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2015年09月17日 22時40分 JST | 更新 2016年09月16日 18時12分 JST

ネオンサインに隠された秘密

ネオン(Ne)は希ガスの中でも特に変わった性質を持つ。この10番元素が周期表の右最上段の位置を占めるべきかどうか、トゥーシャ大学のFelice Grandinettiが考察する。

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Credit: JAPAN/ALAMY

ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)といった希ガスは、全て空気中の微量成分である。「空気に含まれる」というと簡単に手に入る元素のように聞こえるが、実はこれらの希ガス元素が発見されたのは19世紀の終わりになってからだった。希ガス中で最も存在量の多いArは、1785年にはHenry Cavendishによって単離されていたが、当時彼はまだこの未知の成分が新元素だとは気付いておらず、Arの発見は1894年になってようやく、Sir William RamsayとLord Rayleighによって共同で発表される。そしてこれを機に異例の科学アドベンチャーが幕を開け、Ramsayらはその後わずか数年で、第18族の新元素をほぼ全て単離した。

これらの希ガス元素のうち、NeとKrとXeは液化空気の分留によって得られた。この工程には、William HampsonとCarl von Lindeという2人のエンジニアが発明したばかりの分留装置が使われたのだが、効率よく大量の液化ガスを生成できる新しい分留装置によって新しい元素が発見されたことは、純粋科学と応用科学とが連携した素晴らしい例といえよう。1898年6月、蒸留によってNeを含む留分が得られ、後に単離されたこの10番元素は、明るい赤燈色の光を含む特有のスペクトル線を示した。この光は現在、夜の街を明るく照らすネオンサインに使われている他、バーコードスキャナーやCDプレーヤー、レーザー眼科手術、血液細胞の解析などに用いられるヘリウムネオンレーザーにも利用されている。ちなみに、「ネオン(neon)」は、Ramsayの13歳の息子の提案で「新しい」という意味のギリシャ語「νέον」から名付けられた。

1912年、J. J. Thomsonは、イオン化したNeから得たカナル線(陽極線)が、磁場と電場を通過する際に2つの異なる軌跡をたどることを観察した。彼はその理由を、原子質量の異なる2種類のNe原子(20Neと22Ne)が存在するためと推論し、安定元素として初めての同位体を発見した。このイオンを質量で分離する技術は、間もなくArthur DempsterとFrancis Astonによって改良され、やがて現代の質量分析法へと発展を遂げる。

当然ながら、化学者たちは希ガスを反応させようと試みたが、これら初期の試みはどれも失敗に終わってしまっていた。しかしながら、これほど有益な情報をもたらした失敗は他にはないだろう。というのも、価電子殻に注目する現代の化学結合理論の基本原理は、希ガスのこの反応しにくい性質から誕生したのである。つまり、希ガスは殻が完全に満たされているために不活性である、というものだ。

けれども化学者たちは、その後も諦めずに希ガスの反応を試み続けた。化学結合が電子の共有や供与によって形成されるのであれば、希ガス元素の不活性さは、HeからNe、Ar、Kr、Xeという順に徐々に低下していくと考えるのが妥当である。実際、周期表をこの順に下っていくと、分極率は増加し、イオン化エネルギーは徐々に減少して、一般に酸化可能な分子と同等の値に達する。こうした根拠に導かれ、Neil Bartlettは1962年3月のある金曜日の午後、一人研究室にこもって六フッ化白金を用いたXeの酸化を成功させた。程なくしてXeの化学反応は次々と報告され、結果としてXeの化学は現在十分に確立されている。その後、Kr化合物が数種類、Ar化合物も1種類(三原子分子HArF)(参考文献1)が合成されているが、He化合物とNe化合物については、いまだ報告例はない。

同じように考えると、NeはHeよりも反応性が高いはずである。ところが理論研究によると、HHeF、H3CHeF、(LiF)2(HeO)、FHeX−(X = O, S, Se)といった中性種や陰イオン種は、He共有結合を持つ準安定構造ではあるが、これらの種のHeをNeで置き換えても結合を形成しないことが予測されている。こうした計算結果は、Neと中性金属アクセプターとの錯体(最近、低温マトリックス中で検出されたNeAuFやNeBeS化合物(参考文献2, 3)など)が概して類似のHe錯体よりも不安定だという事実と一致している。He陽イオンとNe陽イオンの安定性の順序が逆転している例は、この他にも複数存在する(参考文献4)。

NeはHeよりも大きく、占有されたp軌道を持つ。そのため、Neの方が静電相互作用効果が弱く、軌道反発が強いと考えられており、これらの要因がNe化合物を一般的に不安定(あるいは辛うじて安定)にしていると推測されている。しかしながら、その寄与の実態についてはさらなる研究が必要だ。つまり、Neを研究する化学者たちは2つの課題を抱えていることになる。Ne化合物を実験的に合成することと、Ne化合物について正確な理論予測を行うことだ。

周期表上でHeを第2族、つまり水素(H)の右隣、ベリリウム(Be)のすぐ上に移動させるべきだという提案がある。この提案の根拠は、最外殻に2個の電子を持つという等電子的類似性と隠れた周期的規則性の固定化で、これに従うと、He化合物よりもNe化合物の方が不安定であるということが周期表に反映されることになる。Heの不在により、Neは必然的に第18族の最上段に移動することになるわけだが、この場所は最も不活性な希ガスとしては実にふさわしい場所といえるだろう。

Nature Chemistry5, 438 (2013年5月号) | doi:10.1038/nchem.1631

原文: Neon behind the signs

doi:10.1038/nchem.1631

著者: FELICE GRANDINETTI

参考文献:

  1. Khriachtchev, L., Pettersson, M., Runeberg, N., Lundell, J. & Räsänen, M. Nature406, 874-876 (2000).
  2. Wang, X., Andrews, L., Brosi, F. & Riedel, S. Chem. Eur. J. 19, 1397-1409 (2013).
  3. Wang, Q. & Wang, X. J. Phys. Chem. A117, 1508-1513 (2013).
  4. Borocci, S., Bronzolino, N., Giordani, M. & Grandinetti, F. J. Phys. Chem. A114, 7382-7390 (2010).

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