チタン活躍物語

医薬品、塗料、化学反応、宝飾品と、Tiはあらゆる所に顔を出す。

歯磨き粉からテッベ試薬まで、チタン(Ti)のさまざまな側面をBiomedisyn社のMichael Tarselliが解説する。

チタンで覆われたスペインのビルバオ・グッゲンハイム美術館。

Credit: DIDIER ZYLBERYNG/ALAMY

私は今、軽くて丈夫なチタンフレームの眼鏡をかけて執筆している。こうした眼鏡フレーム以外にも、私たちはイヤリングや結婚指輪、あるいは骨折時に骨を固定するピンやねじなど、さまざまな形態のチタン(Ti)を身に付けることがある。酸化チタン(IV)(TiO;別名チタニア)の入った白い歯磨き粉で歯を磨いている人もいるかもしれないが、それと同じ光沢のある白色顔料は、寝室の壁の塗料や錠剤のコーティングにも使われている。また、単結晶チタニア半導体は、太陽電池パネルやタブレット型コンピューター用の材料として、近い将来定着するだろう。さらに、TiはNASAのスペースシャトルの耐熱機体に組み込まれて宇宙空間を旅したこともある(参考文献1)。

22番元素Tiは、ほぼ至るところに存在し、地殻中の存在度は9位という豊富さだ。これだけ広範に存在する元素にはインパクトのある名前が必要だが、そういった意味では、古代ギリシャの不死の巨神ティターン(Titan)にちなんだ「チタン(titanium)」という名前は、まさにふさわしいものといえよう。Tiは単離が難しく、自然界で金属状態のTiを目にすることはまずない。精製には300℃の温度とアルカリ金属還元剤が必要なため、純粋な金属Tiが容易に手に入るようになったのは、実は20世紀になってからだった。

Ti(sd)は、マンガン(Mn)やクロム(Cr)といった酸化還元の王者たちとともに、周期表では「dブロック」の上端に位置している。当然ながらTiも酸化還元反応が得意であり、通常、窒素(N)や硫黄(S)、酸素(O)などのヘテロ原子を伴って、+2、+3、または+4の酸化状態で存在する。

ほとんどの有機化学者は、Tiといえば塩化チタン(IV)(TiCl)を思い浮かべるだろう。このTiClは、アルドール反応から糖の脱保護に至るまで、さまざまな反応に関与する典型的なルイス酸である。ラジカル反応がお望みなら、還元レベルを1つ下げて塩化チタン(III)(TiCl)にすればよい。そうすれば、イミンやカルボニルからピナコール付加体が得られる。Tiの多彩な配位化学を最も顕著に表しているのが、「ハーフサンドイッチ」型錯体である。この錯体は、同時に3つの配位子を固定し、それらをまとめて短いオリゴマーを生成できるのだ。ハーフサンドイッチにもう1つアレーンを付加するとチタノセンになり、テッベ試薬やペタシス試薬などのチタノセン系試薬は、多くの合成実験室でオレフィン化に使われている。

4個の価電子を全て失ったTiはルイス酸として非常にうまく機能するが、そこに価電子をいくつか戻してやるとどうなるだろう。+4酸化状態のTiはヘテロ原子を引き付けるが、電子が増えてTi(II)になると、アルキンやカルボニルに配位して極性転換したジアニオンを生成する、といったより穏やかな側面を持つようになる。また、「低原子価」のTi(II)試薬を用いてアルデヒドからシクロプロピルアルコールを生成するクリンコヴィッチ反応は、チタンカップリング化学再興のきっかけとなった。このユニークな反応性を利用して、これまでにMicalizio、Cha、Panekの研究グループをはじめとするいくつかの研究グループが、さまざまなアルカロイド(参考文献2)やポリケチドを合成している。

こうした多才なTiがノーベル賞クラスの研究に貢献するのは、別段驚くことではない。ここでいくつか例を挙げてみよう。ZieglerとNattaのTi系オレフィン重合触媒は、安価ながら高い活性を示す。実際、合成があまりに容易なため、ポリエチレン製のボトルやごみ箱にこの触媒が数ナノグラム混入していても回収する意味がないほどだ。また、Ti錯体を用いたSharplessのエポキシ化反応では、キラル触媒によって単一エナンチオマーが生成することが証明されている。長くモリブデン(Mo)系やルテニウム(Ru)系が定着しているオレフィンメタセシス反応でも、初期の頃にはチタンカルベノイドが用いられていた。さらに、Tiはケイ素(Si)版メタセシス反応でも名声を得ることになるかもしれない。というのも最近、日本とフランスの共同研究チームによって、Ti-シリレン錯体を経たSi版シクロブテン中間体の合成と特性研究が行われたからだ(参考文献3)。

Tiは安価で存在量が多いため、上記の反応で生じたほとんど毒性のない副生成物を捨ててしまったとしても、あまり罪悪感は湧かないだろう。ところが、最近明らかになった新事実によると、そう単純にはいかないようだ。TiOナノ粒子によってもたらされる生物濃縮や土壌・水生バイオマスへの悪影響に関する研究が『Analytical Chemistry』に報告されているのである(参考文献4)。

こうした環境問題を今後抑制していくには、かつて同じ遷移金属仲間の鉄(Fe)や銅(Cu)で行われたように、Tiの化学量論反応を触媒反応に変えていくとよいだろう。実際、代表的な光触媒であるTiOが、すでに環境に優しい水質浄化方法として使われている。紫外光を照射すると、ドープTiO触媒が反応性酸素種を形成し、飲料水中のバクテリアや生物毒素を分解するというものだが、可視光を利用した同様の水質浄化方法(参考文献5)も開発され始めている。また、いくつかのグループが、Ti触媒を用いて「薬らしい(drug-like)」分子を素早く結合させる多成分反応にも取り組んでいる。

医薬品、塗料、化学反応、宝飾品と、Tiはあらゆる所に顔を出す。くしくも今年は、22番元素Tiが発見されてから222周年を迎える。チタンシリケートでコーティングしたシャンパングラスを掲げ、チタニアクリームのケーキで祝おう。最高だ!

doi:10.1038/nchem.1656

著者: MICHAEL A. TARSELLI

参考文献:
  1. http://history.nasa.gov/SP-4221/ch8.htm
  2. Yang, D. & Micalizio, G. C. J. Am. Chem. Soc. 134, 15237-15240 (2012).
  3. Lee, V. Y. et al. J. Am. Chem. Soc.135, 2987-2990 (2013).
  4. Maurer-Jones, M. A., Gunsolus, I. L., Murphy, C. J. & Haynes, C. L. Anal. Chem. 85, 3036-3049 (2013).
  5. Likodimos, V. et al. Ind. Eng. Chem. Res.http://dx.doi.org/10.1021/ie3034575 (2013).

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