界各国の類似問題に対して新たな打ち手を提案することができるようになります。有井さんや山崎さんは、その社会的インパクトを見据え、有田川を起点に新たな事例を実現しようとしているのです。

小さく見える一歩でも、きっとどこかに繋がっていくもの。自分の地元の魅力って何だろう?こんな取り組みをはじめたらもっと面白くなるかも?まずは、そんな会話を交わすところからでも構いません。

「誰か」じゃなくて「自分」から、「いつか」じゃなくて「今」から、できることをはじめてみませんか?

さあ一緒に、未来を変えにいきましょう。

(2015年12月24日の「マチノコト」より一部修正して転載)