災害時にも医療提供を継続していくために―医療機関が策定していくBCP

広域・多職種への拡張可能なBCPのモデル作りが期待されます。

日本では歴史上、多くの大災害に見舞われてきました。近年でも東日本大震災、熊本地震などでは残念ながら多数の傷病者が出てしまいました。災害時には医療機関は傷病者の受け入れなどにおいて非常に大きな役割を果たすことになります。

災害時という非常事態においても病院はなんとかして事業を継続していかなければならないのです。災害時に医療提供を継続するために各病院が策定すべきものが事業継続計画(Business continuity planning:BCP)です。

・東京都におけるBCP策定ガイドライン

一部の医療機関がBCPのモデルケースを示していますが、全国的にはいまだにその策定は十分なものではありません。そのため、東京都では医療機関がBCPを製作するためのガイドラインを示しています。首都直下型地震における被害想定で負傷者147,600人、そのうち重傷者が21,900人といわれている東京都ではBCP策定は急務といえるでしょう。

また、東京都では2020年に夏季オリンピックを控えています。オリンピックにおいて人口が一時的に急増するとき(マスギャザリング)も医療需要の大幅な増加をもたらします。こちらは2020年東京オリンピック・パラリンピックに係る救急災害医療体制検討合同委員会(委員長:森村尚登先生/東京大学救急医学教授 http://2020ac.com/ )により各学会が連携を深めています。

・医療機関におけるBCPの難しさとHealthcare BCPコンソーシアム

産業界におけるBCPがそのまま応用できるわけではないこと、地域の特性によって事業継続のあり方が全く異なることも医療機関におけるBCPを難しくしています。また、医療機関が事業を継続していくためには、医療・福祉に特化してもそれは実現できず、製薬・インフラ・物流をはじめ交通・エネルギー・通信などすべて列挙することが容易でないさまざまな機関との連携が必要です。

円滑な連携のための取組みのひとつがHealthcare BCPコンソーシアム(理事長:有賀徹先生/労働者健康安全機構理事長)です。コンソーシアムのコンセプトは「異なる視点や専門知識をもつ複数プレイヤーが参加することにより、単独では発想できない戦略・対策を創出し、実効的なHealthcare BCP 体制を構築し、日本の災害医療の先駆けとなること」です。コンソーシアムには地域包括ケアシステムの本質とも言える自助から共助・公助、さらにそれを超えた広域・多職種への拡張可能なBCPのモデル作りが期待されます。

井上祥(メディカルノート代表取締役/医師・医学博士)

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