-DCの発展には投資教育の実施率向上だけでなく、内容面の拡充も欠かせない
DC制度には様々な運用商品がラインナップされているが、DC制度全体で見て、預金や生保商品などの元本確保型商品に次いで資産残高が多い商品の一つに、バランス型商品がある。
バランス型商品は、国内債券、外国債券、国内株式、外国株式など、複数の資産に投資することでリスクを抑えながら長期的なリターンの向上を目指すところに共通の特徴があるが、資産配分の考え方によって、大きく3つのタイプに分けることができる。
一つは、刻々と変化する経済や市場環境に応じて資産配分を機動的に変更し、絶えず魅力的な資産の割合を高めることで長期的にリターンの向上を目指すフレキシブル型。
二つ目は、ファンド設定当初は株式など相対的にリスクの高い資産の割合を高め、時間の経過とともに債券や短資などの相対的にリスクの低い資産の割合を高めるタイプ。
ターゲット・デート・ファンドやターゲット・イヤー・ファンドと呼ばれる商品で、通常、ファンド設定から40~50年後を目標にリスクの低減を図るように設計されている。
三つ目は、資産配分が予め定められた水準に維持されるアロケーション固定型である。
3つのタイプのうち、バランス型商品の現在の資産残高のほとんどを占めるのが、わが国にDC制度が導入された当初から、多数の商品が提供されてきたアロケーション固定型だ。
アロケーション固定型は、通常、"安定型・安定成長型・成長型"や"債券型・標準型・株式型"のように、資産配分やリスク・リターン特性の異なる3本程度の商品でシリーズ化され、DCの商品ラインナップにまとめて組み込まれることが多い。
このうち、資産残高や資金流入額が最も多いのは、3商品のなかで中間的なリスク・リターン特性をもつ"安定成長型"や"標準型"とネーミングされることの多いタイプである。
このことは一体何を意味するのであろうか。
一つには、加入者が合理的に投資行動した結果であると好意的に解釈することが可能だ。仮に、多くの加入者がライフサイクル理論に沿った資産配分や投資行動をとっているとする。
つまり、退職までの期間が長い若年層の加入者は高いリスクを許容する一方、退職までの期間が短い加入者は高いリスクを許容できずに、低リスク商品を選好しているとする。
こう考えると、DCの掛金や資産額が年齢を重ねる毎に増えることを考慮しても、中間的な特性をもつ商品の資産残高や資金流入額が3商品のなかで最多であるのは、単に中間的な商品を選好する年齢域が広いこと、つまり、中間的な商品の選択が合理的となる加入者数が単に多いことを反映しているに過ぎないことになる。
これとは対照的に、加入者の商品選びにおける悩みを反映していると解釈することもできる。
アロケーション固定型としてラインナップされる商品には、ローリスク・ローリターン、ミドルリスク・ミドルリターン、ハイリスク・ハイリターンというように、リスク・リターン特性に違いがあり、加入者もこうした違いを大方認識しているものと考えられる。
しかしながら、リスクとリターンのどちらに焦点を当てるかによって、選ぶべき商品は自ずと異なる。
リスクに焦点を当てればローリスク商品が望ましいが、リターンに焦点を当てればハイリスク商品が魅力的に映る。商品性の何に着目するかで選ぶべき商品は真逆となり得るのである。
商品選びにこのような難しさが伴うなかで、加入者が中間的な特性をもつ商品に安心感を抱いたとしても不思議はない。
あるいは、"安定成長"や"標準"といったネーミングに居心地の良さを感じている可能性もあろう。
いずれにしても、加入者は必ずしも合理的な意思決定ができているとは限らず、商品選びに何らかの悩みを抱えている結果として、中間的な商品の残高が多くなっていると解釈することもできる。
他にも様々な解釈が可能だが、加入者が少なからず商品選びに悩みを感じていることは間違いないだろう。
とすれば、加入者の悩みを少しでも解消できるような投資教育の拡充が不可欠だ。
DC法の改正により、企業型DCの3割程度で未実施とされる継続投資教育が、配慮義務から努力義務へと義務のレベルが引き上げられる。罰則規定がある訳ではないが、法改正により継続投資教育の実施率向上が期待される。
ただし、単に実施率が高まるだけでは十分ではなく、内容面の充実も欠かせない。
商品選択を自ら行わない無関心層を主なターゲットとして、DC制度や運用の基礎を刷り込む教育は重要である。ただ、加入者は様々な悩みや疑問を持っており、それに応える情報提供を継続的に行っていくことも重要である。
全ての加入者がそれぞれの金融リテラシーを向上させられるような機会の提供、つまりは投資教育メニューの複層化が、DC制度の健全な発展には欠かせないのである。
Eラーニングやビデオの活用を通じた投資教育の効率的実施とともに、投資教育の内容面の拡充が図られることに期待したい。
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(2016年11月30日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
金融研究部 企業年金調査室長