最近、地震・噴火による災害の記録を確認する際などに、理科年表(国立天文台編)にお世話になる機会が多い。今まで気づく機会もなかったのだが、科学に関するありとあらゆる(とは言い過ぎか)データが記載されていて、興味深い。
この理科年表、大きな構成としては、暦部、天文部から始まり、以下気象、物理/化学、地学、生物、環境の7つの部からなる。その後付録に、これまでのノーベル賞受賞者・受賞理由の一覧とか、数学公式一覧なども載っている。
さて、その理科年表のトップを飾る話題が、物理の基礎などではなく暦である、ということは、暦というものの底知れない重要性を物語るものか、と思ったら、それもあるが、むしろ天文台が暦を作成していたことが発祥だから、ということのようである。
この暦の部の冒頭は、平成28年版ならば、
「平成28年 西暦2016年(閏年) 平成28年は、年の干支は丙申(ひのえさる)である。」
から始まる。
そして最初に記載されるのが、「国民の祝日 平成28年 2016」という表なのである。全編通じて科学データ満載の本が、このように文学的あるいは行政的な話で始まるというのも、新鮮に感じる。
ということで、理科年表から拾う話題ということで、今回は、国民の祝日の話である。
国民の祝日は、「国民の祝日に関する法律」で定められている。条文は3条のみで、
第一条は法律の主旨である。
自由と平和を求めてやまない日本国民は、美しい風習を育てつつ、よりよき社会、より豊かな生活を築きあげるために、ここに国民こぞって祝い、感謝し、または記念する日を定め、これを「国民の祝日」と名づける。
第二条に具体的な16の祝日の規定(日にちと主旨)がある。
第三条が「国民の祝日」を休日とすること、そしてあとで述べるが、振替休日等の規定。これで本文はすべてという短い法律である。
それぞれの祝日の主旨は、ほぼ名前の通りであるから省略するが、意外だったのは春分、秋分の日である。このふたつは、名前からだけは想像できないので、紹介しておく。
春分の日 ・・・自然をたたえ、生物をいつくしむ。
秋分の日 ・・・祖先をうやまい、なくなった人々をしのぶ。
そして、以下が祝日の定めと、2015~2017(予定)の実際の日付・曜日である。
何を祝日とするかということについては、明治時代以降の経緯なども含め、政治が決めることであっただろう。
元日は普通に考えて1月1日で自然だとして、次の成人の日は?2000年より1月第二月曜日と定められている。ご記憶の方も多いだろうが、1月15日に固定されていた時代が長かった。1月15日は年中行事でいうところの「小正月」であり、元服の儀を行う日であったことが発祥である。
これは歴史的な慣習からきているが、あらためて主旨を考えれば、原理的には「いつでもいい」だろう。というふうに、昔からの習慣等を引き継ぐ形でその日になってはいるが、決め事であるタイプの祝日が多数派である。
それに対し、「春分の日」「秋分の日」は、祝日法上はそれぞれ「春分日」「秋分日」となっており、人の都合ではなく太陽の動きを元にした天文学上の定義(雑な言い方をすれば、昼と夜の長さが同じ日)としているので、日付は年によって違うことがある。日付を動かせないのはさしあたって「元日」「天皇誕生日」だけか?
では「建国記念の日」と「憲法記念日」はどうか。「記念日」と称するからには、やはり動かせないイメージだろう。憲法記念日は、日本国憲法の「施行」日である。創設の過程では「公布」日(11月3日)のほうがいいという主張もあったようだが、このへんは政治的な話も関わってくる。
建国記念のほうはもっと事情が複雑で、ここで軽々しく書くことができない。2月11日は、もともと紀元節という、建国神話に関わる祭日とされていた。
その後創設の検討過程において、建国「記念日」ではなく、建国「記念の日」と「の」を入れることによって、歴史的事実としての建国日にこだわらず、一般論として建国を祝うことで、政治的に決着したとのことである(1967年より適用)。
いわれてみれば、現在「の」が付く祝日は、日付が変動するか、決め事でどこでもよいもの。付かないものは日付をうごかせないもの、のようにみえる。
さて、日常会話では、「明日は祭日だから云々」というように、「祭日」という言い方もする。
これは、現在の祝日法が1948年にできるまでは、その前身の法律(休日ニ関スル件)によって皇室関係の祭日(紀元節、神武天皇祭、春季・秋季皇霊祭など)も休日にすると定められており、その名残である。(なお、理科年表にも当時は祝日と祭日が記載されていたらしい。今は祝日のみ記載されている。)
振替休日の規定については、まず祝日法第三条2項にある「「国民の祝日」が日曜日に当たるときは、その日後においてその日に最も近い「国民の祝日」でない日を休日とする」に拠る。
通常それは翌月曜日となるが、上表で見るとおり、2015年は、5月3日(日)、4日(月)、5日(火)が祝日であり、5月3日の憲法記念日の振替休日が6日(水)となった実例がある。
また、祝日法第三条3項に、「国民の休日」が規定されている。
「その前日及び翌日が「国民の祝日」である日(「国民の祝日」でない日に限る。)は休日とする。」とあり、これを「国民の休日」と称して祝日とは区別する。これも2015年にその例がある。
9月21日(月)が敬老の日、9月23日(水)が秋分の日だったので、あいだの22日は休日となった。(確認はしていないが、次のこうしたケースは2026年9月22日らしい。かなり珍しいことか?)
振替休日、国民の休日の規定は年間の休日数に影響する。
2016年の祝日には土曜日が重ならなかった。来年、2017年には4回も土曜日と重なるようだ。振替休日の規定が、日曜日だけを対象としていることから、土日が休業日の会社等だと、土日以外の休みが4日減るわけである。
仕事の休みの日はそれぞれなので、関係ない人には申し訳ないが、影響を受ける方も多いのではないか。(ついでに、1月2日が振替休日とされても、もとから休みの人が多い?)
ちなみに、2016年の土日は104日、土日以外の休みは16日であるのに対し、2017年の土日は105日、土日以外の休みは12日となる。どう感じるだろうか。なお、2017年のゴールデンウィークは3日(水)~7日(日)が5連休となる。
最後は、けしからんことに祝日本来の意義も忘れ、休日の話になってしまったようで、申し訳ない。
関連レポート
(2016年11月1日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
保険研究部 主任研究員