2014年のPew Research Centerの調査(*1)によると、日本は「先進国(Advanced)」の中で最も幸福度が低い国の一つであり、メキシコやインドネシアといった「新興国(Emerging)」と比較して幸福度が低いと報告されている(*2)。
幸福度と一人当たりGDPの間には緩やかな正の相関が見られるが、先進国や新興国に属している国々について見てみると、日本の一人当たりのGDPは高いグループに属しているものの、その幸福度はこれらの国々の平均的な水準よりも低い結果になっているとのこと。
この報告書の中で述べられている幸福度と経済(一人当たりのGDP)の関係から考えると、幸福度が低い結果になっている理由として、1990年代のバブル崩壊後に長らく続いた日本経済の停滞や、株安・円高に起因した資産運用難といった外部環境も大きく影響しているのではないかと思われる(*3)。
本稿では、経済環境などの外的要因を個人でコントロールすることはなかなか難しいため、内的な方法論で個人の「お金」にまつわる問題について幸福度を上昇させる方法について考えてみたい。
Time Matrix(時間管理マトリックス)という考え方をご存知であろうか。
Time Matrixとは、Stephen R. Covey氏がビジネス書のベストセラーの一つである『7 Habits of Highly Effective People』(邦題:『7つの習慣』)の中で提唱した時間管理マネジメントの概念であり、日々の活動を緊急度と重要度の観点で4つの領域で表現したものである(図表1)。
時間管理マトリックスに従って時間配分をうまく行うことで、優先事項から解決していくことができると指摘している。特に第2領域の活動(緊急度が高くはないが、重要度が高いもの)に関しては、第1、3領域にある緊急度の高い活動にどうしても時間がとられてしまうことから、第2領域のための時間を意識的に予め確保するといった配分を行うべきだと説いている。
また、この時間管理マトリックスの考え方は、多くのビジネス書の中で引用されている。
例えば、『The 5 Choices: The Path to Extraordinary Productivity』(Kory Kogan, Adam Merrill, Leena Rinne著)では、神経科学的な見地から、緊急度が高い活動(第1、3領域)を行うことでReactive Brain(本能的な脳領域)がストレス下に置かれると指摘している。
よって、緊急度の高い活動に多くの時間を割くことで一時的に「充実感のある生産的な活動ができた」と感じられるものの、Reactive Brainが長時間ストレス下に置かれてしまうことから、最終的に疲労が蓄積してしまい、単位時間当たりの生産性が落ちてしまうことになる。
そこで、彼らは「できる限り、緊急度の高い活動から重要度の高い活動に時間配分をシフトするように努め、Reactive Brainを伴う活動ではなくThinking Brain(思考を司る脳領域)を伴う活動を増やすことで、日々の生活の達成感や生産性が顕著に改善する」と説いている。
つまり、第2領域(緊急ではないが重要度の高い活動)の活動に割く時間を増加させることの効用は、神経科学の見地から自己リソースの有効活用の意味で説明がつくようである。
この時間管理マトリックスの概念を「お金」の関わる活動について適用してみよう。
おそらく「金融の知識を増やすこと」や「将来の資産形成について計画を練る」といった活動が第2領域に含まれるのではないかと思われる(図表2)。
時間管理のマトリックスの概念が「お金」に関する活動にも適用できるのであれば、これらの活動に割く時間や労力を増加させて、"うまく結果が付いてくれば"、人生の達成感や生産性の向上につながるのかもしれない。
また、神経科学的な観点から、金融に関する知識の向上や、資産形成等について計画を行う際には、「本能的な脳領域」ではなく「思考を司る脳領域」を働かすことが肝要であることも忘れてはならない。
例えば、日々のマーケットの動きに右往左往してしまい、他に何も手が付かなくなってしまうようであれば、それは第2領域の活動ではなく、第3または第4領域の活動になってしまうため注意が必要である。
夏のボーナスをもらう、新社会人になって初めて給与をもらう、など「お金」に関する問題について考える時間が増えている人も多い時期ではないかと思われる。
将来の幸福度向上を意識しつつ、金融知識の向上に努めたり、長期的な資産形成の計画を練ったりするなど、時間管理マトリックスを参考に「お金」に関する活動について試行錯誤する時間を少し増やしてみてはいかがだろうか。
*1 "People in Emerging Markets Catch Up to Advanced Economics in Life Satisfaction" (Oct 30, 2014)
*2 2014年の調査によると、2007年と比較して、日本人の幸福度は微増(41 ⇒ 43)だが、新興国の幸福度(平均値)は大いに向上(33 ⇒ 51)している。途上国(「Developing」)の幸福度(平均値)は日本よりも低い(16 ⇒ 25)水準にあるとのこと。
※カテゴリ(先進国(「Advanced」)、新興国(「Emerging」)、途上国(「Developing」))については、Pew Research Centerの報告書を参照されたい。
*3 文化的な観点で、そもそも「幸福ですか?」という質問に対して、「はい、幸せです」と答える日本人が少ないのではないか、という指摘もある。
関連レポート
(2015年5月25日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
金融研究部 研究員