2月19日、欧州中央銀行(ECB)の政策理事会の議事要旨が公開された。
この公開は2つの側面から注目を集めた。1つは、議事要旨の公開自体が、1999年1月の単一通貨ユーロ導入後、初の試みであったこと。これまで、政策理事会での議論は、理事会後のドラギ総裁の記者会見の質疑応答を通じてしか知り得なかった。
もう1つは、今回対象となった1月22日の政策理事会で、量的緩和の開始という大きな決定があったことだ。
ECBの政策理事会は、6人のECB理事とユーロ圏の中央銀行の総裁から構成される。事前の段階で、ECBの議事要旨には、米連邦準備制度理事会(FRB)や日銀、イングランド銀行(BOE)のような採決の内訳は盛り込まない方針がアナウンスされていたし、そうした点もあり、果たして、理事会の議論が、どこまで具体的に記されるのか、注目が集まっていた。
結局、18ページにわたる議事要旨は、筆者が想像していたよりも詳細なもので、主な論点を確認することができた。
例えば、追加緩和に関して、即時決定と次回(3月)までの様子見という2つの選択肢が議論された。複数の委員が、原油価格の下落や金利の低下、ユーロ安による刺激効果が見込まれるとの理由から様子見を支持した。
しかし、インフレ期待の下振れに加えて、従来の政策では目標の達成に不十分との意見が勝り、即時決定に至った。
市場は1月の決定について、そのタイミングだけでなく、月600億ユーロという事前観測を上回る資産買入れの規模と、16年9月をとりあえずの期限としつつも、インフレ率が2%以下でその近辺という中期目標に整合的なパスに調整されるまで継続するという事実上のオープン・エンドとした点も好感した。
議事要旨からは、こうした規模と継続期間に関する決定には、政策効果を高め、政策の方向を示すフォワード・ガイダンスとしての目的があったことがわかった。
また、対象資産を国債に拡張することを大多数が支持したとしつつ、その効果には制約があること、弊害があることも明記された。
追加的な効果が制約される理由は、(1)国債利回りはすでに相当程度低下していること、(2)金融機関、非金融機関のバランス・シート調整の必要があること、(3)米国のような資本市場を通じた住宅市場や社債市場への波及効果が弱いことの3つである。
国債買入れの弊害としては、(1)ユーロ参加国政府の構造改革と財政健全化の意欲を弱めるモラル・ハザード、(2)国債買入れの効果が社債や株式市場に及ぶことが価格形成をゆがめるリスクが明記された。
さらに、国債買入れから生じるECBの損失リスクは、金融政策の一体性という観点ではECBに一元化することが望ましいが、モラル・ハザード防止、さらに現在のユーロ圏の制度設計やEUの基本条約に照らし合わせれば、部分的なリスク共有化の方が望ましいという判断から20%に抑え、残りは、各国中銀が自国の国債に関する損失を負う決着となったことがわかった。
政策理事会に参加する各中銀総裁は、ユーロ圏全体の情勢を踏まえて政策を判断することになっている。これまで採決の内訳はもちろんのこと、議事要旨を公開してこなかったのも、各国中銀総裁に政治的な圧力が及ぶことを回避する狙いがあったとされる。
しかし、ここにきて一転して議事要旨の公開に至ったのは、政策理事会結果の窓口がドラギ総裁に一元化されていることに対して、ECBの緩和強化に反対の立場をとるドイツの不満が募ったことにあるとされる。
議事要旨には、中銀総裁が表明した意見については名前が明記されていないが、国債買入れの弊害などの警鐘は、主にドイツの見解と思われる。
これらを明記した議事要旨の公開は、反対派のドイツがECBの量的緩和を受け入れる上で、損失リスクの共有化比率の抑制と並ぶ最低限の条件であったように感じる。
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(2015年2月24日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
経済研究部 上席研究員