先般の厚生労働省の発表によれば、2014年の日本人の平均寿命は、男性80.50歳、女性86.83歳で、ともに過去最高値を更新したそうです。男性は世界第3位、女性は世界第1位であり、まさに日本は世界有数の長寿国であります。
古来より、長寿や不老不死は多くの人々の願望であり、長寿国日本の一員であることは、御同慶の至りであります。
ただ、平均寿命とは、まさしく平均の話であり、一人ひとりの人生の長さは、それぞれ区々様々です。長寿国日本ですから、百歳を超えて元気な方も多くいらっしゃいますが、事故や病気により早く亡くなられる方もいらっしゃいます。
私たちは、人の死に直面した時に、その人生の長短に関わらず、『天寿をまっとうされた』との思いを込めて、故人のご冥福をお祈りいたします。それは、『いつかは万人に死は訪れる』という冷厳な現実の中で、多くの死が天寿であって欲しいとの、私たちの祈りにも似た願いからくるものでしょう。
しかし、残念ながら、天寿と捉えることが難しいケースもあります。それは、『殺』という文字で表される、他殺(犯罪により殺害された)と自殺の二つのケースです。
冒頭で、長寿国日本は素晴らしいと述べましたが、はたして、長寿であることと、天寿をまっとうしやすいことは同義なのでしょうか。この問題を探るべく、他殺と自殺の状況について、日本とG20の国々について調べてみました。
まず、他殺者数は、日本が圧倒的に少なく、G20でトップの状況です。日本の年間の他殺者数(人口10万人あたり)は0.3人であり、第2位のインドネシアは日本の倍の0.6人という状況です。日本は、犯罪に巻き込まれずに、断トツで天寿をまっとうしやすい国であると言えます。
一方、自殺者数は、日本はかなり多く、G20で第16位という状況です。日本の年間の自殺者数(人口10万人あたり)は18.5人であり、他殺者数0.3人をはるかに上回る状況にあります。
最後に、この他殺者数と自殺者数を足し合わせた、全体状況を考えてみました。残念ながら、日本はG20諸国の中では、第13位と厳しい状況にあります。また、実数でみても、上位の国々とは大きく離されている状況にあります。
日本は、多くの人々が長寿を楽しめるようになったが、天寿をまっとうするためには、まだまだ解決すべき社会課題が山積されているということでしょうか。
関連レポート
(2015年8月26日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
常務取締役 保険研究部 部長