【はじめに】
少子化が叫ばれる中、多方面から人口問題に関する講演の話を頂くようになった。それくらい今の日本に住む人々にとって人口減少問題は注目の的であるということだろう。
しかし、いつも違和感がある。
講演において、データを示しつつ話を進めると、講演後の会場に「そこまで先行きが暗澹たるものなのか」という悲痛な声があがり動揺が広がってゆく。
まるで今までは「注目の話題」としてどこか他人事だったが、やっと「想像を超えた現実」に動揺し始めたというような「今さらながら」感である。
これまでのレポートでも指摘をしてきたが、日本における社会現象、とりわけヒトに関する話題に関しては「印象論」が横行・蔓延する傾向にある。
社会問題の施策においても、意識調査結果など定性データによって、諸策が論じられやすい傾向がある。
つまり、定量的(意識とは別のリアルな現実の数値)には漠然としてのみ捉えられているため、定量データに基づく解説を受けた途端、その問題のイメージが明確になり、はっきりと突きつけられた「リアルデータ」を前に驚愕している、という状態なのである。
日本の少子化問題、すなわち人口問題についてもやはり、根本的な定量データについて『一般の人々がイメージしやすい状態で』もっと発信がなされる必要性を強く感じている。
今回は、日本の「少子化」という、その深刻さが理解されているようで理解されているとはとてもいいがたい状況について、定量的に1つ、解説をしてみたい。
【わずか45年で、生まれる子どもの数が半数以下へ】
1947年から2016年までに、日本で生まれた子どもの数の推移を確認してみたい(図表1)。
なぜ1947年からかというと、1947年はいわゆる「団塊世代」と言われる、その年齢の人口が非常に多いマジョリティ世代の開始年となる年だからである。
団塊世代開始元年の時代には、年間約270万人の子どもが日本で生まれていた。
団塊世代の子ども世代にあたる「団塊ジュニア世代」元年は1971年であるが、その年も年間200万人の子どもが生まれている。
すでにこの段階で(24年間で)、生まれる子どもの数は前の世代の75%(200万÷268万)に減少してはいるのだが、それでもまだ200万人が生まれていた。
しかし、そこ(1971年)から45年経過した2016年には、年間に生まれる子どもの数はついに98万人、100万人を切る状態へと減少した。
団塊ジュニア元年の1971年から45年、すなわち半世紀も経過しないうちに、日本で年間に生まれる子どもの数は200万人から98万人、つまりは49%、半数以下に激減していたのである。
【総人口イメージからの早期脱却を】
図表からもわかるように、日本にはアラフィフと呼ばれる40代後半(団塊ジュニア元年生まれ47歳)から70代(団塊世代元年生まれ71歳)まで、「かつての子どもたち」が多数存在している。
実はこの中年から老年の人口マジョリティ世代が「人口減少といっても、そうでもない」といったイメージを自らの世代の人口の多さの印象から抱いているのである。
総人口で考えるのであれば、人口の減少が開始したのは2008年であり、わずか8年程度しか経過していない。
また、寿命の延長によって「かつての子どもたち」の減少スピードは緩やかである。
この「かつての子どもたち」の自らの世代の「過去の遺産」の記憶が壁となり、
「半世紀もたたずに、生まれる子どもの数が半減以下」
「年間生まれる赤ちゃんが200万人から100万人未満社会へ」
という深刻な実態が見失われがちである。
半世紀で激減した「日本の空の下に生まれる子どもたち」。いまやその数は年間100万人を切った。ちなみに2017年に生まれた赤ちゃんの数は94万人であり、前年度からまた4万人減少している。
日本の人口を緩やかに減少しているかに見える総人口でイメージするのではなく、シンプルに「生まれてくる子どもの数」の推移で考える思考が拡散されるならば、日本の空の下で育まれる命の数がどれだけ危機的な状態にあるか、気がつく人がもっと増えるのではないだろうか。
そして、少子化社会の下では、多数決(投票など)においては常に若い世代がマイノリティに追い込まれることが正確に把握され、若い世代にどれだけ不利な、また、大きな負担がかかる社会構造に傾きやすいかを理解できる人が増えるのではないだろうか。
関連レポート
(2018年4月9日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
生活研究部 研究員