『統合型リゾート(IR)整備推進法案』(カジノ法案)の国会審議が大詰めを迎えている。
同法案は日本でカジノ実現に道を開くものだが、超党派の議員立法のため、与党・野党のそれぞれのなかでも賛否が分かれている。
訪日外国人誘致による観光立国の推進や国内経済の活性化を図るためとする一方、ギャンブル依存症や治安への影響などが懸念されているからだ。
今年度の訪日外国人はすでに2000万人を超えた。東京・銀座や渋谷などの繁華街における中国人客の"爆買い"は一息ついたが、現在でも大型のシティホテルだけではなく中小のビジネスホテルまで外国人観光客の姿が目立つ。
訪日客増加の背景には、大量のブランド品購入目的から、日本の暮らしや文化の体験を楽しむためなど、リピーター客の「モノ消費」から「コト消費」への変化が窺える。
訪日外国人は2013年に初めて1000万人を超え、わずか2年で倍増し、政府は2020年に4000万人という目標を掲げている。その実現には民泊の解禁や観光地の多言語対応、Wi-Fi環境の整備などの外国人観光客を受け入れるインフラ整備が不可欠だ。
しかし、それだけで現在の増加トレンドを継続してゆけるだろうか。
これまでも多くの日本人が海外を訪れている。しかし、近年の出国日本人数は2012年の1849万人から毎年減少しており、2015年には1621万人と初めて訪日外国人旅行者数を下回った。
日本からの海外留学生が減少している点も気がかりだ。今日の訪日外国人の増加は、これまで多くの日本人が外国へ出かけて異文化を体験・理解してきたことと無関係ではないからだ。
心にひびく"おもてなし"をするためには、欧米の先進国だけではなく、発展途上国や文化交流の少なかった国や地域の異文化に対する理解を深めることが重要だ。
また、日本にはたくさんの素晴らしい観光資源があるが、それらを海外へ伝えるために多くの日本人が海外へ出かけることも有効だ。
アウトバウンドの国際化がインバウンドの国際化を受容・促進してきたからだろう。
現在、年間外国人訪問者数が4000万人を超えている国は、フランス、アメリカ、スペイン、中国、イタリアの5か国だけだ。
日本が訪日客「4000万人」時代を実現するにはハードのインフラ整備に加え、他国の異文化理解と日本文化の普及が不可欠であり、インバウンドと同時に、アウトバウンドの推進をおろそかにしてはならない。
成熟社会を迎えた今こそ、海外での見聞をもとに異文化理解を深め、日本文化を海外へ発信する努力が、日本が将来の観光立国に至る道ではないだろうか。
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(2016年12月13日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
社会研究部 主任研究員