波平さんとフネさんは何歳?
まんがサザエさんが、朝日新聞で連載が始まったのは1951年のことだというから筆者が生まれる前のことだ。作者が亡くなった後もテレビでの放映が続いているので、今でも多くの人に楽しまれている。しかし、サザエさんの父親である磯野波平さんが何歳か知らないかたも多いのではないだろうか。波平氏の趣味が盆栽・俳句・骨董品ということや外見から受ける印象から、筆者は、「波平氏は60代、フネさんも60近い」と思い込んでいた。
フジテレビのキャラクター紹介では、波平さんは54歳ということになっているのを知って、正直驚いた。父親の波平さんはもちろん、母親のフネさんも自分よりもかなり年上だと思っていたが、意外に年齢が若いのだ。フネさんは、「年齢は50ゥン歳」となっているが、娘のワカメちゃんが9歳、1950年頃に結婚した夫婦の年齢差が3歳程度ということを考えると50代になったばかりか、40代後半でもおかしくない。55歳定年が普通だった時代のことなので、波平氏が定年直前という設定だから54歳というのは頷ける。
隣家に住む作家の伊佐坂難物先生は60歳くらいという設定だが、どう見てももう一回り位年配の印象である。
70歳まで働く社会
政府の有識者会議は、これまで15歳から65歳までを働く世代としていたものを、70歳までを働く人として「新生産年齢人口」と呼ぶことを提言している。60歳以上の定年年齢が義務化されたのは1998年のことで、65歳までの就労もようやく定着し始めたばかりだ。厚生年金や国民年金を受給できる年齢が高くなっていくのは、ゴールがどんどん遠くなっていくようだという嘆き声も聞かれる。
1950年には20歳の男性の平均余命は45.3年だった。この時代に20歳で働き始めた男性の人生設計は、55歳まで35年間働き、65歳までの残りの約10年の老後生活を年金と退職金で維持するというものだった。2012年には20歳男性の平均余命は60.36年となっている。昔のままの55歳定年だったら、35年間の貯蓄で80歳まで25年もの老後生活を賄う勘定になるが、これはどう考えても無理だ。年金制度の行き詰まりには、人口減少や経済の低迷など様々な要因が加わっているが、寿命が延びたということが最も大きな要因である。寿命が延びたのに応じて、より長期間働くことになるのは当然だ。
文部科学省の調査によれば、2012年の高齢者の体力を、それより15年ほど前の1998年時点の人達と比べると、5歳くらい若い人と同じ程度だという。半世紀以上前の1950年代に設定されたキャラクターである波平さんやフネさんが、年齢の割には老けて見えるのは、今の同年齢の人達がずっと若々しく健康で体力があるからだ。
人生はしばしば山登りに例えられるが、働くのをやめて年金生活に入るのは、ゴールの山頂ではなくて八合目くらいに相当するのではないか。本当のゴールである平均寿命はずいぶんと延びており、山頂の標高はずっと高くなっている。昔に比べて我々の健康や体力ははるかに向上し、もっと高い山に登ろうとしているわけだ。ゴールの山頂が高い分だけ、働くのを止める八合目の位置が高くなるのは当然だ。山頂が65歳から80歳になったので、八合目も55歳から70歳になるというのは、当然のことだ。
平均寿命が長くなったということは、単に歳を取ってからの老後の時間が長くなったということではない。栄養状態の改善や医療の進歩によって、普通の人が健康で働いて生活できる期間が長くなっているのである。
人手不足経済の到来
問題はどうやって高齢者が働くかだが、これまでは高齢者と若年労働者が仕事を奪い合うという問題が指摘されてきた。しかし、現在日本で65歳を超えて引退しつつある団塊の世代は各歳の人口が220万人程度であるのに対して、これから働き始める15歳の人口は120万人程度に過ぎない。
仕事の数が一定だとすると、単純計算では現在230万人程度の失業者は毎年100万人も減っていき、数年でゼロになってしまう。高齢者や女性にもっと働いてもらわないと、我々に必要なモノやサービスが供給できなくなってしまう計算になる。日本では、人手不足経済がすぐそこまでやってきているのだ。
人生の出発点は誰も似たようなものだが、40年ほどの職業生活を経れば、経済状況も健康状態も家庭の事情もそれぞれ大きく異ってくる。高齢者に働いてもらうには、それぞれの状況に応じた多様な働き方ができるようにするなど、様々な工夫が必要だ。企業の発展や生き残りには、どうやって女性や高齢者を活用するかという工夫が重要になってくるだろう。
株式会社ニッセイ基礎研究所
専務理事
(2014年5月16日「エコノミストの眼」より転載)